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色とりどりの黙示録  作者: owen
第三章 営業妨害者
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黒の章 騒がしい食卓

 

「朝だぞ、起きろ」

 栄一えいいちとその妻の美花みかの部屋のドアをノックする。今は光助こうすけがこの部屋を使っている。

 時刻は八時を回ったところ。

 咲以外誰も、華凪まで起きてこないので、こうして起こしに回っているところだ。

「起きぐぉッ」

 突然開いたドアに鼻が激突した。

「お、いたのか黒希。おはよ」

 中から出てきた光助が、悪びれる様子もなく朝の挨拶をしてくる。

 被害に気付いてねぇな、コイツ。

「……あぁ、おはよう。飯だ」

 光助は鼻をひくつかせて、

「おお。美味そうな匂い。華凪が作ったのか?」

 昨日の朝食は華凪が担当していた。

「俺だ」

 言うと、どういうわけだか光助が石のように固まってしまった。

「お前の、飯、だと?」

 彼のイメージだと、黒希という男は料理をしないらしい。

「安心しろ。毒は入ってない」

「……ふむ」

 何に頷いたのかは知らないが、石化が解かれた光助は一階に降りていった。

「次は……」

 振り返って四歩進む。そこに自室がある。

 ドアを開け、見慣れた部屋の、見慣れたベッドに歩み寄る。

「おい、起きろ」

 薄手の布団を引き剥がす。

 すやすやと眠る華凪がいた。

「起きろって」

 彼女の体を揺する。

「夏休みだからって怠けて……」

 言葉の途中で華凪の目がゆっくりと開いた。

「……え」


 そのは、澄んだ青色だった。


「……あ。黒希おはよ」

「……」

 見間違い、だっただろうか。

「……飯だ。下がってこい」

「珍しいね。黒希が作ったの?」

「まぁな」

「楽しみ」

 華凪は微笑み、立ち上がった。

「その目……どうかしたのか?」

 彼女の目元が、少しだけ赤く腫れていることに気付いた。注視しなければ気が付かなかっただろう。

「ちょっと痒くて」

「もっとマシな言い訳を考えたらどうだ。なんで泣いてたんだ」

 尋ねると、何故だか華凪は頬を膨らませ、こちらを睨んできた。言っちゃ悪いが、これじゃ迫力不足だ。

「君が私を置いてけぼりにしたからだよ」

「昨日は部活あったんだろ。学び舎の友だけじゃ不満だってか?」

「不満」

 即答だった。

「今すぐ部活の仲間に謝ってこい」

「やーだ。今日という今日は一緒にいてもらうよ。私の二メートル以内にいること!」

 条件を提示してくるが、もちろん従う気はない。受け入れてしまっては、気持ちが落ち着く時間がなくなってしまう。

 まぁ、ライカが憑いている時点で、そんなものあったもんじゃないが。

 はいはいと適当にあしらい、部屋を出る。

「もう規約違反⁉︎」

 違反時の罰則を提示されていないので、怯える必要もなし。

 階段の半分くらいの所に足を着けた、その時。

「とぉぉぉぉぉりゃあぁぁぁぁッ‼︎‼︎‼︎」

「あ? ……ふがッ⁉︎」

 何者かによる何らかの力により、残りの段を全てすっ飛ばして床に落下する。

 痛みがないのが不思議だが、それよりも今は、

「ふん」

 鼻息を荒げ、こちらを見下ろす金髪の少女。

 オレンジ色の瞳にはいつもの輝きはなく、どこか怒っているように見えた。

「どうだ。我が必殺のドロップキックは」

 と、まないたを張る涼風すずか

「はしを、ひょけろ」

 足で口を塞がれていて上手く発音できないが、何とか伝わったらしく、

「やだね」

 と、返事がくる。

「黒希⁉︎」

 上から華凪がやってくる。

 この光景を見て状況が把握できなかったのか、二段目で足を止めてしまう。

 ようやく口元から足が離れる。

 口の中に入った彼女の靴下の毛玉を摘み出した隙に、不覚にも涼風にマウントポジションを取られてしまう。

「その化けの皮を引っぺがしてやる!」

