↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
色とりどりの黙示録  作者: owen
第三章 営業妨害者
96/97

黒の章 騒がしい食卓

 

「朝だぞ、起きろ」

 栄一《えいいち》とその妻の美花《みか》の部屋のドアをノックする。今は光助《こうすけ》がこの部屋を使っている。

 時刻は八時を回ったところ。

 咲以外誰も、華凪まで起きてこないので、こうして起こしに回っているところだ。

「起きぐぉッ」

 突然開いたドアに鼻が激突した。

「お、いたのか黒希。おはよ」

 中から出てきた光助が、悪びれる様子もなく朝の挨拶をしてくる。

 被害に気付いてねぇな、コイツ。

「……あぁ、おはよう。飯だ」

 光助は鼻をひくつかせて、

「おお。美味そうな匂い。華凪が作ったのか?」

 昨日の朝食は華凪が担当していた。

「俺だ」

 言うと、どういうわけだか光助が石のように固まってしまった。

「お前の、飯、だと?」

 彼のイメージだと、黒希という男は料理をしないらしい。

「安心しろ。毒は入ってない」

「……ふむ」

 何に頷いたのかは知らないが、石化が解かれた光助は一階に降りていった。

「次は……」

 振り返って四歩進む。そこに自室がある。

 ドアを開け、見慣れた部屋の、見慣れたベッドに歩み寄る。

「おい、起きろ」

 薄手の布団を引き剥がす。

 すやすやと眠る華凪がいた。

「起きろって」

 彼女の体を揺する。

「夏休みだからって怠けて……」

 言葉の途中で華凪の目がゆっくりと開いた。

「……え」


 その瞳《め》は、澄んだ青色だった。


「……あ。黒希おはよ」

「……」

 見間違い、だっただろうか。

「……飯だ。下がってこい」

「珍しいね。黒希が作ったの?」

「まぁな」

「楽しみ」

 華凪は微笑み、立ち上がった。

「その目……どうかしたのか?」

 彼女の目元が、少しだけ赤く腫れていることに気付いた。注視しなければ気が付かなかっただろう。

「ちょっと痒くて」

「もっとマシな言い訳を考えたらどうだ。なんで泣いてたんだ」

 尋ねると、何故だか華凪は頬を膨らませ、こちらを睨んできた。言っちゃ悪いが、これじゃ迫力不足だ。

「君が私を置いてけぼりにしたからだよ」

「昨日は部活あったんだろ。学び舎の友だけじゃ不満だってか?」

「不満」

 即答だった。

「今すぐ部活の仲間に謝ってこい」

「やーだ。今日という今日は一緒にいてもらうよ。私の二メートル以内にいること!」

 条件を提示してくるが、もちろん従う気はない。受け入れてしまっては、気持ちが落ち着く時間がなくなってしまう。

 まぁ、ライカが憑いている時点で、そんなものあったもんじゃないが。

 はいはいと適当にあしらい、部屋を出る。

「もう規約違反⁉︎」

 違反時の罰則を提示されていないので、怯える必要もなし。

 階段の半分くらいの所に足を着けた、その時。

「とぉぉぉぉぉりゃあぁぁぁぁッ‼︎‼︎‼︎」

「あ? ……ふがッ⁉︎」

 何者かによる何らかの力により、残りの段を全てすっ飛ばして床に落下する。

 痛みがないのが不思議だが、それよりも今は、

「ふん」

 鼻息を荒げ、こちらを見下ろす金髪の少女。

 オレンジ色の瞳にはいつもの輝きはなく、どこか怒っているように見えた。

「どうだ。我が必殺のドロップキックは」

 と、胸《まないた》を張る涼風《すずか》。

「はしを、ひょけろ」

 足で口を塞がれていて上手く発音できないが、何とか伝わったらしく、

「やだね」

 と、返事がくる。

「黒希⁉︎」

 上から華凪がやってくる。

 この光景を見て状況が把握できなかったのか、二段目で足を止めてしまう。

 ようやく口元から足が離れる。

 口の中に入った彼女の靴下の毛玉を摘み出した隙に、不覚にも涼風にマウントポジションを取られてしまう。

「その化けの皮を引っぺがしてやる!」

 今度は頬を掴んでくる。

