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116、結界ガチガチにして眠る

「エドさんが持っているのは、山の迷宮のダンジョンコアだよ。正確には、ダンジョンコアの分身だ。本体は、ゴーレムに喰われたらしい」


 スウセイさんが、そう説明すると、ミラックさんの表情も引きつった。ムロさんも驚いた顔をしている。


 僕には違いはわからない。ただ、生まれたばかりのソアラ迷宮のダンジョンコアでさえ、人族には手に負えない。魔物化したダンジョン群のダンジョンコアなら、長く生きているから、大きなエネルギーを持っていたのだろう。


 ただ、この個体はチカラを失っているし、本体ではなくて分身だから、そこまで恐れる必要はないと思う。あっ、でも本体の感覚が分身と同居してたっけ。見た目は男性なのに、話し方は女性だよな。



「エドさん、そのダンジョンコアを眠らせたのですか?」


 青白い顔をしたイアンさんが、なぜかキョロキョロしながら、そう尋ねた。彼の視線の先には、この地の霊がいるのだろう。スウセイさんが結界を張っているから、結界の外かな。


「眠らせたというか、緩やかな魔力の流れを作ると、眠りましたね。ソアラ迷宮のダンジョンコアと同じでした。この個体も、植物系だからかもしれません」


「植物だとわかるのですか? 霊たちは、魔物を連れて来たと言っていましたが」


 連れてきた? 見ていたのか。


「今は、霊は近くに居るのですか?」


「近くといえば、近くですね。スウセイさんが結界を張ったことで、その外に押し出されたようですが」


 チラッとスウセイさんに視線を向けると、彼はワインをガンガン飲んでいる。話は聞いてなさそうだな。


「この花瓶のような鉢から出てきたとき、細い葉っぱや茎がスルスルと伸びましたからね。この鉢に、しっかりと根を張っているようです」


「人の姿になるのですか」


「はい。僕と同じくらいの背丈でしたが、人族には見えなかったです。緑色の髪で、緑色の目をした褐色の肌の男性です。スウセイさんより、少し若く見えました」


 スウセイさんの名前を出すと、彼はこちらを向いた。



「ダンジョンコアの方が、オッサンだったよ。正確には、分身か。その鉢を小さくして腰に下げてたね。でも話し方は、女性らしいよ。俺には、普通にしてると聞こえない。ソアラ迷宮のダンジョンコアとは違って、発声はできないからね。念話を聞くには、術の発動が必要だから使ってない。下手に術を使って機嫌を損ねると、俺達は死ぬ可能性があったからな」


 スウセイさんは、いつもよりよく喋る。少し酔ってるのかな。



「とりあえず、今夜は寝るか。闇市には、探し物をしていることは伝えて回った。明日の夜に来いと言っていたぜ」


「スウセイさん、結界を強化してもらえませんか? エドさんがそれを持ったまま眠るわけにもいかないでしょうし、私達が寝ている間に動き出すと、何が起こるかわかりません」


 イアンさんは、かなり顔色が悪い。ダンジョンコアが怖いのか。あっ、もしかすると、闇市を巡っていて、襲撃を受けたのかもしれないな。



「そのつもりだよ。部屋は、結界を重ねてガチガチにしておく。それぞれの寝室との間に、イアンさんの術も使っておいてくれ。エドさん、その鉢をテーブルに置いて」


「はい、わかりました」


 僕は、ダンジョンコアが眠っているのを確認し、テーブルにそっと置いた。そして、鉢の周りに、僕の魔力を纏わせておく。しばらくは、緩やかな流れが続くだろう。


 スウセイさんが天井に向かって、魔力を放った。結界の中にさらに結界を重ねたようだ。外の音も全く聞こえなくなっている。


 その後、イアンさんは、青い光を放った。テーブルがあるリビングと僕達の寝室との間に、青い膜が現れた。



「この結界は、エネルギー体には通れないはずです。ですが寝室にも、皆さん各自で結界バリアをお願いします」


 イアンさんは、用心深い。それほど、山の迷宮のダンジョンコアが危険なんだよな。


「じゃあ、さっき行動した相棒と同室でいいか? 俺は魔法はイマイチだからな。ヤヨイさんが嫌じゃなければ、だが」


 ミラックさんがそう提案すると、ヤヨイさんは、コクリと頷いた。逆にムロさんと一緒の方が良いだろうな。



 僕達は、それぞれの部屋に分かれて、眠ることにした。


 スウセイさんは、ワインの瓶とグラスを寝室に持ち込んでいたけど、部屋に結界を張ると、僕より先に寝息を立てていた。彼には毒耐性があると言ってたけど、これだけ飲むと、さすがに酔うんだろうな。


 僕は、少し緊張していた。これまで皆で、寝袋でごろ寝をしていたけど、こんな風に宿屋のベッドで、誰かと同室で眠ることなんて、久しぶりのことだ。


 あっ、ケモ耳の女の子が、僕の部屋に泊まったことはあったけど。ふふっ、めちゃくちゃ寝相が悪かったよな。


 彼女のことを思い出していると、いつの間にか、僕は眠りに落ちていた。





 ◇◆◇◆◇




 翌朝、部屋に明るい光が差し込んできて、僕は目が覚めた。何の音も聞こえない。とても熟睡できたような気がする。スウセイさんの結界のおかげかな。


 スウセイさんは、まだ眠っているようだった。


 僕は、彼を起こさないように気をつけながら、寝室の扉を開けた。



「あー、よかった。エドさんが起きた。思いっきりノックしてたのに、起きてくれないからぁ」


「おはようございます。ヤヨイさん、早いですね。あれ? ムロさんは……ん?」


 明るいリビングの窓からは、何か煙のような物が見えた。ムロさんは、窓に張り付いている。


 イアンさんの術は、まだちゃんと残っているけど、もしかして、ダンジョンコアが窓の外へに出たのか?



「ムロさんは、外を見張るって言ってる。でも、緑色の髪の人が、私に何があったのか聞いてくるから、すっごく困ってて〜」


 ん? ダンジョンコアは居るのか?


 イアンさんの術の先に行くと、ダンジョンコアが人の姿で、普通に椅子に座っていた。




『キミは、エドという名前なのだな。精霊の下僕が、そう教えてくれた。外で何かが起こったらしいが、結界の術者が眠っているから、外の様子がわからないと言っていた』


「僕はエドです。あれ? 話し方が、男性っぽいね」


『本体の思念は、眠っているからな。ダンジョンコアは、基本的に夜行性だ。正確には、ダンジョンコアの本体は、というべきか』


「へぇ、そうなんだ。共存してると交代できるんだね」


『交代というより、私が本体に乗っ取られる形だ。外では、何があった?』


「僕も起きたばかりだから、情報を集めるね。ちょっと待って」


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