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第4話 幼馴染が勝手に作った「俺専用の予定表」

琴葉の持っていた鍵はどこのなのか一。予定表に振り回される拓海はどのような選択をするのか。第4話スタート!!

翌朝。

「……拓海ー」

「……ん」

「起きてー」

「……あと五分」

「もう五分経ったよ?」

「……早すぎない?」

「十分くらい前から起こしてるんだけど」

「……」

俺は重たい瞼を開いた。

ぼんやりとした視界に、見慣れた天井。


そして、

「……」

俺の顔を覗き込んでいる琴葉。

「……おはよう、拓海♡」

「……」

「どうしたの?」

「いや」

俺はゆっくり布団を頭まで被った。

「夢だと思ってもう一回寝る」

「夢じゃないよ?」

「夢であってくれ」

「ひどい」

布団の上から琴葉がぽすぽすと叩いてくる。

「ほら、起きて」

「何時?」

「七時」

「……まだ大丈夫だろ」

「朝ご飯できてるよ」

「……」

俺は一瞬で布団から出た。

「おはよう、琴葉」

「おはよう♡」

「朝飯何?」

「拓海の好きなやつ」

「お前、俺の家の冷蔵庫を自由に使うなよ」

「お母さんに許可もらったよ」

「母さん!?」

一階から声が飛んでくる。

「拓海ー! 琴葉ちゃん手伝ってくれたわよー!」

「なんでだよ!」

「いいじゃない!」

「よくない!」

琴葉は楽しそうに笑っている。

「ほら、早く着替えて」

「……」

「学校遅れるよ?」

「お前、完全に俺の母親みたいになってない?」

「じゃあ、お母さんって呼ぶ?」

「絶対嫌だ」

「じゃあ琴葉で」

「最初からそうしてくれ」

琴葉は満足そうに笑った。

「うん。じゃあ、今日もよろしくね」

「……何を?」

「一日」

「一日?」

「うん」

琴葉は、当たり前のように言った。

「今日もずっと一緒」

「……」

嫌な予感がした。

だが、

この時の俺は。

それが昨日よりもずっと大変な一日になるとは、まだ知らなかった。


「……なあ」

「なに?」

学校へ向かう道。

俺の隣には、当然のように琴葉がいる。

「昨日の夜、俺に何か送った?」

「うん」

「『明日の朝、起こしに行ってもいい?』ってやつ」

「うん」

「どうやって家に入った?」

「普通に」

「普通にじゃ分からないんだけど」

琴葉は首を傾げた。

「お母さんが開けてくれたよ?」

「……」

俺は黙った。

「母さん……」

「どうしたの?」

「いや、何でもない」

もう考えるのをやめた。

母親と琴葉が組んだ時点で、俺に勝ち目はない。

そう判断した。

「そういえば」

琴葉が俺を見る。

「今日、放課後空いてる?」

「……」

やっぱり来た。

「何するんだ?」

「秘密」

「昨日もそれ言ってたよな」

「昨日は遊園地だったでしょ?」

「だから今日は?」

「秘密」

「絶対何か企んでるだろ」

「企んでないよ?」

「その顔は絶対企んでる」

「どんな顔?」

「楽しそうな顔」

「だって楽しみだもん」

「何が?」

「拓海と一緒にいられること」

「……」

さらっと言われると、返事に困る。

俺が黙っていると、琴葉は俺の顔を覗き込んだ。

「照れた?」

「照れてない」

「耳赤いよ?」

「朝だから!」

「何それ」

琴葉が笑う。

……

最近、こういうやり取りが増えた気がする。

昔から琴葉は距離が近かった。

けれど、

最近は、それが少しだけ違う。

「……」

俺は横目で琴葉を見る。

楽しそうに歩いている。

いつも通り。

本当にいつも通りなのに。

なぜか、昨日の言葉が頭から離れなかった。

――拓海の毎日の中に、私をいっぱい増やす。

「……琴葉」

「なに?」

「昨日言ってたこと」

「うん?」

「俺の毎日を、琴葉でいっぱいにするとか」

「ああ」

琴葉は嬉しそうに笑った。

「覚えてたんだ」

「忘れるわけないだろ」

「嬉しい」

「……あれ、本気なのか?」

「うん」

即答だった。

「……」

「だって好きだから」

「……」

またそれだ。

