予言者
「この世界は、あと数日で滅びるだろう」
一人の偉大なる予言者がその言葉を発したことで、世界は震撼した。
その人物の予言は、いまだかつて外れたことがないからである。
いままで彼が見た未来図は、どれほど奇妙奇天烈な内容であってもすべて的中した。
人々は彼を本物と認め、そして彼もまた、自分は世界一の予言者だと信じ込んでいたのだった。
「それは人類が滅びるということなのでしょうか?」
予言者のその言葉に記者の一人が尋ねる。
しかし予言者は首を振った。
「いや、そうではない。世界そのものが滅びるのだ」
青ざめた表情で、別の記者が問いかける。
「つまりは地球そのものが崩壊すると?」
予言者はまたも首を振る。
「地球は存在する。しかし、そこに生きとし生ける者は存在しない」
「それはどういうことなのですか!? いったい、数日の間に何があるのですか!?」
「詳しいことは私にもわからない。なにせ、あのようなおぞましい映像を見たのは初めてだったのだから。すべてが漆黒と化した大地。地上には草木一本も生えず、そしてまわりには無数の屍が転がっている」
予言者の言葉に、記者たちはざわめきだす。
「もしかして、巨大隕石が落ちるのか!?」
「いや、ひょっとしたら宇宙から有害な物質が降りそそぐのかもしれんぞ!!」
「こうしちゃおれん。すぐに人々をどこかに避難させなければ」
「しかし、どうやって!? 何が起こるのかわからないのに、どこに避難すればいいのだ!!」
怒号が飛び交う中、人々は恐慌状態に陥った。
一部の人々は我先にと食料を確保し、地下に潜った。
一部の人々は残りの時間を愉しもうと全財産を遊びにつぎ込んだ。
一部の人々は自暴自棄になり、犯罪に走った。
世界の秩序は、その予言者の発言により崩壊していった。
「予言者様、どうすれば世界滅亡を防げますか?」
人々は予言者のもとに殺到し、世界が滅びない方法を聞き出そうと躍起になった。
しかし予言者にはどうすることもできなかった。
自分の予言は100%当たる。
それを回避することなど不可能だ。
予言者はなんとかその場をおさめようと口から出まかせを言った。
「祈るのです。ひたすら助かるように祈れば、滅びることはありません」
人々はその言葉に、一心不乱に祈りを捧げた。
老若男女、すべての人間が予言者の前で手を合わせて祈っている。
予言者はその姿を見てゾクリと心が震えた。
まるで自分は神ではないか。
占い以外に取柄がなかった男は、今まで虐げられてきた。
ペテン師とも呼ばれて来た彼の言葉に、今や誰もが従っている。
それが快感でならなかった。
(そうだ、どうせ世界は滅びるのだ。ならば生きている間に自分の好きなことをしてしまおう)
予言者は憑りつかれたように人々に無理難題を要求した。
世界中から美女を呼び寄せ、最高級の食事を用意させ、高い酒を飲みまくった。
すべては世界を救うためと称し、予言者は今までのうっぷんを晴らすかの如く贅の限りを尽くした。
「祈るのです。神に。世界に。私に」
予言者は毎日同じことを繰り返した。
人々は祈り、予言者に身も心も捧げていった。
しかしある日を境に人々は疑問を持つようになった。
天変地異の前触れなどまったく起きず、気候の大きな変動もなく、いつもの風景がずっと続くのみ。
本当に世界は滅びるのか?
予言者は毎晩贅沢三昧。
全財産をはたいた者は首が回らなくなり、その日食べるものすらない状態。
犯罪に走った者は、自身の罪に耐えきれずに自殺する者が続出した。
食べ物を確保して地下に潜っていた者も、やがて食料が尽きてしまった。
「予言者様、本当に世界は滅びるのですか?」
「本当です。このままでは滅びます。祈りなさい、信者たちよ」
だが、贅の限りを尽くした予言者の言葉など誰も信じなくなっていった。
もしかして、すべてウソだったのでは?
ここにきてようやく人々は予言者がペテンにかけていたことを悟った。
「ふざけるな! 世界が滅ぶなんてウソをつきやがって!」
「オレは全財産を使い切ったんだぞ! どうしてくれるんだ!」
「この悪党!」
予言者は人々から詰め寄られ、焦った。
「待て! 確かに私は見たのだ、世界が滅びる姿を!」
「騙されるか、このインチキ占い師!」
激昂した人々は予言者を取り囲み、リンチを加えた。
予言者は何度も何度も殴られ、蹴り飛ばされ、投げ飛ばされた。
「ひい! やめろ、やめてくれ! 私が悪かった! だから……」
「うるさい!」
悲痛な叫びは、一人の男が手にしたナイフで露と消えた。
そして。
腹部を刺されて死んだ予言者が見たのは、漆黒の大地が広がる“死後”の世界だった。