 今度は頬を掴んでくる。

 ぐいぐいと乱暴に引っ張るものだから、

「は、離せ! そんなに引っ張っても顔のパーツは動かなねぇぞ⁉︎」

「黙れ偽物! お前を福笑いにしてやろーか‼︎」

「どんな脅しだ!」

 冗談ではなく、このままでは本当にグロッキーな福笑いにされそうだ。

 そこでようやく、華凪が仲裁に入ってくる。

「涼風ちゃん止めて!」

 しかし、流石は優等生。口しか使わない。

 手を使えと言いたいところだが、単純な腕力でこの暴走娘を抑えられるかどうか。

「やーめーなーい‼︎」

「落ち着け! つーか、化けの皮ってなんだよ? 俺は悪魔でもなんでもないぞ」

 電池でも切れたのか、涼風の動きが唐突に止まった。

「物理的解決は無理か……」

 ごにょごにょと呟き、立ち上がる。

「ったく……突然現れたと思ったら何のマネだよ」

 痛くもないのに、どうしてか後頭部を摩りながら涼風を睨む。

 加害者は朝食の匂いに気付いたようで、

「お腹減った。当然、私の分もあるよね?」

「自由だなお前。当然ねぇよ。戻ってくるなら連絡くらい……方法がないか」

「そーだよ。養え!」

「ゆとりは黙って自炊しろ」

 リビングに戻ろうとすると、両肩をガシッと捕まれた。

「この家が全焼してもいいの?」

 耳元で囁かれる。

「……わかった。俺の分でも食ってろ」

「わーい!」

 涼風たいふうが去り、華凪が、

「ほんと、黒希とは正反対だよね。あの子」

「……面目ない」


「わ。咲ちゃん、その格好どうしたの?」

 食卓の席に着いた華凪が声を上げた。

「あ、これは涼風が……」

 賑やかな会話を背に、追加で一人分の朝食を作り始める。

「げ……そういや、フライパンに水入れちまってたな」

 一度洗って……いや、手間がかかるな。

 新しいフライパンを出そうにも、卵焼きを焼くにはちょっと大きすぎる。

 考えた結果、ゆで卵に変更。

 水が沸騰する間に魚を焼く。

「ねぇ、アニ……コホン。お兄ちゃんって、料理できたの?」

 涼風のひそひそ声が聞こえた。

「うん。滅多にしないけど、上手なんだよ?」

 それに華凪が答える。

「へぇ。俺はてっきり、インスタントばっかりかと思ってた」

 と、光助が。

 それ、間違ってはいない。

 大体、飯を作るのは面倒くさい。

 調理されたものがあるなら、調理する必要はないじゃないか。

 愛だのなんだのほざく奴がいるが、要は味が良けりゃいいんだろうが。

 そんなことを考えているうちに、お湯が沸いた。

 卵を投入し、焼けた魚を更に移す。

 味噌汁とご飯をよそってようやく朝飯にありつけると思った直後。

 玄関でドアの開く音がした。

「華凪ー、黒希ー、いるー?」

 茜がやってきた。

「茜だ。はーい」

 席を立とうとする華凪を片手で制し、

「俺が出る」

 リビングを出てすぐの玄関へ向かう。

 休日なのか、随分とラフな格好をしている茜が、今まさに家に上がり込もうとしていた。

「不法侵入か」

「私、顔パスあるから。はい、お土産ー」

 コンビニのレジ袋を差し出してくる。

 受け取って中身を見ると、

「……何だこれ」

 コーヒー缶がギッシリと詰め込まれていた。

「今夜は寝かさないぜ」

 キメ顔でレンタルDVDの袋を見せつけてくる。レシートを見ると、題名からして全てホラーのようだ。

 何か企画を持ってきたらしい。

「……ん? 今朝ご飯食べてるの?」

「そうだけど……」

 あ。嫌な予感がする。

「私も」

「……何が?」

 何が言いたいかはわかるが、万が一ということもあるし尋ねてみる。

「あ・さ・ご・は・ん。食べたいなー?」

「二十七のくせして飯を食わせろと?」

「心は若いの」

 アラフォー染みた発言をしてリビングに入る茜。

 そこで、彼女は停止した。

 彼女からして見れば異国人が二人。日本人の少年が一人いたからだろう。しかも、そのどれもが見知らぬ顔。戸惑うのも無理はない。

「あ……」

 今更だが、隠さなくてもよかったのかな?

