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色とりどりの黙示録  作者: owen
第2章 開幕
59/97

サイドストーリー.1-1

 彼らが休息の時にあることも知らず、その世界の何処かに『亀裂』が生じる。

 三人の若い女性が、『亀裂』の向こう側から出てくる。

「ここで間違いないな」

 最初に口を開いたのは、背に弓を背負った女性。紺のティーシャツに黒のジャケット、ジーンズといった服装。黒髪に、青い瞳。目つきは鋭く、唇は固く結ばれていて、強気な印象を抱かせる。

 彼女の名は、アルテミスという。

「ええ。奴の力はこの世界で途切れています」

 それに応えたのは、白いシャツに茶色のズボンといった格好の女性。銀色の長髪に赤と青の二つの宝石が飾られていて、瞳は青。凛々しい顔つきを見ると、アルテミスとはまた違う強さを感じさせる。

 彼女の名はアテナ。

「何でもいいから、早く帰ろ……ね?」

 と、小さな声で呟く、黒いローブで全身を覆う女性。フードの中から覗く顔は、美人なのだが赤い瞳の下にはクマがあり、唇は蒼く、お世辞にも健康的とは言えない。

 そんな女性の名はヘスティア。

「何を言うんですヘスティア」

「で、でも……お家《うち》が一番だよ」

 と、『亀裂』へ戻ろうとするヘスティアの首根っこをアテナは掴んだ。

「ダメです。手ぶらで帰れば、またゼウスの小言を聞かねばならない。貴女も、それは嫌でしょ?」

 うっとヘスティアは呻き、

「……分かったよ。戦闘向きの貴女方に任せるので早くやっちゃって」

 それに、いつの間にか最寄りの木の頂上に登っていたアルテミスが、

「……こんな所に人がいるとは思えないな」

 そんな三体の女神が降り立ったのは、熱帯の森、活火山のある海に囲まれた絶海の孤島。

「……ヘスティア。座標の設定をしたのは、確か貴女でしたよね?」

「なっ……私のせいじゃない‼︎ 変な結界のせいで上手く着地出来ないかもしれないと、私はちゃんと言った! 陸地に転移できただけで有難いと思ってほしいよ」

 子供のように言い訳するヘスティアの頭に、アテナは軽く叩《はた》いて

「初耳です。貴女、もう少し声を張り上げたらどうです? こちらとしては、そちらの方が非常に助かるのですが」

「何よ何よ! 私より交流経験が多いからって偉そうにしないでくれる⁉︎」

 悔しそうに一際大きな声を上げるヘスティア。

「別に偉そうにはしてません。それと、そんな感じの声が助かります」

「……何よ」

 ヘスティアはその場に屈んで、人差し指で地面をグリグリと掘り始めた。いじけたようだ。

「アテナ。ヘスティアをあまり揶揄《からか》うな。洞穴暮らしで誰かと接する機会が少ないんだ。察してやれ」

 木から飛び降りてきたアルテミスが言う。

「別に揶揄ったわけでは……まぁ、いいですよ。それで、どうします?」

「呼び出す。向こうから来てもらおう」

 アルテミスの左手に、鈍色の矢が現れる。矢を弓につがえ、夜空に向ける。放つ。

 数秒後、白い閃光が闇夜を照らし、爆音が夜の静寂を劈いた。

「これで来るでしょうか」

「奴らのことだ。異変があれば駆けつける」

「あの二人に会うのも久しいですね」

「奴らは敵だぞ。情を移すな」

「辛辣ですね。ライカとレオンは昔の戦友。少しの会話ぐらい許してもらえませんか?」

 アルテミスは舌打ちして、

「……好きにしろ。だか、役目は忘れるな」

「貴女はいいのですか?」

 アルテミスは木に背中を預け、

「神の名を棄てた者に、知り合いなどいない」

 吐き捨てるように言った。

 アテナはやれやれと言いたげな様子で肩を竦め、

「素直に嬉しいと言えばいいものを」

 夜空を仰ぎ見た。

「……あれから、大分変わってしまいましたね」

 世界は、こちらが立ち止まっていても、勝手に運命《さだめ》を進めてしまう。急ぎ足で、何かを追い求めているように。

 それは、あの二人を思い出させる。

 はたから見ればくだらない、子供っぽい夢を実現するために幾つもの戦場を駆け、その努力も実らずに逝ってしまった彼らを。まぁ、こうして気配を感じ取っとだから、生きていたんだろう。

 それが嬉しく思えるのに、今は戦わなければならない。

 全く、運命というものは皮肉を知っているらしいから腹が立つ。

「……ひっ」

 ヘスティアの呻き声がする。

「……何でしょう?」

 アテナがそちらを振り向くと、ヘスティアは青い肌をさらに真っ青にして、ビクビクと肩を震わせていた。

 彼女の心境を代弁するように、アルテミスが、

「……殺気。痛いから引っ込めろ」

「あ。失礼しました」

 アテナは考えるのを止め、座って二人を待つことにした。




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