 ぐいぐいと乱暴に引っ張るものだから、

「は、離せ! そんなに引っ張っても顔のパーツは動かなねぇぞ⁉︎」

「黙れ偽物! お前を福笑いにしてやろーか‼︎」

「どんな脅しだ!」

 冗談ではなく、このままでは本当にグロッキーな福笑いにされそうだ。

 そこでようやく、華凪が仲裁に入ってくる。

「涼風ちゃん止めて!」

 しかし、流石は優等生。口しか使わない。

 手を使えと言いたいところだが、単純な腕力でこの暴走娘を抑えられるかどうか。

「やーめーなーい‼︎」

「落ち着け! つーか、化けの皮ってなんだよ? 俺は悪魔でもなんでもないぞ」

 電池でも切れたのか、涼風の動きが唐突に止まった。

「物理的解決は無理か……」

 ごにょごにょと呟き、立ち上がる。

「ったく……突然現れたと思ったら何のマネだよ」

 痛くもないのに、どうしてか後頭部を摩りながら涼風を睨む。

 加害者は朝食の匂いに気付いたようで、

「お腹減った。当然、私の分もあるよね?」

「自由だなお前。当然ねぇよ。戻ってくるなら連絡くらい……方法がないか」

「そーだよ。養え!」

「ゆとりは黙って自炊しろ」

 リビングに戻ろうとすると、両肩をガシッと捕まれた。

「この家が全焼してもいいの?」

 耳元で囁かれる。

「……わかった。俺の分でも食ってろ」

「わーい!」

 涼風《たいふう》が去り、華凪が、

「ほんと、黒希とは正反対だよね。あの子」

「……面目ない」


「わ。咲ちゃん、その格好どうしたの?」

 食卓の席に着いた華凪が声を上げた。

「あ、これは涼風が……」

 賑やかな会話を背に、追加で一人分の朝食を作り始める。

「げ……そういや、フライパンに水入れちまってたな」

 一度洗って……いや、手間がかかるな。

 新しいフライパンを出そうにも、卵焼きを焼くにはちょっと大きすぎる。

 考えた結果、ゆで卵に変更。

 水が沸騰する間に魚を焼く。

「ねぇ、アニ……コホン。お兄ちゃんって、料理できたの?」

 涼風のひそひそ声が聞こえた。

「うん。滅多にしないけど、上手なんだよ?」

 それに華凪が答える。

「へぇ。俺はてっきり、インスタントばっかりかと思ってた」

 と、光助が。

 それ、間違ってはいない。

 大体、飯を作るのは面倒くさい。

 調理されたものがあるなら、調理する必要はないじゃないか。

 愛だのなんだのほざく奴がいるが、要は味が良けりゃいいんだろうが。

 そんなことを考えているうちに、お湯が沸いた。

 卵を投入し、焼けた魚を更に移す。

 味噌汁とご飯をよそってようやく朝飯にありつけると思った直後。

 玄関でドアの開く音がした。

「華凪ー、黒希ー、いるー?」

 茜がやってきた。

「茜だ。はーい」

 席を立とうとする華凪を片手で制し、

「俺が出る」

 リビングを出てすぐの玄関へ向かう。

 休日なのか、随分とラフな格好をしている茜が、今まさに家に上がり込もうとしていた。

「不法侵入か」

「私、顔パスあるから。はい、お土産ー」

 コンビニのレジ袋を差し出してくる。

 受け取って中身を見ると、

「……何だこれ」

 コーヒー缶がギッシリと詰め込まれていた。

「今夜は寝かさないぜ」

 キメ顔でレンタルDVDの袋を見せつけてくる。レシートを見ると、題名からして全てホラーのようだ。

 何か企画を持ってきたらしい。

「……ん? 今朝ご飯食べてるの?」

「そうだけど……」

 あ。嫌な予感がする。

「私も」

「……何が?」

 何が言いたいかはわかるが、万が一ということもあるし尋ねてみる。

「あ・さ・ご・は・ん。食べたいなー?」

「二十七のくせして飯を食わせろと?」

「心は若いの」

 アラフォー染みた発言をしてリビングに入る茜。

 そこで、彼女は停止した。

 彼女からして見れば異国人が二人。日本人の少年が一人いたからだろう。しかも、そのどれもが見知らぬ顔。戸惑うのも無理はない。

「あ……」

 今更だが、隠さなくてもよかったのかな?

