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陰謀大好き女神様

 文明から離れ未開の地で暮らすとある部族がいた。ジャングルの奥深くに存在し、谷底のさらに奥にある天然の洞窟。そこには古い文明の残した古代語や神を奉る様な文様が彫刻された神殿があった。


 古代文明から連綿と部族に受け継がれてきた神殿を破壊せんと押し寄せてきている集団がいた。


「――クリア」


 部族の人間達が手斧や弓矢で反抗するも次々と撃ち殺されていく。これで制圧した集落は四つ目、名もなき旧神を崇め奉る部族は一人残らず駆逐されなければならない。


 現代武器の前には化石のような武器では相手にならない。先程殺された体格のいい戦士は無残にもハチの巣にされている。


「残敵掃討急げ。このような程度の低い奴らに時間をかけるな――魔人様が昇神される事を待ちわびているのだ」


「――ハッ! ただちに」


 灰がかった髪の血の様に赤い眼をした女が命令に忠実な部下へ指示を出す。口元はガスマスクをしており、防弾チョッキなどの軍用装備に身を包んでいる。肩から下げた突撃銃は良く手入れされているが損耗が目立っていた。


 討ち尽くしたマガジンを排出し、胸ポケットに入れていたモノと交換しコッキングハンドルを引く。弾薬が装填されいつでも射撃できる(殺せる)状態を保つ。


 頬に付着した血液に気が付くとグローブの親指で拭う。舐めたくなる衝動を抑えるように親指を壁へ捻じこむ。付着していた血液は泥となり消え失せた。


「邪神を拝むゴミムシ共を殺し尽くせないなど魔人様の配下としては失格ですね。ああ、魔人様が神へと昇神されるべく、私、蜉蝣カゲロウは命を賭して使命を達成いたしますとも、ええ」


 コツコツ、と神殿内の石畳を進んで行く。そこには旧神の姿を象られた神像が安置されていた。部族共の死の献身なのか怨念が集まり旧神が顕現しようとしていた。


「ゴミクズ共の崇める旧神か、我らが魔人様の前には塵にも等しい」


 胸元からペンダントを取り出しグローブを外すと親指を噛み切り血を付着させた。ペンダントは鈍く光り始め術式が浮かび上がる。


「我が神へ捧ぐ。全てを我が主の元へ。――≪簒奪術式≫」


 怨念の塊を依り代に顕現しかけている旧神へペンダントを投げつける。力は弱くとも腐っても神。人間には抗えない程強大なものなのだが、ペンダントから展開された術式陣へ旧神が叫び声を上げながら吸収されていく。


 信仰が廃れ残骸と成りかけた神でも“階位”と言うものがある。それを強奪し統合されたものが邪法を用いて昇神の儀式で使用されることとなる。各地で増やしている信仰者の部隊が少数部族の奉る旧神や土地神を回収するべく世界を回っている。


 回収する際に“残骸”をありがたく奉る連中がいるがそのようなものは障害にすらならない。力の強い神もいるらしいのだがこの部隊では手に負えないものだ。


「これでもかつてこの地域を繫栄させ、歴史に名を刻んだ神なのですか……」


 ペンダントを回収し胸元に装着しなおす。そこへ部族の殲滅を終えた部隊が集まって来た。


「この霊脈へアストラルアンカーを打ち込め。作業が終了次第ここは爆破して埋めたてる――始めろ」


 無骨な白い杭を打ち込みながら周囲へ爆薬を仕掛けていく。その作業を終えると蜉蝣が腕に装着している神銀のバングルをコツコツと叩いた。すると、白い石柱の周りに大規模な儀式術式陣が展開される。


「任務完了――撤退だ。これで五か所目、まだまだ我らの作業は始まったばかりだ」


 光り輝く陣を見届けた後速やかに爆破された。文化的遺産的に重要な遺跡は無残にも粉砕され土の下に眠ることになった。


 部隊が撤収した後には穴だらけにされた無残な死体と、それに群がる獣の集団だけとなった。







 今日も今日とて我が神へ祈りを捧ぐ。 


 神聖アクデゥキレウス正教の教会には退魔機関である精鋭部隊が詰めている。最近機関の存在を公表したことにより表舞台で動くことが多くなってきた。それほど国内には霊的被害が存在しており、それの解決の為に地方への派遣を指示されるのだ。


 えるしぃちゃんに死の寸前で救われたジョンとエドウィンもこの教会に所属していた。現在では二人とも聖人クラスの潜在能力を保持しており重宝されている。


 しかし、一時期はえるしぃを神と仰いだために異端審問に掛けられるも現在では致し方なしと諦められている。つい先日、日本国で光の巨人が観測されやはり現人神ではないか? と司教以上の位の人間のみで審議されている。


