完全無欠のパーフェクトフード 1-1
パンさえあれば。
たいていの悲しみには耐えられる。
ミゲル・デ・セルバンテス著『ドン・キホーテ』より
1
パティには三種類のひき肉を使用する。
ひとつは、いけすかない貴族が最近になってようやく売り出した肉挽き器で挽いた、細かい牛ひき肉。もうひとつは、包丁でたたいて作った粗挽きの牛ミンチ。そして最後のひとつが、ひき肉と言っていいのか怪しいほどに粗い、小さなサイコロステーキ状の牛肉。それらに塩を加えて練り合わせ、丸い円盤状に成形してある。
熱した真っ黒な鉄製のフライパンは、小ぶりながらも手にしっかりとした重量を伝えてくる。炎術符式のかまどの火力を少し上げる。フライパンには牛脂を落として回しておく。
――パティを、そっと入れる。
じゅわ、と音が爆ぜる。香りが広がる。頬が緩むのを自覚する。いくつになっても――この瞬間が、たまらなく楽しい。
上下半分に割って温めたバンズ。その下半分にパティを載せ、その上にチーズとマスタードのソースを塗り、トマト、スライスオニオン、レタス、バンズの上半分を重ね、鉄串をまっすぐ垂直に刺して留めれば、ダイナー『マリウス』特製ハンバーガーの出来上がり、だ。三種類の粗さの牛ひき肉が、ぎゅっと肉汁の詰まったハンバーグのうまさと、赤身肉のステーキのような贅沢な食感を両立させた、一皿でいくつもの表情を見せてくれるスペシャルなバーガー。傍らに串切りにして揚げたじゃがいもを添えてやれば、まさしくアメリカンダイナースタイルだ。……この世界にアメリカはないけどね。
「プリム、できたよ」
「はーい。――追加、三皿。ひとつはトマト抜きっ」
「了解。――めちゃくちゃ忙しいね。今日は筋肉痛になりそう」
「美味しいからね、マスターのハンバーガーは。それも五年ぶりの復活で、しかもさらに美味しくなったっていうんだから、みんな食べに来るよ、そりゃあ」
にかっと笑う、赤毛の美女。五年ぶりに会ったときは、その成長ぶりに驚いたものだけれど――背も伸びて、髪も伸ばして、顔立ちも大人びたものだと思ったけれど、こうして笑うと、少女時代の面影が色濃く残っているのだと感じる。僕を呼ぶ「マスター」という響きも、あの当時から変わっていない。けれど、僕はそれを訂正しないといけない。
「プリム。いまの『マリウス』のマスターはプリムでしょ? 僕は雇われている料理人」
「そりゃそうだけど、じゃあなんて呼べばいいのさ」
プリムは皿を持って首を傾げた。
「いや、普通に名前で呼んでくれたら」
「……ちょっと、難しいかな……」
赤毛の美女は、その表情も赤くして、皿をお客様に届けるべく、カウンターから離れていった。――離れ際に、小さく「照れちゃうもん」と言い残していくのは、かわいい成分が過剰なのではないかと、僕は思った。
ともあれ、あと三皿――いや、新規で何名かまた客が入ってきているから、三皿では済まなさそうだ。このままではパティのストックが切れてしまう。多めに用意してもらったんだけど、見通しが甘かった。夜営業までに、またテックさんに融通してもらわないといけないかも。
しかしながら、久々にこのキッチンに立っているのに、あまり久々と言う感覚がない。ここに立つと、心がしっくりと来る。
――異世界に来て二十五年。帝都から旅立ってから、実に五年。五年ぶりに僕はこの街に帰ってきて、やっぱりハンバーガーを作っています。
剣と魔法のファンタジックな異世界を旅した五年間は、見るものすべてが新鮮で、楽しかった。二十年間もろくに帝都から出ず、なにをやっていたのだろう……と思う反面、二十年間、帝都で培った経験や思い出があるからこそ、五年間の旅路が新鮮なものになった面もあるのだと理解している。特に、旅立ちの原因になった一連の騒動――言葉を選ばずに言うのならば、あの敗戦がなければ、僕はきっと、心のどこかで異世界を舐めたまま二十五歳になっていたことだろう。