 こういう時に叶がいれば幻術で誤魔化せるんだがな。

「茜、これは……」

「ホームステイね。なるほどなるほど。華凪は二歳になるまでアメリカに住んでたって言ってたもんねぇ。ホームステイ先に選ばれるのも当然か」

「……」

 なんとか、なったようだ。

「ほーむすてい? 私はお兄ちゃんの妹なんだよ」

 と、涼風が衝撃的な事実を暴露する。

 この爆弾娘め。

「お兄ちゃん? あぁ、そこの人? にしても、日本語ペラペラだね。すごいすごい。あ、すごいって英語でなんて言うんだっけ……ワンダフォー?」

「ううん。あなたの後ろにいる人」

 ご丁寧に、涼風がこちらを指差してきた。

 茜が振り返ってくる。

 視線が合う。

 何も言わずに、飛びついてきた。

「な、なんだよ……」

 人前なので、少し照れくさい。

「家族、見つかったんだね」

「……」

 そうか。彼女は、俺が孤児だと思っていたんだっけか。

「……別に、よかねぇよ」

「こーら。また君の悪い癖が出たよ。もっと素直になりなさいって」

 いや、そうじゃない。

 ただ、妹と再会したってのに、何も感じない。

 何かが間違っている。

 探し求める相手が間違っている、気がする。

「……もう離れてくれ。暑苦しい」

 目まぐるしく変わる状況のせいで忘れがちだが、今は夏だ。

 茜の体は、外にいたせいなのか少し熱い。

「おっと。ごめんごめん。じゃ、誰が誰なのか紹介して……っと、その前に朝ご飯を貰おうかな」

 と、食卓の最後の席に着く。

「俺は給仕係じゃねぇぞ」

「冗談だよ。はい、じゃあ自己紹介ね。私は菅野すがのあかねという者です」

 勝手に話を始めてしまう。

 はぁ、と息を吐いてテレビのソファで朝食を取ることにする。

 全く、どいつもこいつも。

 こっちの気も知らないで、食卓のテーブルでは、

「そこのお人形さんは?」

 お人形? 食卓の方に目を向けると、茜の視線は咲に固定されていた。やはり、咲は誰よりも人目を引くようだ。まぁ、あんな容姿じゃ仕方ないか。

「え、咲、です……」

 緊張した様子で咲は答えた。

「エミちゃんか。それで、エミちゃんはどうしてワイシャツだけなの?」

 あの格好を気に入っていると言っていたし、外出以外はずっとワイシャツのままでいる気なんだろうか。

「あ、エミたんは私のだからね」

 そこで涼風が横槍を入れた。

「貴女は……」

「涼風だよ」

「あ、スズカちゃん。へぇ。確かに、黒希の面影があるね。何歳なの?」

「十五」

 敵視してる割には、素直に答えるんだな。

「一歳違いなんだ。お母さんとお父さんは一緒じゃないの?」

 すると、痛々しい視線を感じた。

 視線が外れるまで気付かないフリを押し通す。その視線が誰のものなのかは言うまでもないだろう。

「お兄ちゃんが意地はって、ケンカ中だから」

「余計なことを……」

 慌てて涼風の言葉を遮ろうとしたが、どうやら間に合わなかったらしい。

「くーろーきー?」

 茜の優しい声の裏には恐ろしい鬼が宿っていた。

「……なに」

「後でお話があるから」

「……」

 家族関連の話になると、茜は煩くなる。

 今日も落ち着く時間はあまりなさそうだ。








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