琴葉は、俺がどう反応すればいいのか分からない言葉を平然と投げてくる。

「俺はまだ――」

「知ってるよ」

琴葉が遮った。

「まだ、私のことを恋愛的には好きじゃない」

「……」

「だから頑張るの」

琴葉は笑った。

「拓海が私を好きになるまで」

「……」

「待つだけじゃなくて」

その笑顔が、

少しだけ怖かった。

「私から行く」

「……ほどほどにな」

「うん」

琴葉は頷いた。

「ほどほどにするね」

「……」

絶対信用できない。


教室に入った瞬間。

「おはよー!」

「おう」

「……」

俺は立ち止まった。

自分の机を見る。

そこには、

一枚の紙が貼られていた。

『柊拓海・本日の予定』

「……は?」

俺は紙を剥がした。

そこには、


朝――琴葉と登校。

一限――授業。

二限――授業。

三限――授業。

昼休み――琴葉と昼食。

四限――授業。

五限――授業。

放課後――琴葉と一緒に帰宅。


「…………」

俺は紙を握り潰した。

「琴葉」

「なに?」

「これは?」

「予定表」

「見れば分かる」

「じゃあ何?」

「何で俺の予定をお前が決めてるんだよ!」

琴葉は不思議そうな顔をした。

「だって、拓海の予定知らないと困るでしょ?」

「何に?」

「一緒にいるために」

「そこまで管理する必要ないだろ!」

「管理じゃないよ」

琴葉は笑った。

「共有」

「言い方変えただけだ!」

すると、

「おー、柊」

佐藤が近づいてきた。

「何だそれ」

「見ろよ」

俺が紙を見せる。

佐藤は一通り目を通して。

「……」

「どう思う?」

「愛されてんな」

「感想が軽い!」

佐藤は紙を返してくる。

「まあいいじゃん」

「よくねえよ」

「昨日遊園地楽しかったんだろ?」

「まあ……」

「じゃあ今日も一緒にいれば?」

「お前な……」

俺が睨む。

すると佐藤は、少しだけ真面目な顔になった。

「でも」

「ん?」

「昨日の帰り、水城から連絡きたぞ」

「琴葉から?」

「ああ」

「何て?」

佐藤はスマホを取り出した。

「『明日の放課後、拓海を空けておいて』って」

「……」

俺は琴葉を見る。

「お前」

「なに?」

「俺の予定、勝手に空けたのか?」

「うん」

「何で?」

「必要だから」

「何に?」

「それは――」

琴葉が笑った。

「放課後のお楽しみ」

「……」

佐藤が俺の肩を叩く。

「頑張れ」

「お前、他人事だと思って!」

「実際他人事だし」

「裏切り者!」

「昨日も言ってたな、それ」

佐藤は笑いながら自分の席へ戻っていった。


俺は琴葉を見る。

「……本当に何するんだ?」

「まだ秘密」

「教えろ」

「ダメ」

「琴葉」

「ダメ」

「……」

「拓海」

琴葉は俺の手を取った。

「楽しみにしてて?」

「……」

こういう時の琴葉は。

絶対に何かある。


昼休み。

「いただきます」

「いただきます」

俺と琴葉は、いつものように弁当を広げていた。

「はい、拓海」

「今度は何だよ」

「今日のお弁当」

「普通だろ」

「よく見て」

俺は弁当を見る。


卵焼き。

唐揚げ。

野菜。

ご飯。


「……普通だな」

「違うよ」

琴葉は卵焼きを箸で持ち上げた。

「ハート型」

「……」

確かに。

卵焼きが、微妙にハート型になっている。

「だから?」

「だから、拓海への愛情がいっぱい」

「卵焼きに愛情を詰めるな」

「じゃあ食べない?」

「……食べる」

「ふふ」

琴葉が嬉しそうに笑う。

俺が卵焼きを口に入れる。

「……うまい」

「本当?」

「ああ」

「もう一個食べる?」

「食べる」

「はい」

「……」

何だろう。

こういうのは。

嫌じゃない。

むしろ一

「……」

俺は箸を止めた。

「どうしたの?」

「いや」

最近、琴葉と一緒にいる時間が増えた。


朝も。

昼も。

放課後も。

家でも。


そのせいか。

琴葉といることが。

少しずつ。

「当たり前」になってきている。

「……」

昨日、琴葉が言った。


――当たり前にするの。


まさか、

これのことなのか?

