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色とりどりの黙示録  作者: owen
序章
37/97

緑の章 第3節

 

 昔から誰かの布団で誰かと一緒に寝るのが好きだった____________________今日までは。

「ううっ、もうお嫁さんに行けないよ……」

 事後。ベッドの中、乱れた服を整えながら、咲は嘆いていた。

 そんな彼女の横で、すっかり満足した様子の涼風が、

「大丈夫だよエミたん。ワタシがエミたんを一生大事にするから」

 咲に抱きつき、体の『ある』部分を触る。

「ひゃうっ⁉︎」

「カワイイ声出しちゃって♪」

「やめてください!」

 と叫んで、涼風の腕から、ベッドからスルリと抜け出す。

「魔力をくれたのには感謝します。ですけど、私は目的があってここに来たんです」

 訴えるように、咲は言う。

「目的って?」

 涼風が上半身を起こして、訊いてきた。

「人を探してるんです。亡者さんじゃなくて、生きてる人を」

「そうなの? あ! じゃあ、いい所に連れて行ってあげるよ」

 涼風がベッドから抜け出し、咲の手を取った。

「え……あ」

 何かを言いかけた時には、周囲の景色は一変していた。

 屋外の、少し高い場所。高台だろうか。

 確かに見渡しがいいが、人を見つけられるかと問われたら、無理だ。

「ここにはね、シノが生きてる人探しに使う術式があるんだ」

 涼風が咲から少し離れた場所で屈み、指先で地面に触れた。

「シノって?」

「死の騎士、だから、シノ。ワタシの師匠なんだ」

「師匠さん、ですか」

「そ。エミたんの探してる人の身体的特徴は?」

「それは……よく分からないんです。最後に会ったのは六年くらい前なので。名前でもいいですか?」

「んー……名前検索は無理っぽいなぁ。あ、でも、今地獄にいる生きてる人を全員検索して、その人のイメージをエミたんに送るってのはどう?」

 それに、咲は少し考えた。

 最後に会った時より、彼は成長しているだろう。見分けがつくが心配だが、やらなければ一生見つからないままだ。

「お願いします」

「了解」

 涼風が、小声で何かを唱えた。

 すると、彼女の足元の地面に、光の線で描かれた術式が浮かび上がった。

 無数の光の線が式から飛び出し、地表を駆けるように四方八方へ散って行った。

 咲もよく知る、探索魔術の一種に似ていた。

 十数秒して光が戻ってくる。

 すると、咲の視界に何かの映像が横切った。

 見えたのは、一人の少年だ。

 大鎌を持ち、誰かと刃を交えている。

「……黒希?」

 その少年の名を呟くと、涼風はビクッと肩を震わせた。

「……今、黒希って言った?」

「言いましたけど……彼は私の探してる人じゃないです。でも、どうしてあの人が地獄に……」

「今黒希って言ったよね⁉︎」

 と、涼風がジリジリと詰め寄ってきて、顔をぐいっと寄せてきた。

 咲は気圧されながらも、

「言いましたけど……」

 答えると、涼風はパッと顔を輝かせて、

「やった‼︎ やっと来てくれたんだ!」

「あの……黒希と知り合いなんですか?」

「黒希はワタシのおにーちゃんなんだよ」

「お兄ちゃん?」

 咲は、まず涼風の顔を見つめ、それから黒希の顔を思い浮かべた。

 ______________似てない。性格すら似てない。

 あまり喋らない、無表情の黒希。

 よく喋る、常に明るい表情の涼風。

 対比が大きい。

「エミたん、もしかしておにーちゃんと一緒に来たの?」

 咲は首を横に振って応えた。

 何故か地獄にいる黒希。その黒希を兄だと言って喜ぶ涼風。

 黒希は妹を探してここに来たのだろうか?