いや。
いま、こうして大人ぶっている僕だけれど、大人になれたかといえば、疑問が残る。いい歳した男になっただけで、いい大人になれているかどうか、はなはだ疑問だ。
「そりゃそうじゃろ」
と、からから笑うのは、五年前と見た目のまるで見た目の変わらない、ひげの長いジイさん。パン職人のジェビィ・エル氏だ。先週、帝都に帰った僕を温かく迎えてくれたし、ダイナーには継続してパンを卸してくれている。昼営業が終わったダイナーにやってきて、積もる話もあるだろう……と、つまりは世間話をしにやってきていた。
「五年じゃろうが五十年じゃろうが、大人になったかどうかを決めるのは年数じゃないからのう」
穏やかな口調で含蓄たっぷりに、ジェビィ氏は言った。
「大切なのは、童貞を捨てたかどうかじゃ」
「ホントに変わってないな、ジェビィさん……。こんなところで油売ってていいの? 自分の店は?」
「弟子が優秀でなぁ。わしがいなくてもなんとかなっちゃうんじゃよね。で、どうなんじゃ? ン? 男一人の旅路じゃ、浮ついた話がまったくない、なんてことはないじゃろ? なかったとしてもそういう店には寄ったりしたじゃろ?」
「いや、そういう旅じゃなかったから……」
「そういう旅じゃなくてもそういうことをしてしまうのが男一人旅の醍醐味じゃろうが!」
一人で勝手に白熱するジェビィ氏。僕はやれやれと思いつつ、ふと背中に気配を感じて振り返った。笑顔のプリムがいた。そりゃいるよな。いまはもうプリムの店なんだから。
「……ねえ、カリムさん。マリウス・カリムさん?」
なぜ敬語なのか。思わず背筋が伸びた。
「はい、なんでしょうか」
「ええと……ジジイのいう旅の醍醐味? とかいうやつは、味わいやがったのですか?」
「いいえ、そんなことは一切なく、僕はただひたすら地球にルーツを持つ同胞を探したり、料理を学んだり、いろんな景色を見たり、現地の人々との交流をしたり、そういう健全な旅をしてきました。やましいことはひとつもありません」
「そうですか」
そっ、とプリムのたおやかな、けれども料理人として鍛えられた、健康で丈夫な十本の指が僕の双肩に置かれた。
「現地の人々との交流……というのに、女性はいましたか?」
「……そ、それはまあ、いましたけれども」
「あァ?」
指から感じる圧力が一段階強くなった。ヤンキーじみた凄みは五年を経ても健在である。
「……いやあの、交流した人の中に女性がいたというだけで、積極的に女性と交流したというわけではなく、その、立ち寄った宿に女性がいたとか、旅費を稼ぐために一時的に雇ってもらった店に女性がいたとか、その程度の話でございましてですね?」
「なるほど――それは仕方ねェとわかりますけれども」
ぎちぎちと締め上げつつ、赤毛の美女は僕の耳元でそっと呟いた。
「仕方なくないことは――してないよな?」
「はっ、はい! しておりません! 断じて!」
「本当に? 誘われてもちゃんと断った?」
「断りました!」
ほぉん、とプリムが呟いた。
「誘われはしたんだな……?」
……。え、それも罪なの? 正面のジェビィ氏が「あーあ」という顔をしている。なるほど、罪らしい。そのあと、満面の笑みを浮かべたプリムに根掘り葉掘り女性に誘われたエピソードを話すこととなり、気恥ずかしいやら恐ろしいやらで、背中にびっしょりと冷や汗をかくことになった。女性は難しい。
帰ってきてから一週間、どこへ行っても旅の思い出話を乞われる。
「南岸は面白いところでした。共和国は気候も良くて。海産物は帝都じゃあまり触れないので、いい勉強になりました」
「海産物か……帝都もここ一、二年でかなり冷凍輸入するようになっているが、まだまだ高い。貴族向けと言っていいだろう。レイチェル・タイムが冷凍輸送にも力を入れているが、長距離の旅を快く受け入れてくれる凍らせ屋の安定確保は難しいらしいね」