「拓海?」

「……なんでもない」

「ぼーっとしてたよ?」

「考え事」

「私のこと?」

「違う」

「残念」

琴葉は頬を膨らませた。

「じゃあ、私のこと考えるようにしないと」

「努力の方向がおかしい」

「じゃあ、もっと一緒にいればいいね」

「何でそうなるんだよ」

「簡単だよ?」

琴葉は笑った。

「一緒にいる時間が増えれば、私のことを考える時間も増えるでしょ?」

「……」

理屈が強引すぎる。


そして放課後。

「拓海」

「……」

俺は教室の時計を見る。

午後四時。

琴葉が俺の机の横に立っている。

「帰ろ?」

「……どこに?」

「秘密」

「またか」

「うん」

「せめてヒント」

「あるよ」

「何?」

琴葉は俺の耳元に近づいて。

「拓海が好きそうな場所」

「……」

「それから」

琴葉は少し離れる。

「私が拓海と二人きりになりたい場所」

「後半の方が重要だろ」

「バレた?」

「バレるわ」

俺は鞄を持つ。

「……分かった」

「本当?」

「ああ」

「やった」

琴葉が嬉しそうに笑う。

俺たちは教室を出た。


その直後。

「……」

廊下の角から佐藤が顔を出した。

「……頑張れよ、拓海」

「聞こえてるぞ!」

「お幸せにー!」

「だから違うって!」

琴葉は俺の隣で笑っていた。


駅とは反対方向。

「……こっち?」

「うん」

「学校から結構離れてるけど」

「もう少し」

「何なんだよ」

「秘密」

「何回言うんだよ」

琴葉は楽しそうに歩いていく。

しばらくして。

見覚えのない住宅街に入った。

「……?」

俺は足を止めた。

「琴葉」

「なに?」

「ここ、どこ?」

「もうすぐ」

「いや、そうじゃなくて」

俺は周囲を見る。


古い住宅。

新しいマンション。

小さな公園。


そして。

その中に。

一軒の小さな建物があった。

「……ここ?」

「うん」

琴葉が鍵を取り出す。

「……」

俺は、その鍵を見る。


昨日の夜。

夢かと思った。

琴葉が家の外で握っていた。

あの鍵。

「お前……」

琴葉が鍵を差し込む。

カチャリ。

扉が開く。

「入って?」

「……何ここ」

「秘密基地」

「は?」

琴葉は笑った。

「私たちの」

「……」

俺は中を見る。

小さな部屋だった。

机が二つ。

ソファ。

本棚。

冷蔵庫。

そして壁には。

「……写真」

俺と琴葉の写真。


小学生の頃。

中学生の頃。

最近撮ったもの。


「おい」

俺は一枚の写真を手に取る。

「これ、いつ撮った?」

「昨日」

「昨日!?」

遊園地で。

俺が気づかないうちに撮られていた写真だった。

「お前、いつの間に……」

「いっぱい撮ったよ」

「いっぱいって……」

俺は壁を見る。


写真。

写真。

写真。


全部、

俺と琴葉だった。

「……」

琴葉は嬉しそうに笑う。

「ここね」

「……」

「前から作ってたの」

「前から?」

「うん」

琴葉は部屋の奥へ歩いていく。

「拓海と一緒にいられる場所が欲しくて」

「……」

「学校だと、先生がいるでしょ?」

「そりゃいるだろ」

「家だと、お母さんがいる」

「普通だな」

「外だと、佐藤くんとか山本さんがいる」

「友達だからな」

「だから」


琴葉は振り返った。


「誰にも邪魔されない場所」


「……」

俺は言葉を失った。

「ここなら」

琴葉が笑う。

「二人でいられるよ」

「……琴葉」

「なに?」

「これ、いつから?」

「ちょっと前」

「何で作った?」

「拓海ともっと一緒にいたかったから」

「……」

俺は部屋を見回した。


確かに。

危険なものがあるわけじゃない。

ただの小さな部屋。

ただの秘密基地。

それなのに。

妙な圧迫感があった。

「……俺、聞いてない」

「うん」

「勝手に作ったのか?」

「うん」