 咲は、黒希が地獄にいることに対して、あまり驚かなかった。彼の力から考えると驚くこともない。

「じゃ、早くエミたんの探してる人を見つけて、おにーちゃんに会いに行かないと」

 その言葉に、咲は涼風の顔を見上げて、

「……まだ協力してくれるんですか?」

「もちろんだよ。言ったでしょ。ワタシは美少女の味方だって」

 逆の意味を捉えると、女の子以外には味方しないということになるが、この際気にしない。

 咲は笑顔を見せて、

「ありがとうございます」

 涼風はそんな咲を抱き締めて、

「いいんだよ。好きなだけお願いして。ワタシもエミたんに好きなだけお願いするから」

 後半の言葉が心に引っかかったが、咲は何も言わなかった。

「あらあらぁ」

「ん?」

 女性の声がして、涼風は背後を振り返った。

 そこにいた女性を見て、

「げ……」

 涼風が苦い物でも噛み潰したような表情を浮かべた。

 咲は涼風の腕の中から抜け出し、涼風が見つめる先を見た。

 こちらに視線を向ける、若い女性。身長は百七十センチくらい。黒色のティーシャツに濃い赤色の革ジャケット、ジーンズ。金髪に、真っ暗な瞳。かなりの美人だが、その姿には醜く、化物じみた女の姿が重なって見えた。

 悪魔だ。

「元祖年増おばさんじゃん。何でここにいるの」

 嫌悪感丸出しで、涼風が問い掛けた。

 女性は妖艶な笑みを浮かべて、

「貴女の持ち物を貰いに来たの。ケルベロスを向かわせたのに、中々帰ってこないから私直々に出向いたってわけよ」

 ケルベロスとは、咲が地獄に来て最初に遭遇した悪魔だろう。

「どうしてエミたんを狙うのって訊くのが、こういう展開のセオリーだろうけど、おばさん達の目的はどうでもいいんだ。どうしてもエミたんが欲しいって言うなら、このワタシを倒して奪うことをおオススメするよ!」

 涼風は咲を守るように、彼女の前に立って言い放った。

「スズカ……私も戦うよ」

 すると涼風はこちらを振り返って、

「いいから、ここは私に任せてよ。今度こそカッコいいとこ見せてあげる」

 ニカッと笑い、言った。

 その彼女の橙色の瞳の奥に、何かが見えた気がした。

 記号、だろうか。とにかく見たことのない文字が彼女の瞳の奥にあった気がした。

「あぁそうだ。言い忘れてたけど、多分私一人じゃ勝てないのよね」

「それで、何? 降参?」

 涼風の言葉に、悪魔は悪どい笑みを浮かべ、

「いいえ。助っ人を呼んだの」

 助っ人? 咲と涼風が首を傾げた直後。

 地獄には気温というものがないはずなのに、二人は急激な気温低下に襲われた。

「リリス。この娘で間違いはないんだな?」

 背後から、今度は男の声がした。

 後ろを振り返ると、若い男がいた。背は百八十センチくらい。全身を白いスーツに包んでいる。髪は茶色で、瞳は青。

 その人間の姿には、白い彫像が重なっていた。表情はなく、無機質な姿だ。

「えぇ。匂いが他の者と違う。間違いなく、女神の娘です」

「そうか」

 男と目が合った瞬間、咲の背筋は凍り付いた。

 直感的に、彼は危険だと判断する。いや、危険だと知っていた。

「ルシファー……」

 その者の名を呟く。

 ルシファー。現世でも名の知れた、堕天使。天界から追放されて地獄に堕ち、魔王となった話は有名かつ事実だ。

 咲は、その名を持つ者をよく知っていた。母から聞かされていた。絶対に会ってはいけないと、よく言い聞かされていた。

 咲は無意識に涼風の手を握った。

 スズカはそれを強く握り返し、

「魔王様が出てくれば、ワタシが怖がってエミたんを渡すとでも?」

 挑発的に涼風は言う。

 そして、また景色が一瞬にして変わった。

 だが、首根っこを引っ張られたような感覚がすると、首をルシファーに掴まれていた。

「エミたん!」

 涼風に名を叫ばれ、それでようやく、自分がルシファーに捕まったのだと分かる。

 涼風が移動魔術を使ったが、ルシファーに阻止されたようだ。

「うっ……」

 ルシファーの腕から流れ込んできた冷気が、意識を蝕んでいく。

「エミたんを離せ‼︎」

 涼風の叫び。

 間も無く、意識が暗闇に沈んだ。




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