変わり者の老貴族、サニー・ジョンソン・ジョン。ダイナーの夜営業後、彼に誘われて、なんと驚いたことに屋台で飲んでいる。屋台の周りにひっくりかえした木の箱を置いて、それを椅子代わり、机代わりにして酒を飲んでいるのだ。貴族なのに。
木製ジョッキに注がれた冷たいエールを、一口大に切った鶏肉を串に刺して焼き、塩を振っただけのシンプルな焼き鳥で頂く。サニーさんがひいきにしている多くの屋台の中でも、ここは唯一「冷たいエールを出すこと」に全力を注いでいるのだとか。屋台備え付けの魔冷庫の横にはエール樽が二つも置かれ、店主を兼ねる凍らせ屋の女性が串を焼く傍ら、魔術で冷気を送り込んでいた。
「いまや、凍らせ屋はひっぱりだこの職業だ。魔術を修めてダンジョンに潜るよりも、輸送に携わったほうが金になる。そうだろう? トリオデ嬢」
店主――魔術師のトリオデ。腕利きの凍らせ屋であるが、いまはこの屋台を自分で営業して生計を立てているのだという。五年経っても若々しいのは、魔女だからだろうか。丸眼鏡を焼き鳥の煙で曇らせているのはご愛敬。
「そうですねぇ。凍らせ屋は長距離輸送が一番稼げるっちゅうのんは、まあ間違いないですわ。ウチのこの屋台も――」
ぽんぽん、とトリオデさんが屋台を叩いた。
「長距離輸送の仕事を二回やって、その報酬で買った屋台やし」
「へえ。樽と魔冷庫とか、あんまり見ない配置ですけど、もしかして特注ですか」
「うん。足回りも補助術符入れて強化してるから、ひとりでも楽々引ける高品質な屋台なんよー。レンタルやとテックさんトコに頼ることになるけど、あそこの屋台はウチのやりたいことをするにはちょっと窮屈なんで、買っちゃった」
「やりたいこと? ああ、冷たいエールを提供する、ってやつですか。たしかに、テックさんの屋台は樽を置くっていうよりは、ケバブサンドをテイクアウト専門で売る屋台ですもんね」
「いやいや、本質はそこじゃないんよ、マスター」
「マスターじゃなくてシェフです」
「どっちでもええわ」
言って、トリオデさんはおもむろに自分用のジョッキにキンキンに冷えたエールを注いで、喉を鳴らして飲んだ。
「……――くぁー! コレよコレ! 全人類の夢! 酒飲みながら働く! これが最高なわけ! テックさんトコは意外とカタいし、みんな商売に貪欲やからさぁ、こういう感じはあんまりいい目で見られへんのよね」
「飲みすぎて病気になったら自由な生活も終わりますよ」
「そんなイケズ言わんといて! ウチは一生健康に飲んだくれるの!」
飲んだくれてる時点で健康かどうか微妙なラインだと思う。
「野菜とか、ちゃんと食ってます? この屋台、鶏の串しかないですけど」
「あー、野菜も好きやから食べるけど……健康目的なら、最近はコレで済ますことが多くなってきたかなぁ」
と、トリオデさんが取り出したのは、茶色くて四角いバーのようなものだ。手のひらに収まるサイズで、見た目はレンガのようにも見える。
「おや、『ナラム印のソーマバー』かね」
サニーさんが興味深そうに言った。
「それ一本で一食分の栄養素……だったかね? 私もひとつ食べたよ。味は悪くはないが、いささか味気ないだろう」
「食道楽のサニーさんには物足りへんと思うけど、ウチはこれで十分よ。――マスターは知ってる? コレ」
「シェフです。――ええ、旅先で食べましたよ。なんなら原産地にも立ち寄りました。旅行者や冒険者にはかなり評判いいですよね」
「ほう! では、南岸の海を越えて、南方大陸まで足を延ばしたのだな! 南方大陸は氏族の共同体が統治する蛮族の国だというが、無事に旅はできたかね?」