「……」

俺はため息をついた。

「お前さ」

「なに?」

「俺の知らないところで、色々やりすぎじゃないか?」

琴葉は黙った。


そして、

「……嫌?」

「え?」

「ここ」

琴葉の笑顔が消えていた。

「嫌だった?」

「……」

俺は答えに詰まった。


正直に言えば。

怖い。

昨日からずっと。

琴葉の行動は少しずつエスカレートしている。


でも、

「……嫌っていうか」

「うん」

「びっくりしてる」

「……」

「こんな場所まで作ってるなんて思わなかった」

琴葉は、少しだけ俯いた。

「そっか」

「琴葉」

「……私ね」彼女はゆっくり顔を上げる。

「拓海に、ここに来てほしかった」

「……」

「いつか、拓海の方から来てくれる場所にしたかった」

「俺が?」

「うん」

琴葉は小さく笑った。

「『琴葉、今日暇?』って」

「……」

「『ちょっと行こうぜ』って」

「……」

「そう言ってくれる場所」

琴葉は机に置かれた二つのマグカップを見る。

「だから二人分」

「……」

「拓海の好きな飲み物もあるよ」

「何?」

「ココア」

「……」

「当たった?」

「まあ」

「やった」

琴葉は嬉しそうに笑った。

俺は、その笑顔を見て。

少しだけ肩の力が抜けた。

「……一個だけ」

「なに?」

「ここに来るのは、俺が決める」

琴葉が瞬きをする。

「……うん」

「勝手に連れてくるな」

「……うん」

「予定も勝手に決めるな」

「……」

「琴葉?」

「……努力する」

「そこは『分かった』だろ」

「だって」

琴葉は少しだけ頬を膨らませる。

「拓海の予定、私が決めた方が効率いいし」

「効率の問題じゃねえ!」

琴葉が笑った。

「でも」

「ん?」

「ここに来るのは、拓海が決める」

「……ああ」

「じゃあ約束」

「約束」

琴葉は嬉しそうに笑った。


その後、

俺たちはココアを飲んだ。

琴葉が用意していたお菓子を食べた。

学校の話をした。

くだらない話もした。


そして。

気づけば。

「……もうこんな時間か」

窓の外は、すっかり暗くなっていた。

「帰ろうか」

俺が立ち上がる。

「うん」

琴葉も立ち上がった。

そして。


部屋を出る。

鍵を閉める。

琴葉が鍵をポケットにしまう。


「……なあ」

「なに?」

「この鍵」

「うん」

「俺にも一個くれない?」

琴葉が止まった。

「……え?」

「いや、ここ俺も使っていいんだろ?」

「……」

琴葉が固まっている。

「琴葉?」

「……」

「おーい」

「……」


やがて。

琴葉の顔が。

ゆっくりと。

嬉しそうに変わっていく。

「……いいの?」

「何が?」

「拓海が、この場所の鍵を持つの」

「だから、いいんじゃないか?」

「……」

琴葉は俯いた。

肩が小さく震えている。

「おい?」

「……嬉しい」

「そんなに?」

「うん」

琴葉は顔を上げた。

満面の笑みだった。

「じゃあ、明日作ってもらうね」

「……明日?」

「うん」

「今日じゃダメなのか?」

「今日は一本しかないから」

「じゃあ一本を――」

「ダメ」

「何でだよ」

「私が持ってたい」

「……」

琴葉は鍵を大事そうに握った。

「だって」


そして、

「拓海がこの場所に来るための鍵だから」

「……」

「私が持っていたいの」

その笑顔は、

いつも通りだった。



翌朝。

俺の机の上に。

一つの封筒が置かれていた。

「……?」

開けてみる。

中には、

昨日の秘密基地の鍵。

そして、

小さなメモ。

『拓海専用』

「……」

俺は鍵を見つめた。

その瞬間。

後ろから声がした。

「どう?」

「……琴葉」

「気に入った?」

「……まあ」

「よかった」

俺は鍵をポケットに入れる。

「これ、昨日の場所の鍵だよな?」

「うん」「じゃあ今日、放課後に行ってみるか」