 こういう時に叶がいれば幻術で誤魔化せるんだがな。

「茜、これは……」

「ホームステイね。なるほどなるほど。華凪は二歳になるまでアメリカに住んでたって言ってたもんねぇ。ホームステイ先に選ばれるのも当然か」

「……」

 なんとか、なったようだ。

「ほーむすてい? 私はお兄ちゃんの妹なんだよ」

 と、涼風が衝撃的な事実を暴露する。

 この爆弾娘め。

「お兄ちゃん? あぁ、そこの人? にしても、日本語ペラペラだね。すごいすごい。あ、すごいって英語でなんて言うんだっけ……ワンダフォー?」

「ううん。あなたの後ろにいる人」

 ご丁寧に、涼風がこちらを指差してきた。

 茜が振り返ってくる。

 視線が合う。

 何も言わずに、飛びついてきた。

「な、なんだよ……」

 人前なので、少し照れくさい。

「家族、見つかったんだね」

「……」

 そうか。彼女は、俺が孤児だと思っていたんだっけか。

「……別に、よかねぇよ」

「こーら。また君の悪い癖が出たよ。もっと素直になりなさいって」

 いや、そうじゃない。

 ただ、妹と再会したってのに、何も感じない。

 何かが間違っている。

 探し求める相手が間違っている、気がする。

「……もう離れてくれ。暑苦しい」

 目まぐるしく変わる状況のせいで忘れがちだが、今は夏だ。

 茜の体は、外にいたせいなのか少し熱い。

「おっと。ごめんごめん。じゃ、誰が誰なのか紹介して……っと、その前に朝ご飯を貰おうかな」

 と、食卓の最後の席に着く。

「俺は給仕係じゃねぇぞ」

「冗談だよ。はい、じゃあ自己紹介ね。私は菅野《すがの》茜《あかね》という者です」

 勝手に話を始めてしまう。

 はぁ、と息を吐いてテレビのソファで朝食を取ることにする。

 全く、どいつもこいつも。

 こっちの気も知らないで、食卓のテーブルでは、

「そこのお人形さんは?」

 お人形? 食卓の方に目を向けると、茜の視線は咲に固定されていた。やはり、咲は誰よりも人目を引くようだ。まぁ、あんな容姿じゃ仕方ないか。

「え、咲、です……」

 緊張した様子で咲は答えた。

「エミちゃんか。それで、エミちゃんはどうしてワイシャツだけなの?」

 あの格好を気に入っていると言っていたし、外出以外はずっとワイシャツのままでいる気なんだろうか。

「あ、エミたんは私のだからね」

 そこで涼風が横槍を入れた。

「貴女は……」

「涼風だよ」

「あ、スズカちゃん。へぇ。確かに、黒希の面影があるね。何歳なの?」

「十五」

 敵視してる割には、素直に答えるんだな。

「一歳違いなんだ。お母さんとお父さんは一緒じゃないの?」

 すると、痛々しい視線を感じた。

 視線が外れるまで気付かないフリを押し通す。その視線が誰のものなのかは言うまでもないだろう。

「お兄ちゃんが意地はって、ケンカ中だから」

「余計なことを……」

 慌てて涼風の言葉を遮ろうとしたが、どうやら間に合わなかったらしい。

「くーろーきー?」

 茜の優しい声の裏には恐ろしい鬼が宿っていた。

「……なに」

「後でお話があるから」

「……」

 家族関連の話になると、茜は煩くなる。

 今日も落ち着く時間はあまりなさそうだ。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。