やや興奮気味に老貴族が詰めてきた。僕は串から鶏をひと切れ、歯で挟んで引き抜き、噛んだ。強めの塩味ともも肉の脂が口の中でじわりと広がる。
「そうですね……うーん。暮らし方の違う人たちの住む場所……国というか、地域というか……まあ、なんといいますか。説明するのは難しいですが、蛮族ではなかったですよ。みなさん紳士的でしたし、音楽と植生にまつわる知識に関しては、帝都よりも進んでいると思ったくらいで。ナラム地域には図書館もありました。立派なやつが」
僕はソーマバーを指さす。
「そのソーマバーも、ナラム氏族が統治する高原地域で育つ、不思議な豆ソーマが原材料ですし。大昔、精霊に豆の苗を授けられたそうですよ。栄養価がめちゃくちゃ高くて、日持ちもする。乾燥させて粉にして樽に詰めておけば、それこそ年単位で保つ。ソーマ粉を水で練って、硬く焼き上げたものがソーマバーなんですよ」
「現地でもそうやって食べられていたのかい?」
「いえ、現地では薄く円形に焼いたものが主食でしたね。羊肉や野菜を煮たものを巻いて、手づかみで食べるのが美味しかったですよ」
「ははあ……いや、うらやましい。再現できないかな?」
「……ソーマ粉が手に入れば、できなくはないと思いますが……」
未知の料理にワクワクしているサニーさんと、取り出したソーマバーをいつのまにかかじっているトリオデさん。
「たぶん、無理だと思います。冒険者や旅行者、忙しい商売人にも売れそうなのに、輸出販売を始めたのはここ二年ほど。それも、バー状に加工したものだけ。粉そのものは手に入れられないんですよね」
「ふぅむ。なんとかして帝国で育てられないのかね? ソーマという豆は」
「そこが不思議な豆の不思議なところなんですよ」
僕はやや声を潜めた。時間も遅く、ほかの客もいないが、スピリチュアルな話はひそひそ喋ったほうが雰囲気が出るのだ。
「豆としてのソーマは、かなり謎の多い植生で……ナラム氏族の住む高原地域以外では育たないんです」
「気温や湿度の問題かね?」
「僕もそう思いました。ですが、実際にナラム以外の地域、氏族以外の人間が育てると『環境以外の要因があるとしか思えない』ほどに、育たないんです。輸出しようにも、豆そのものはおろか、とてつもなく長持ちするソーマ粉が、ナラム地域を出たとたん三日と保たずに腐ってしまう――不思議でしょう?」
「豆を占有したいがための方便に聞こえるが……どうなのだろう」
「常識的に考えれば、そうなんでしょうね。ですが――僕は実際に、その光景を見ました。あの地域を出たとたん、ソーマの劣化が始まるんです。……大精霊が、そのようにソーマを作ったんだと」
「精霊かー。うーん、それは厄介やなー。ウチも何度か見たことあるけど、氏族の信仰の対象になるほどの精霊なら、そういう豆も生み出せるよなぁ」
「彼ら、豆に生かされている部分もあるので、かなり信心深いんですよ」
サニーさんが大きくうなずいた。
「いや、納得した。その大精霊が、二年前に『バーに加工したものに限り、輸出を許した』と――そういうことだね?」
「ええ。ソーマバーだけは腐らないんです。ソーマバーを砕いて粉状にすると、なぜかすぐ腐るんですが」
「マスター、けっこう詳しいんやねぇ。さては持ち帰ろうと四苦八苦したんやな?」
「……ええ、まあ。アムリタバー以外はぜんぶ失敗に終わりましたけどね」
ジョッキにエールのおかわりを追加し、トリオデさんが一口飲んだ。おそらく僕らよりもこのひとのほうがはるかに飲んでいる。
「でも、不思議な話やねぇ。大精霊の強度は信仰と認知度で決まるから、とにかく豆を広めまくったほうが、大精霊も神に近づくやろうに。帝都の魔術学院なら研究の対象になりそうな精霊やなぁ。ウチもいまの研究終わったら、そっち方面行ってもいいかも」
「……トリオデさん、魔術の研究してるんですか?」
飲んだくれは目を逸らした。
