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色とりどりの黙示録  作者: owen
第2章 開幕
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透明の章 第5節

 

 コンビニで相変わらずの黒のジャージ姿の黒希と合流して、買い物を済ませて、黒希の案内で新たな新居へ向かう。

 コンビニから十数分のところで、そこに着いた。

 見た限りごく普通の一軒家……なのだが。

 叶は玄関を見つめた。

「……」

 ここ、黒希と華凪が初めて会った場所だ。

「ん? どうかしたか?」

 黒希の声でハッとして、

「ううん。何でもない」

 華凪と会える。何故だか、胸が高鳴った。

「開けてくれないか。両手が塞がっててさ」

「うん……」

 会って、いいのだろうか。

 黒希はきっと華凪のことが好きで、華凪は黒希のことが好き。じゃあ私は? 私は黒希の何なんだ?

 固まっていると、ドアが開いた。

 茶髪の、幼さを残した顔立ちの少女が目の前に現れた。

「こんにちわ。何かご用……あれ? 黒希。あ、もしかしてこの人が黒希のお友達?」

「友達じゃない」

 そう言って、黒希は二人の横を通って家の中に入った。

 友達じゃない。あれはきっと、照れ隠しのようなものだ。それが、自分には解る。

「もう……照れなくてもいいのに」

 華凪も解ったようだ。

「どうぞ入ってください」

 愛想笑いを浮かべて、言ってくる。

「どうも……」

 家の中に入る。

 一度も嗅いだことのない嗅ぎ慣れた匂いに、少し落ち着く。妙な気分だ。明らかに他人の家の匂いなのに。

 靴を脱ぐ。

 騒がしい部屋へ何となく向かう。

 そこは、リビングのようだった。

 テレビ前では、

「え⁉︎ 芋スナ! ちょっとずるいよ‼︎」

 金髪の少女と、

「おい裏取りされてるぞ⁉︎」

 見知らぬ少年がシューティングゲームをやっていた。二人の後ろのソファには、見慣れた白い髪の少女が二人の様子を見て楽しそうに微笑んでいた。

「咲!」

 思わず声を上げると、テレビ前の二人と、咲の視線がこちらに向けられた。

「あ、叶も来たんだ」

 叶は咲に歩み寄って、

「昨日は心配したんだぞ。何処に行ってたんだよ」

 訊くと、咲は困ったようにキッチンの方にいる黒希に視線を向けた。

 黒希はレジ袋から飲み物やお菓子を出しながら、

「叶が知りたいって言ってんなら教えてやれ」

 咲は不安げに頷いた。

「……昨日はね、地獄に行ってたんだ」

「ジゴク? それって何処?」

 と、首を傾げると黒希が、

「何処って、死んだ後に逝く場所だぞ」

 その言葉に、叶は益々解らなくなって、

「……え? え? でも咲、足あるよね?」

 恐る恐る、咲の腕に触れた。

 咲は苦笑して、叶の手を取った。

「生きてるよ」

「じゃあ、生きたまま地獄に?」

「うん」

「……」

 こことは違う別の世界の存在。それは、『亀裂』の話を黒希から聞いた時に何となくではあったが認知していた。

「黙って行かなくても、書き置きぐらい残しておいて欲しかった」

「心配させて、ごめんね。二度と戻らないつもりだったから」

「……どうして」

 理由を訊くと、咲は言い辛そうにして、

「叶を、みんなを巻き込みたくなかった」

「……」

 巻き込みたくない。その感情はよく知っていた。黒希が、いつ何時も抱いている感情だ。

 知っているからこそ、言い返すことは出来なかった。だが、

「……私より弱いくせに、強い奴の台詞吐いてんじゃねぇよ」

 そう言った彼女の口調は、本来の叶のものとは少し違っていた。

「……叶?」

「ん……? あれ?」

 叶は驚いたように自分の口元を抑えた。

 金髪の少女がこちらを振り返って、

「今のお兄ちゃんみたい……はっ⁉︎ まさか、ワタシにはお姉ちゃんまでいた……?」

 と、ゲームのコントローラーを放棄してブツブツ呟き始める。

「お前、どうかしたのか?」

 黒希に訊かれ、叶はビクッと肩を震わせた。

 自分に似たようで不快感を抱かせてしまっただろうか。

「……何でもない。それより、あの……ここで暮らしてもらうって、どうして?」

「それは後で話す」

 黒希はそう言い残してリビングを出てしまった。

「黒希! あの、好きにくつろいでてください」

 華凪も行ってしまう。

 叶はよそよそしく咲の隣に座った。すると、前のテーブルに金髪の少女が乗り、四つん這いになってこちらに顔を突き出してきた。甘い吐息が顔にかかる。

「な、何?」

「吊り目、髪型、整った顔立ち、話し方、黒の服。なるほど。クールビューティー系のだね。うんうん悪くない」

 満足気に頷くと、テーブルの上で胡座をかいて、右手を差し出してきた。

「ワタシ涼風。お兄ちゃんの妹だよ」

 叶は困惑気味に彼女の手を取って、

「叶。お兄ちゃんって……そこの人?」

 テレビ前で未だにゲームに夢中になっている、パーカー姿の少年を見る。

「ううん。ほら、あの眠たそうな目の」

「……え? 黒希の、妹?」

「うん。あ、似てないって思ったでしょ?」

 見抜かれた。

「まぁ……うん」

「よく言われるんだ。エミたんも同じこと言ってたから。ねぇエミたん?」

 抱き付いてくる涼風を、咲は抵抗することなく受け止めた。頰ずりされても、咲はくすぐったそうにしてるだけ。

「……二人はいつから知り合いなの?」

「昨日だよ」

 涼風の返答に、叶はコミュニケーション能力の差を感じずにはいられなかった。昨日今日知り合った仲で、こんなにも馴れ馴れしくスキンシップができるだろうか。私には無理だ。

「……」

 にしても、状況はまだ把握できていない。

 咲が昨日地獄に行ったことは判った。

 だが、黒希は? 何故連絡がつかなかった。

 何故急に黒希の妹が出てきた。


『……殺してやる』


「ッ」

 頭に鋭い痛みが走った。

 胸の内で、何かが疼く。

 まただ。黒希の記憶と感情が流れ込んできた。

 今のは、憎悪の記憶。

 白衣姿の、マイアミで見た龍地という男が、包丁のような黒い刃物を手にしていた。

『今さら遅ェよ。涼風は地獄に落ちた。お前が落とした。俺も、お前が地獄に落とした。その事実は変わらねぇんだよ‼︎‼︎』

 地獄に落とした。あの時、黒希は言っていた。

 もしかしたら、昨日、黒希は涼風を助けに地獄へ行っていたのかもしれない。

「……」

 記憶を辿れば、分かるのだろうか。

 彼のことを、その強さを理解できるだろうか。

 そんな思考は、ポケットの中のスマートフォンの着信音で停止した。

「あ」

 画面を見て、リビングを出る。

「もしもし」



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