「……」

琴葉が固まった。

「どうした?」

「……今日?」

「ああ」

「拓海から?」

「俺から」

琴葉は。

何秒か。

何も言わなかった。


そして、

「……ふふ」

「何だよ」

「ううん」

琴葉は笑った。

「嬉しいなって」

「……」

「昨日ね」

琴葉は俺を見る。

「ずっと考えてたの」

「何を?」

「どうしたら拓海が、自分からあそこに来てくれるかなって」

「……」

「でも」

琴葉は鍵を指差した。

「拓海の方から言ってくれた」

「……」

「ねえ、拓海」

「なんだよ」

琴葉は俺の手を握った。

「私」

「……」

「ちょっとずつ、上手くなってきてるのかも」

「何が?」

琴葉は、

嬉しそうに。


そして、

少しだけ意味深に笑った。

「拓海の毎日に、私を入れること」

「……」

俺は何も言えなかった。


その日の放課後。

俺たちは、また二人で秘密基地へ向かった。


昨日と同じ道。

昨日と同じ場所。

昨日と同じ部屋。


ただ一つ、

違っていたのは一

「……あれ?」

俺が机の上を見ると。

新しい紙が置かれていたことだった。

『拓海の予定表』

昨日までとは違う。


そこには、

学校。

昼休み。

放課後。

帰宅。

就寝。

そして、

その横に。

琴葉の予定まで書かれていた。

「……これ」

「うん?」

「何?」

「私の予定」

「何で俺の予定表に琴葉の予定まで書いてあるんだよ」

「分かりやすいでしょ?」

「何が?」

琴葉は、俺の隣に座った。

「拓海がどこにいるか」

「……」

「私がどこにいるか」

「……」

「どこで一緒にいられるか」

俺は紙を見つめた。

そして、

一番下に。

赤いペンで書かれた文字を見つけた。

『空白――あと少し』

「……」

「どうしたの?」

「いや」

俺は紙を裏返した。

「何でもない」

「ふふ」

琴葉は笑った。


その直後。

俺のスマホが震えた。

『佐藤:今日、水城とどこいる?』

「……」

『俺:秘密』

すぐに返信が来た。

『佐藤:お前から秘密とか言うようになったの怖いわ』

「……」

琴葉が横から覗き込む。

「佐藤くん?」

「そう」

「何て?」

「何でもない」

俺はスマホを伏せた。


すると、

琴葉が俺の肩に頭を乗せた。

「……拓海」

「ん?」

「今日、楽しい?」

「……まあ」

「私と一緒で?」

「……うん」

「本当に?」

「本当」

琴葉は満足そうに笑った。

「よかった」

「……」

しばらく沈黙が続いた。

俺は窓の外を見る。


夕焼け。

静かな街。

隣には琴葉。


そして、

机の上には。

俺と琴葉の予定表。

「……なあ、琴葉」

「なに?」

「これからどうするつもりなんだ?」

「どうって?」

「俺を好きにさせるんだろ?」

「うん」

「具体的には?」

琴葉は少し考えた。


そして、

「まずは」

指を一本立てる。

「朝」

「朝?」

「毎日起こす」

「……」


二本目。

「一緒に登校」

「……」


三本目。

「お昼も一緒」

「……」


四本目。

「放課後も一緒」

「……」


五本目。

「帰った後も連絡する」

「……」


そして、

琴葉は最後に。

自分の胸に手を当てた。

「寝る前にも、私のことを思い出してもらう」

「……」

「どう?」

「どうって……」

俺は頭を抱えた。

「それ、ほとんど一日中じゃねえか」

「うん」

琴葉は笑った。

「だから言ったでしょ?」

「何を?」

琴葉は、

俺の目を真っ直ぐ見つめた。

「拓海の一日を」

「……」

「私でいっぱいにするって」

「……琴葉」

「なに?」

「……ほどほどにな」

「うん」

琴葉は頷く。


そして、

「でも」

にっこりと笑った。

「拓海が私を好きになったら、もっと増やすね」

「何でだよ!」