「一日三分三セットくらいは……」
「日課の筋トレみたいな単位で研究を……」
「ちなみに筋トレは十分十セット」
筋トレのほうが多いじゃねえか。
「しかし、ソーマとは……聞いたことのない響きだね。異国情緒があるというか」
「あー……」
僕もエールを一口飲んだ。むしろ、異世界情緒があるって感じですけどね。ソーマは地球、インド神話に出てくる不思議な酒と、その原材料となる植物の名前なのだとか。
――目を細めて思い出すのは、ナラム地域で出会った巫女だ。長い黒髪が似合う、白い肌に氏族特有の入れ墨を入れたひと。彼女は大精霊の血を引くシャーマンの血筋でもあるという。その入れ墨は、象形的に変形してはいたが――どう見ても漢字だった。
レタリングされた『巫』の一文字を顔面右側、額から頬にかけて。
「……いい所でしたよ。でも、なんだか故郷が恋しくなって――ナラム地域を折り返しにして、帝都に帰ることにしたんです。来た道とは別のルートを使って、やっぱりいろいろ見物しながらだったんで、二年かかりましたけど」
サニーさんが穏やかに笑った。
「それじゃあ……あったのかい? 探していたものは」
「ありましたよ。たくさん」
ナラム地域だけではない。僕の旅した場所には、地球から来た人たちが残した爪痕がたくさんあった。
「それはよかった。そのあたりの話も聞きたいものだが――」
ちら、と老貴族は屋台の主を見る。女魔術師は大あくびをしながら、「え? もうそろそろ閉めたいねんけど」とマイペースに言い放った。
「――またの機会にしようか」
「ですね」
苦笑しつつ、相槌を返す。サニーさんが立ち上がると、物陰からひっそりと護衛が現れて、どれだけフランクに接してくれていても、この人はやはり貴族なんだな、と実感する。
「ああ、そういえば」
去り際に、サニーさんが思い出したかのように言った。
「帝都に帰ってきてから、いろいろなところに顔見せをしていたと聞いたが――実家には、まだかね?」
聞かれた僕の表情を見て、サニーさんは珍しく声を上げて笑った。そんなに変な顔してます?
「いや、気まずいとは思うが、行きたまえ。シルヴィア殿も、昨年も大臣を退かれてからはすっかり丸くなってしまったし……子として、筋を通して報告くらいはすべきだと思うがね?」
「報告……いや、でも縁切った息子が長旅から帰ってきただけですし、そんなの必要ですかね……?」
言外に「できれば行きたくありません」と告げてみる。すると、サニーさんがまた笑った。
「ただいまのあいさつもそうだが、結婚報告だよ。しないのかね?」
「けッ、――けっこんほうこく……? え、だれとだれがですか?」
「キミと、プリム嬢だ。うん……?」
屋台を片付けている魔術師が、「あーあ、アカンわコレ」とか言いながらゴソゴソやっているが、これは僕に対する感想ではないと信じたい。
「いや……キミが帝都に帰ってきたからには、今後どうするにせよ、プリム嬢と身を固めるものだと思っていたのだが……違うのかい?」
僕はろくに返事もできず、しばらく硬直してしまった。やれやれ、とサニーさんが首を振って、笑いながら手を振り去っていく。トリオデさんがこっちを見ながら「アカンわー」と言い、屋台を牽いて去っていった。これは僕ですね。
そのあと呆然としたまま足を動かし、ダイナーに戻って二階の自室のベッドに入ったけれど、ぜんぜん眠れなかった。天井を見つめていると、脳内でケッコンという言葉が反響していた。ケッコンケッコン。逃避するように目を閉じると、余計に言葉が反響して仕方がなくて――僕は身を起こした。ほかのことをして気を紛らわせよう。具体的には、そう――料理とか。
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たくさん売れると続きが書けます。




