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色とりどりの黙示録  作者: owen
序章
53/97

サイドストーリー.1-5

 

 風の音が聞こえるほどの静寂に包まれた何処かの世界。草原に建つ、大きな書院造りの屋敷。その屋敷の中庭に隣接する四十畳はある応接間に、レオンとライカはいた。

「……遅いな」

 ライカが少しだけ苛立った様子で言う。

 それに、レオンは呆れた調子で、

「いつもの事だ」

 二人は召集をかけられ、この場に参じていた。呼び出した本人はというと、数十分経った今でも姿を見せていない。

「……ん。ようやくお出ましか」

 レオンが顔を上げると、人が転ぶ音がした。

 それから数秒して、

「あぅっ……」

 少女の声がした。

 襖が全開なので、応接間周辺の廊下が見える。おかげで、二人を呼び出した少女の姿が視認できた。

「いてて……あれ? もう来てたんだ」

 のろのろした口調。聞いていると今にも眠りに就きそうなほど無気力に満ちた声色。そんな声の持ち主は、十五歳ほどの美しい少女。身長は約百四十センチ。上下揃ったピンク色の子供っぽいパジャマ姿でタオルケットに身を包んでいる。膝下まで伸びる灰色の髪。何処かの少年と同じ眠たげに半分閉じている黄色の瞳。

 彼女の名はハイガミ。本名かどうかは、レオン達も知らない。

 ライカがため息を吐き、

「もう昼だぞ。いつまで寝ているつもりだ」

 ハイガミはえへへと笑い、

「今日はポカポカしてたからついね〜」

 それに、レオンはハイガミを睨みつけた。

「……呑気なものだな。自分の子供を放っておいて居眠りか」

「レオン。やめろ」

 ライカが宥めようとするが、ハイガミは、

「止めなくてもいいよ。何を言われても仕方ないから」

 温厚な表情を崩すことなく、そう言った。

「あの子はどう?」

 呼び出した理由は、やはり黒希の件についてだった。

「元気だぞ。コイツに例の銃で撃たれたけどな」

 と、ライカは言ってレオンを横目で見た。

「力を試せと言われた。加減をしたら、何処まで通用する実力があるのか判らないだろ」

 ハイガミの顔に少しだけ怒りが滲む。だが、すぐに寝ぼけた顔に戻って、

「それで、どうかなぁ?」

「はっきり言って、弱い。『後継者』の中で唯一人間だったアニより弱いんじゃないか?」

「仕方ないよ。あの子の魂と『刻印』を壁で隔てたからね」

「奴を隠そうとしたんだろうが、無駄だったな」

「え?」

 首を傾げるハイガミに、ライカが、

「アイツ、自分で壁を壊しやがった」

「え……どうやって?」

「さぁな。魔術も視えない奴が魔術の、しかもお前が作り上げた壁を自力で壊せるとは思えないが、誰かが協力したって線はないだろうし……」

 それにレオンが、

「……いや。あの少女はどうだ?」

「ん? もしかして、華凪のことか?」

「そうだ」

「アイツはただの人間だ。魔力もないし、特別な力もない。まぁ、どうやって地獄に来たかは気になるが、調べたって何も出ないぞ」

 そこで、二人の話を聞いていたハイガミが、

「かなって?」

「黒希の今の家族で、彼女」

 ライカが説明すると、ハイガミは何故かうっとりした様子で、

「黒希、もうお嫁さんがいるんだぁ。ねぇ、どんな人なの?」

 興味津々といった様子で聞いてくる。

「んー……本人は否定してるが、黒希が唯一懐いてる人間だ。華凪といる時だけ心が落ち着いている。多分、母親の代わりと思ってるんじゃないか?」

「そっかぁ……自分の居場所見つけてくれたんだ。よかった」

 ホッと胸をなで下ろすハイガミ。

「それも、長くは続かない」

 レオンが口を挟む。

「奴は、『後継者』としての力を解放した。神、天使、悪魔。あらゆる存在が狙うはずだ。そうなれば今の、幽体の状態では守れない。ライカの体は、まだ『二番目の世界』に健在していると聞いた。扉はまだ作れないのか?」

「うん。りゅうじが方法を探してるとこなの。まだ時間がかかりそうだよ」

「急げと伝えておけ。それと、この件が済んだら俺達は元いた世界に帰る。構わないな?」

「もちろんいいよ。二人とも、ありがとう」

 ありがとう、か。

 子を見捨てた親。

 親を恨む子。

 彼の人生は酷く荒んでいる。

 まるで…………。

 レオンはライカの方を見た。

 その視線に気付いたライカが、こちらを見て、

「何だ?」

「何でもない。ハイガミ、一つ訊きたい」

「ん?」

「黒希は龍地を殺す気だ。お前のことを知れば、お前も殺すだろう」

 レオンは、そこで言葉を切った。ハイガミが暗い表情をしたので、こちらが何が言いたいか理解したようだったから。

「そうだね……何をされても仕方ないよ。守るためとはいえ、酷いことしちゃったもん」

「じゃあ、彼からの罰は甘んじて受けると?」

「そのつもりだよ」

「……分かった。話は終わりか?」

「うん。来てくれてありがとう」

 二人は立ち上がり、屋敷から出た。あの屋敷の中では魔術が使えないので、外で転移系の魔術を使わなければならない。

「なぁ、レオン。どうしたんだ? 珍しく感情的になってたけど」

「……黒希に、少し同情している。あの女は、昔は『灰色の魔女』と呼ばれ恐れられていたと聞いている。最強の魔術師だとも。それほどの力があるのなら、彼女が黒希を守ることもできたはずだ」

「『後継者』の性質は、お前も知ってるだろ。死は確定し、その道筋はイバラで固められている。肉体的にも精神的にもボロボロになる。ハイガミは、黒希を強くして少しでも生存率を上げようとしてるんだ。悪い方法じゃないだろ」

「……そうだな。悪くはない」

 だが、最善とも言えない。

 あの少年はあまりにも無知だ。

 経験もない。

 そんな状態でこれから先は生きてはいけない。

 レオンは遠い目で青空を見つめ、

「……今回の結末は、どうなるんだろうな」


 誰が何をしようが、必ず犠牲者が出る。

 守りたいという意志が強ければ強いほど、肉体的にも精神的にもボロボロになっていく。

 これは、そういう物語だ。


















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