33、対象者 ② アスカ
「エドさん、待つっすよ。この時間に装備なしで一人で出歩くのは、危険っす」
宿の前で、さっきの光がどっちに行ったのかを探していると、ジョーモさんが追いついてきた。
「あ、そうですね。すみません。どっちに行ったんだろう?」
「ガチャ壺に反応があったんすね」
「はい、たぶん光が点滅していたんだと思います。緊急性が高いかもしれない」
僕は、淡い光を放つ腕輪に触れた。腕輪が光っているということからも、反応が見間違えじゃなかったことがわかる。
「エドさん、左っすよ!」
「えっ? なぜわかるんですか」
僕は、ジョーモさんの後ろを追うように、小走りでついて行く。夜の街は、意外にも多くの灯りがあるから、逆に日に照らされたような光は、探しにくい。
「左から歩いて来た人が、汚い獣人の子供って言ってたっす。すれ違ったんじゃないっすか。それに、村に帰るにしても、ノワール洞窟に行くとしても、北門っすよ」
ジョーモさんは、さすがだな。僕は光を見落とさないようにキョロキョロしながら進む。しかし、なかなか追いつけない。あの子は、走っているのだろうか。
北門が見えてきた。
「今、ここから、小さな女の子が出て行かなかったっすか?」
ジョーモさんが、門番に尋ねてくれた。
「いや? 見てないよ」
「そうっすか。もし見たら、足止めをして、安宿通りに行けと言って欲しいっす」
ジョーモさんは、門番にお金を渡したようだ。
「あー、わかったよ。任せな」
「よろしく頼むっす」
ジョーモさんは、キョロキョロと周りを観察しているようだ。僕達が追い抜いてしまったのか、それとも、街の中をさまよっているのか。
「エドさん、とりあえず、北門から出て行くことはなくなったっす。こんなに遅い時間だから、宿を探しているかもしれないっすね」
「あっ、そういうことか。僕が気付かずに通り過ぎてしまったかもしれないです」
「もしくは、貧民街かもしれないっすよ。さっき、汚い子供と言っていたのが、そのままの意味なら、宿屋には断られるっす」
ジョーモさんは、貧民街の方へ向かって歩き始めた。あの子が貧民街に入っていれば、食べ物を分けてもらえるだろう。
夕方に、ゴタゴタと揉めて、宿屋も追い出されたなら、きっと夕食を食べてない。昼に筆記試験を受けていたから、もしかすると朝食を食べただけかもしれない。
あんな小さな子供が、ひもじい思いをして、しかも騙されてパーティを追放された状態で、夜の街をさまよっているなんて……。早く見つけてあげないと!
「さっき、小さな子供が入って行かなかったっすか?」
ジョーモさんが貧民街の門番に聞いてくれたが、彼らは何も答えない。面倒くさそうな顔をして、手をヒラヒラさせているだけだ。
「ふぅん、そうっすか」
ジョーモさんは、僕の方に戻ってきた。諦めたのだろうか。あっ、僕が聞く方がいいのかな。
「ジョーモさん、僕が代わりに……」
「いや、貧民街には入ってないっすよ。もし入ってたら、どんな子供かを尋ねるっす。貧民街にいてくれたら、探しやすかったんすけどね」
くそっ、僕の能力が、もっと高ければ……。
「別の道を探してみないと」
「そうっすね。もしかすると間違えて東門の方に行ったかもしれないっす。道が似ているから、夜だと間違えやすいっす」
貧民街から、さっきとは別の道を通って、東門に向かって歩いていく。畑がある中を周りを見回しながら通っていると、目の前に情報が浮かんだ。
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【名前】 アスカ(46歳)
【職業】 無し
【スキル】 錬金魔術(レベル10)[MAX10]
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名前とスキルは、あの子が言っていた通りだ。年齢は46歳? どう見ても4〜5歳だよな?
しかし光は見えない。すると、対象者が何かの結界を使用していることが、新たな情報として頭に浮かんだ。
「ジョーモさん、反応がありましたが、結界を使っているみたいで、光が見えません」
「それは結界じゃなくて、魔物の血かもしれないっすよ。特定の魔物の血は、強いサーチも弾くっす」
「魔物の血?」
「アイツらは、追放するときに嫌がらせをすることがあるっす。青い血を浴びた者は、罪人の証っすから」
ひどい!
「そんなことをされたら、宿屋なんて探せない……」
僕は、あの子の表示が出る方向へと、進んで行った。しばらく進むと、プンと何かが腐ったような生臭いニオイがしてきた。たまに光の点滅が見える。結界ではなく、魔物の血が光の邪魔をしているのか。
あっ! 居た!
ケモ耳の女の子は、畑の畝と畝の間に身を隠すようにして、丸くなって寝転んでいた。
「あーちゃん? 迎えに来たよ。わかる?」
声をかけると、女の子はパッと上体を起こした。だけど、その表情に笑みはない。むしろ、僕を警戒しているようにも見える。
「あたしを捕まえに来たの!?」
「違うよ。僕は、追放ざまぁ支援局員なんだ。パーティから追放されて、つらい思いをしている人がいると、魔道具が反応するんだよ。僕は、あーちゃんの味方だよ。僕が泊まってる宿に行こう。たぶん空きはあると思う」
「えっ……くすん。でも、あたしと一緒にいると、エドちゃんが盗賊だと思われるよ。あたし、罪人の印が付いちゃった。何も悪いことしてないのに……」
「お嬢さん、大丈夫っすよ。俺も味方っす」
ジョーモさんも、優しい声をかけている。
「でも、あたし、すごく臭くて……」
「宿には、フロントの近くにシャワーもあるよ。さぁ、行こう。宿の食堂で、僕の合格祝いをしてくれてたから、料理が残ってるよ。あーちゃん、お腹は空いてない?」
ケモ耳の女の子は、フルフルと頭を横に振っているけど、お腹からは、クゥーッと悲鳴が聞こえた。
「今、何か作る方がいいかな?」
「エドさん、このまま宿に戻る方がいいっす。あの人は、まだ飲んでるはずっすよ」
あっ、ナープラストを立ち上げた人? 確か、プラストさんだっけ。
「そうですね。早くシャワーする方がいいかな。あーちゃん、立てる?」
僕が手を差し出すと、ケモ耳の女の子は一瞬嬉しそうな顔をしたけど、またうつむいてしまった。
「畑に埋まっちゃったかな?」
僕は、ケモ耳の女の子を抱きかかえて、立たせた。うわー、なんか、いろんな物が服に付いたな。
「エドちゃんに、臭いのがついたよ」
「大丈夫だよ。宿では、洗濯を頼めるんだ。さぁ、行こう」
僕が手を出すと、小さな手が、そっと、僕の手を握ってくれた。




