七話 天才は同士の邂逅に気づかない
祐はモネとの特訓から一週間、約束通り上級術法の行使を禁止し新たに基礎術法の研究に没頭していた。元々前の世界でも研究好きだったこともあり一週間で、すべての基礎術法をマスターしていた。
研究は順調で次は神聖術法にも力を入れようかと考えていた時、ふと術法のスランプから抜け出し元気になったことをリグルドやニナに報告していなかったことに気がつく。二人には一か月ほど前に修練場を飛び出して以来、顔を合わせておらず、研究のあまり部屋から一歩もでることなく閉じこもっていたため、術法ができないショックで部屋から出れなくなったと完全に誤解されていた。今日も部屋のドアにはニナから「術法ができなくてもお兄ちゃんのこと大好きだよ」とメッセージが挟まっているほどだったので、さすがに報告をしなくてはと一週間ぶりに部屋から出てきていた。
その後二時間ほど祐はニナとリグルドを探し回るが、シュバルツ家の屋敷は広大で家令の人間には数人会えたが、家族となると一日探しても会えるかどうか微妙なほど複雑なつくりをしていた。戦時中に敵の侵入を防ぐ狙いで立てられた屋敷をそのまま使用しているからだと以前モネさんが教えてくれた。さすがに一日中家族を探して屋敷を放浪するのは御免こうむりたい祐は、一人のメイドにお願いして屋敷内の地図をもらい玄関に向かって歩きだす。リグルドが毎日屋敷の外にあるテラスでお茶を飲んでいたことを思い出したからだ。しかし祐が地図を見ながら順路を進むと一つの違和感が襲う、メイドにもらった地図ではそろそろ屋敷の玄関に着くはずなのだが一向に着く気配もなく、行き止まりの壁と巨大な扉が目の前にそびえたっていた。以前にも感じた嫌な予感がしてくる祐は一歩ずつ後ずさり引き返そうとするが、テンプレ的な声が響き渡る。
「我の眠りを妨げしものよ、汝から強い運命を感じる、我が試練を受けるか?」
「デジャビュウかな……少し前にも同じ事があった気がする……今回は扉バージョンか……」
祐はドアを開けずに回れ右して帰ろうとする。すると以前同様金縛りにあい強制的にドアの前まで引き寄せようとする力が働く。しかし法術を覚えた祐には、この力が戦術術法の一つ「サイコパス」の暗示であることを瞬時に見抜き対抗術式「リフレクト」を発動させ効果を反射する。術者も仕掛けた罠を瞬時に見抜き対抗術式まで編まれると思ってなかったので、あっさりと姿を晒すこととなった。
「……ごきげんようユウくん……おほほほほ」
「やあレイン久しぶりだね……登場がワンパターンだからもう少し勉強してきたらどうだい」
「く……油断したわ……まさか対抗法術を編まれていたなんて……」
「前と寸分変わらん演出するからこうなるんだよ……お願いだから普通に出てきてよ!」
「ユウくん、分かってないわね!!そんなのつまらないじゃない!人生は楽しんだもの勝ちよ!」
「レインを見ているとよく分かるよ……」
「それより祐くん、女の子にいつまでこんな恰好させておくつもり?いくら私が絶世の美少女だからっていきなり襲ってくるのは感心しないぞ♡」
「はいはい」
祐が指を鳴らすと、一瞬でレインの拘束はとかれ何事もなかったようにドアや壁が消え玄関が出現していた。
「幻視系の術式も組んであるとか、凝りすぎだよレイン!」
「これがエンターテイメントよ!」
相変わらず大きな胸をそらして偉そうに話てくる彼女に絶句しながら祐は歩き出す。慌ててレインも後ろについて歩き出したところで祐は冷たい視線を投げかけレインに質問する。
「それで今日はどんなご用件ですか?お姫様……」
「なによ!影に日向にあなたのことを守ってあげてるレインちゃんに不満でもあるの!?」
「あれから一切顔を出してなかったようだけど……本当に守ってくれてるの?」
「もちろんよ!私の近衛であるユキノがあなたを監視してたんだから間違いないわよ?」
「監視って……ずっと見てたのか!?」
「もちろんよ、私と別れてから修練場の近くでメソメソしてたりとか、毎日できもしない法術を練習してべそかいてたりとか、おもしろおかしく見てたんだから!!!」
「おまえ守る気ないだろ……」
「怒っちゃいや♡」
「腹をプニプニ触るな!やめろって!」
「もうユウくんてば、相変わらず感じやすいのね♡」
「本当に口さえ開かないでくれればな……僕の青春を返してくれ!」
そんなふざけあい歩く二人に近ずく影があった。メイド長のモネ・ブレゲウィッチだった。彼女はレインの前までくると、すっと腕を伸ばす。対するレインも驚いたように応じ二人はガッチリと固い握手を交わす。
「あれ?モネさんとレインって知り合いだったの?」
「ユウグリッド様、私はこの方とお会いするのは初めてでございます。」
「ユウくん私も彼女と会うのは今日が初めてよ……モネさんだったかしら、あなたデキるわね!」
「レイン様でしたか……なるほどあなたも只者ではないようだ」
二人の間に一瞬火花が散ったように見えた祐は一歩後ずさりし異様な空気に息をのむ。お互いの健闘を称えあうかのごとく微笑むと祐に向き直る。
「ユウグリッド様良き相手との縁を結ばれましたな……」
「ユウくん彼女を大事にしなさいよ!」
二人から出てくる言葉に?マークしか出てこない祐だったが、一様にうなずくと納得したかのように離れていった。この二人が近くにいる限り祐が痩せる日は絶対にこないであろうことは無言の誓いとなり心に刻まれていた。
次回はギャグも入りつつ三部構成のちょっぴりシリアス話になる予定です。