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「……どうしてこうなった」


 再びそんな言葉が礼司の口から漏れる。

 その手中にあるスマートフォンからはメッセンジャーの着信音が鳴り響いていた。

 通知に流れるのは、上司である(いぬい)からのメッセージ。


(いや……さっき電話で聞いたことやんけ)


 それを確認し、肩を竦める。

 どうやら相当焦っているらしく、先刻からほぼ同じ内容のメッセージが何度も送られてくる。

 乾が焦るような事案。それは……


「たっだいまーッ!」


 表からの声。そして、玄関が開く音。


「おう。おかえり」


 応じたのは、緑髪の少女、ミヤビだ。


(俺の家なんスけどねー。まぁ、借りてるんだケドさ。つか、『ただいま』ってコトはやっぱり……)


 内心肩を竦める礼司。


「あら、戻ってきちゃったのね」


 何やら残念がる声。

 黒褐色の肌の少女、永羽だ。

 二人の少女は礼司の左右に陣取り、時折互いに牽制し合うように視線を交わす。

 礼司は、あまりの居心地の悪さに相当辟易としていた。なんとか脱出を図りたいところである。しかし、来訪者はその助け舟にはならないであろう。



 玄関から続く土間に自転車を置き、玄関を上がる音。

 そしてガラッと扉が開くと一人の少女が現れる。

 礼司の上司である乾の娘で、又従姉妹の美菜である。

 彼女は小一時間前までこの家にいた。

 が、永羽が現れたあと、いきなりここを飛び出し一旦自宅に戻っていたのだ。

 そしてその手には大きなバッグが二つ。


「その荷物は……」

「あたし、今日からここで暮らすことにしたから。よろしくね!」

「お……おう」


 礼司は一つ大きくため息をついた。


「何? 嫌なの?」


 美菜の柳眉が逆立つ。


「いや、そうじゃなくてさ……。さっきから親父さんからのメッセージがな。すぐに連絡くれと」

「あー、お父さん? 面倒臭いなー」


 美菜は荷物を置くと、スマホを取り出した。

 父親に連絡を入れるのかと思いきや……


「あ、お母さん? ちょっとお願いがあるんだけど……いい? うん。お父さんがさっきから煩いんで黙らせてくれる?」

「ヲイ……」


 ちょっと上司がかわいそうになった礼司であった。

 そしてしばしの会話ののち、


「……ン、大丈夫。その辺は気をつけるから。ちゃんと学校皆んなと一緒に卒業したいし。それじゃあ、切るね」


 そうして彼女は通話を切った。


「……なぁ、(あきら)さんには了承取らなかったのか?」

「うん。朝から伯父さんたちとゴルフで出かけてたからねー。まぁ、問題ないっしょ」

「お……おう」

(俺の方が問題なんだがな〜。明後日会社で何言われるか。それどころか、今日にでも乗り込んでくるかも知れん)


 内心冷や汗を流しつつ、礼司が応じる。

 そんな礼司の前に、彼女がやってくる。なにやら険しい顔だ。


(ン? 俺、何かマズいことやったか?)


 などと礼司は考えたが、どうやら違うらしい。

 その視線の先は……


「それよりアンタ! いい加減ちゃんとした服着なさい! それじゃまるで露出狂だよ!」


 礼司の腕に抱きつく永羽を指差し、糾弾する。

 永羽の格好といえば、申し訳程度に胸と腰回りをレース生地の布で覆っただけだ。礼司自身も目のやり場に困っている。


「何よ〜。ちゃんと服は着てるじゃない」


 彼女は申し訳程度に胸を覆う布を摘み上げる。

 その結果……


(見えてる……見えてるって!)