「進歩はどうだぁ? 俺ぁ各支部へのアンカーは打ち終わっちまったぜ?」


「何言ってんだ。聖遺物への術式の仕込みは終わっている。さすがは女神様謹製、全く反応が無くて仕込んだのか分からなくなってしまうよ」


「へ、違いねえや。これで俺らも大逆人か。上等だぜ」


「――あほぅ。バレればの問題だろう。私は嫁子供を路頭には迷わせたくないぞ?」


「それにしても神の真実何て呆気ないもんなんだな。そんなものならば現世利益を与えてくれる神を選ぶね、俺は」


「そうだ、な。我らの時と、私の嫁の病もそれだけで二度も助けられたのだ。利益の無い神を祈る気などすでにない」


 彼らはかつてアクデゥキレウス神を崇めていた。しかし、ある物を女神に渡され真実を知ってしまったのだ。


「しっかし、アストラルレコードってアーティファクトすっげえな。物質の記憶を読み取るとはまさに神器だな」


「ああ、聖遺物の記憶を読み解いて我らは神の真実を知ってしまったのだから……」


「だな、まさか神が――っといっけねえ。誰が聞いてるか分かんねえから気を付けなきゃな」


 そう言い合うと各自行動を開始する。もし、この機関と敵対したケースを想定して内部工作を行っているのだ。全ては我らが神の為。今日も裏工作を重ねて行く。







 集められた神の階位が爪先程の結晶へと精製されていく。この作業を行うには膨大な魔力と精神力が必要になる。作業に集中する慈愛の女神は額から汗を流しており苦しそうな顔をしている。


 この世ならざる輝きを放つ結晶の精製が一段落つき胸の中へ仕舞い込むと深く息を吐いた。そのままソファーに身体を預けると目を瞑った。


「ふぅ。やはりかなり精神力を消耗しますね。これでも異世界の女神なんですがね」


 誰にも聞かれていないだろうと愚痴をボソリと零した。信仰者を利用し旧神の階位を回収させているのだが進行度合いは遅い。急ぐ必要もないので稀に訪れる楽しみとしている節があった。


『――やはりか。とんでもなく悪い事をしておったか』


 慈愛の女神の口から老成した口調で声が発せられる。むろん闘神の人格だ。


「!! 別にいいでしょう。真なる昇神が達成されるのですから」


『それが――お主だけだと言えば話は別じゃのう……なぁ、慈愛の。元は一つの人格、もし、もしじゃ。お主が離れればどちらが無事でいると思う?』


「…………。――まだ検討の余地はあるわ」


『その沈黙が答えか。――そうさの。やるなら徹底的にやれ。なんなら我が協力してやらんでもない』


「あなたが? どうやって……。まさかッ!?」


『そう。殺しがいのある神なんぞまだまだ存在しておるのだろう? 魔術一辺倒の貴様じゃ実力行使を避け過ぎて行動がいちいち迂遠じゃ。こちらから乗り込んでぶっ殺せばよかろうて』


 慈愛の女神は信仰者を利用して力を失った旧神や土地神を狩らせている。術式の準備も時間が掛かるしバレやすい。しかし、闘神と言われるほどの実力を持つのならば話が変わって来る。


「――あなたがそう言ってくれるならば計画を変更せざる得ないわね。表のえるしぃの行動をどうやって誘導するかが問題なんだけれど……」


『なに、貴様は介入せぬからこそ記憶のやり取りが鈍化しておるのだろう。我が気まぐれに動けばおのずと神へ辿り着こう』


「わかったわ。そちらはあなたに任せるわ、その代わり分離せずとも昇神の手段を見つければいいのね」


『うむ。我らは我らの為に存在しておる。各々は人格の一側面、それを忘れるでないぞ?』


 闘神はそう言うと内部へ引っ込んでいった。慈愛の女神はまさか闘神の理解や協力を得られるとは夢にも思わなかった。望外の収穫に思わずほくそ笑んでしまう。


「やはりあなたも私、私もあなた“達”という事ね。自己保存のエゴに満ちている。私らの言葉をありがたがる人間共が聞いたらなんて思うでしょうね。ふふふ、楽しみだわ」


 満足感に包まれるとソファーでゆっくりと睡眠に入る。結晶の精製で疲れ果てていたのだ。ボロアパートの一室でまさか世界の行く末が決められようとは夢にも思うまい。闘神と慈愛が協力したことにより計画は一段階進む。それを知らぬはえるしぃちゃんのみ。彼女は明日も配信でアホをやらかして人を笑顔にしていく。


 裏に潜む女神共の陰謀など知らずに。

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