琴葉の笑い声が。

小さな部屋に響いた。


――その日の夜。

俺は家に帰った。

制服を脱いで。

風呂に入って。

ベッドに寝転がる。

「……」

スマホを見る。

琴葉からメッセージが届いていた。

『今日は楽しかったね♡』

『うん』

『明日も一緒に行こうね』

『分かった』

『明後日も』

『はいはい』

『その次の日も』

『分かったって』

『約束?』

『約束』

『絶対?』

『絶対』


そして、

『大好き♡』

俺はいつものように。

『おやすみ』

とだけ返した。

すぐに既読がつく。

『おやすみ、拓海♡』


スマホを置く。

目を閉じる。

「……」

今日、

俺から秘密基地に行こうと言った。

琴葉は、

ものすごく嬉しそうだった。

それを思い出すと、

なぜか、

少しだけ、

嬉しくなった。

「……」

俺は、その感情の正体を考える。


けれど、

眠気には勝てなかった。



同じ頃。

琴葉は。

秘密基地にいた。

部屋の明かりをつけ。

一人で机に座っている。

目の前には。

あの予定表。

琴葉は赤いペンを持った。

『朝』

『登校』

『昼』

『放課後』

『帰宅』

『就寝前』

一つずつ。

指でなぞる。

「……」

そして、

一番下。

『空白――あと少し』そこに、

琴葉は、新しく文字を書いた。

『拓海から誘ってくれた』

「……」

琴葉は、

その文字を見つめる。

「やった」

小さく呟く。

「……やっと」

琴葉は胸元で手を握った。

「拓海の方から」

笑う。

「私と一緒にいたいって」


それは、

ほんの小さな変化だった。

けれど、

琴葉にとっては。

何よりも大きな一歩だった。

「……だったら」

琴葉は、

予定表の空白を見つめる。

「次は」

赤いペンを持つ。


そして、

ゆっくりと、

一つ、

予定を書き込んだ。

『土曜日――拓海と二人で過ごす』

「……」


さらに、

その下に、

『日曜日――拓海と二人で過ごす』


そして、

もう一つ、

『来週――』

琴葉はペンを止めた。

「……」

少し考えて。

にっこりと笑う。

『拓海の家に泊まる』

「……これでいいかな」

琴葉は満足そうに頷いた。


そして、

その予定表を、

大切そうにファイルへしまう。

「大丈夫」

誰もいない部屋で。

琴葉は静かに呟いた。

「少しずつでいい」

「焦らなくても」

「拓海は、ちゃんと私の方を見てくれる」


その時、

琴葉のスマホが震えた。

画面を見る。

拓海からだった。

『そういえば、明日の朝も起こしに来るんだよな?』

琴葉は、

目を見開いた。

「……」


そして、

ゆっくり、

口元を緩める。

『うん♡』

送信。


数秒後。

『じゃあ、よろしく』

「……」

琴葉は、

そのメッセージを何度も読み返した。


そして、

「……ふふ」

嬉しそうに笑う。

「拓海」

琴葉はスマホを胸元に抱えた。

「明日も」

「明後日も」

「その次の日も」

そして、

机の上に置かれた予定表を見る。

「……ずっと」

琴葉は、

誰にも聞こえない声で呟いた。

「一緒だからね♡」


その頃、

拓海はまだ知らなかった。

琴葉が作った「予定表」に。

自分が知らない予定が。

もう一つ、

書き加えられていたことを。


――『来週・拓海の家に泊まる』


そして、

そのさらに下、

まだ空白の欄には。


琴葉が、

まだ誰にも見せていない、

大きな予定が、

一つだけ、

書かれようとしていた一

そろそろタイトル回収したいなと思ってます。さて、秘密基地皆さんも作ったことがあるのではないでしょうか。拓海の知らない予定がどんどん追加されていくが拓海はどう選択するのか。第5話お楽しみに!!

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