 礼司は一瞬気を取られ……慌てて視線を逸らした。

 美菜はそんな彼に冷たい視線を送ると、今度は永羽の腕を取る。


「あら? 今度は何?」

「いいからッ! アンタはこっちに来なさい!」


 美菜は永羽を引きずってリビングを出ると、奥へと向かった。

 礼司は視線でそれを追おうとし……


「見るなよ」

「アッハイ」


 ミヤビに目を塞がれた。

 その直前、永羽の形の良い褐色の尻がその網膜に焼き付いていた。



 二人は礼司の部屋に入っていった。

 そして、そこから聞こえてくる声。


「下着はあたしの貸してあげるから! とりあえず、この服着なさい。シャツはコレ。えっと、下は……このジーンズは入るかな?」

「あんまり肌を覆うのはちょっと……」

「贅沢は言わない!」

「は〜い。……ちょっとこのブラって私には小さすぎるわね」

「ぐぬぬ……ッ!」


 などと声が聞こえてくる。


(俺のタンスも漁られてる? まぁ、いつものことさ。にしても、これからこの四人で暮らすわけか……。女の子三人と、と考えると嬉しい状況には違いないが、この有様じゃ前途多難か)


 内心、肩を竦める礼司。

 と、もう一つの問題に思い至る。


(それはそうと、美菜ちゃんと永羽の部屋をどこにするか、だな)


 この家は一部二階建てで、部屋の数は多い。

 一階にはダイニングと居間(リビング)を除いで五つの部屋。二階には四つの部屋がある。

 この家は元々は木造の平屋であったが、美菜の祖父が二世帯住宅として改築したものである。

 由来は江戸末期に建てられた農家住宅。古民家によくある田の字の間取りで建てられていた。その一部、「ニワ」と呼ばれる土間や「ダイドコ」と呼ばれる台所や居間スペース、そして隣に立っていた養蚕兼農機具庫を解体し、その場所に鉄骨二階建てで増築したものだ。

 新たに造られたダイニングとリビングは、その新築部分にあたる。

 そのリビングの奥は、更に田の字型に四つの部屋がある。そして、さらに田の字の更に左下に位置する離れが一部屋。

 リビングが接しているのが田の字の右側だとすると、その右上が礼司の部屋だ。ちなみに元々ここは、会長夫妻の寝室だった。左上が客用の寝室。そして左下が仏間。右下の一番大きな部屋は、元々の居間だ。

 ちなみにミヤビには離れの部屋をあてがっている。

 そして左上の部屋は現状、ほぼ物置。

 と、なると選択肢は一つ。



「あ〜〜っ、気疲れした」

「もう……ちょっとこれ恥ずかじいわ」


 ちょうどそこに、二人が戻ってきた。

 永羽は上に礼司のタンクトップ。下は美菜の持ってきたらしきミニスカートを履いている。さっきよりもかなり露出度は下がっているが、どうやら彼女には恥ずかしいらしい。

 礼司は突っ込むべきかと思ったが止めにした。


「部屋のことなんだけどさ、ちょっと良い?」

「おう」

「ええ」

「いいよ」

「とりあえず、三人は二階の洋間を使うかい? ちょっと片付けが必要だけど」


 流石に通路がわりになってる仏間と元居間はあまり使いたくなかろう、と礼司は考えた。左上の部屋を片付けても良いが、それだと片方は仲間外れっぽくなってしまう。今の雰囲気でそれはマズかろう。


「じゃあ、そうしようか……」


 美菜はそう答えようとし……


「私は礼司さんと同じ部屋でいいわ。一緒に寝ましょ」

「……へ?」


 永羽の答え。

 直後、部屋の空気が凍りついた。


「あああんた、何考えてるのさ! あんたみたいな痴女を一緒の部屋に寝かすわけにはいかないでしょ!」

「貴様、何を考えている⁉︎ 夜這いをかけるならまだしも、初めから同衾しようなどと……」

「あら〜、まだしてなかったの? 私の見えないところでしているものかとやきもきしていたわ」

「ぐぬぬ……」

「こやつ、封じてくれようか……」


 何やら雲行きが怪しい。


「ストップ! そこまでだ!」


 とりあえず礼司は、あえて声を荒げた。ここで喧嘩を始められても困るからだ。

 その効果があったのか、三人の動きが止まる。


「細かいことは後で! ……とりあえず、しばらくは南側の大きな部屋でみんな寝るか?」


 礼司の提案に、気圧された様に皆は頷いた。

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