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イレギュラーとニアミス

 

 

 

 

 

 邪魔シス…もとい、美原紅貴と出会ってから数日、転入の日がやってきた。

 恐ろしい。恐ろしすぎるよ。

 中身は平々凡々な社会人だというのに、外見は可愛い女子高生として生活していかなければならないのだからそりゃあ恐ろしいってもんだろう。

 今日だって鏡見るまで自分がヒロインの顔になってることなんて忘れてたからね。

 こりゃボロが出るのも時間の問題だわ。

 変な行動に出ないようにしなきゃ。私は可愛い、私は美少女。そう、私は美少女!鏡を見ながら必死で自分の顔を覚えた。

 元の世界じゃコンプレックス沢山あったし『可愛く生まれたかった』なんて思ってたけど突然ヒロイン顔になるとは…

 人生何が起こるか解らない。…そんな次元の話じゃないけど。


「おい、あかりー!早くしろよ置いていくぞー!」


「はいぃっ!!」


 自室で冷や汗を流しながら考え事をしていたら、美原紅貴に声を掛けられた。

 何だろう、アイツ一緒に学校行くつもりなんだろうか…。

 いや、アイツを攻略するつもりで居るなら極力一緒に居た方が良いんだろう。

 解っている、頭では解っているのだが、どうもアイツを恋愛対象として見ることが出来ない。


「何やってんだよお前、緊張してんのか?」


 ドアを開けると、美原紅貴が部屋の前に仁王立ちしていた。怖いわ。


「わ、ビックリした。…うん、わりと緊張してる。」


 ゲーム内にこんなイベント無いから、本当に驚いた。

 ゲームじゃこの辺すっ飛ばして始業式が始まるから。

 でもまぁ、この世界で生活している以上イベント外で攻略対象キャラクター達と喋る機会もあるんだろうな。

 私、そんなにコミュニティー能力高くないから心配で仕方無いんだけど。

 コミュニティー能力云々っていうより男に対しての免疫もあまりないから不安で仕方無い。


「大丈夫大丈夫、俺等同じクラスだから安心しろよ!」


 と、美原紅貴は私の背中をバシバシと叩きながらそう言った。

 同じクラスになること知ってたのか。

 何故知っているのかを問えば、どこかで書類を盗み見たと言っていた。

 …そんな書類盗み見れるものなのだろうか…?


「ところで、私あなたのこと何て呼べば良い?美原?美原くん?」


 私の母親と彼の父親が再婚するとは言え、まだ形だけらしく私の苗字は変わらないまま。

 美原紅貴とも兄弟じゃなくただ同居している他人、という状態らしい。


「あー別に何とでも。…けど、美原だと俺の親父も振り向くぜ?」


 私の予定では家の中じゃ『ねぇ』とか『あの』で済ませるつもりなのだが?


「うーん、じゃあみっちゃんで良い?」


 美原の"み"を取って、みっちゃんだ。

 可愛いあだ名ではないか。


「う、え、それだけはやめてくれ、なんか気持ち悪い…!」


 うわーめちゃくちゃ嫌そう!よし、みっちゃんで決まりだな。


「何とでもって自分で言ったじゃん。みっちゃーん。」


「やめろおおお!」


 家の中でそんなやり取りをしていたら、母親がクスクスと笑っていた。


「仲良くなれたみたいで良かったわ。」


 とのことだった。

 あぁ、そういやコイツには出会いイベントの時、盛大に怒鳴られたんだっけ。

 そして男に免疫無いとか自分で思ってたけど結構喋れてるじゃんね、私。

 これは案外、大丈夫だったりして?



 そんな和やかな朝を過し、私は今、みっちゃんと共に学校へと向かっている。

 同じ制服を着た生徒達にチラチラと見られているような気がするのだが、やはり転入生というのは物珍しいのだろうか。

 元の世界では引越しなんてしなかったから、転入生初体験なのである。

 こんなに緊張するものなのか、転入生って。

 …めんどくせ。


 どんなに面倒臭いと思っても、徐々に学校が近づいてくる。

 学校が近づいてくるということは、攻略対象キャラクターとの出会いイベントが近づいてくるということでもある。

 要するに物凄く、緊張する。


「あー緊張する…、」


「そんなに緊張するもんか?確かに転入生だし緊張するだろうけど俺等もクラス替えとかあるわけだし大半は初対面だぞ?」


 そうか、じゃあクラスには馴染みやすいかもしれないな。

 なずなが居ることは確定しているはずだし、クラスについては何も考えていなかったけど。

 だって攻略について考えるだけでいっぱいいっぱいなんだもの。


「私、馴染めるかな?」


「大丈夫だろ。」


「馴染めなかったらよろしくね、みっちゃん。」


「その呼び方やめない限りよろしくしてやんねぇからな…」


 みっちゃん呼びは、相当気に入らないらしいです。


 家から最寄り駅までは徒歩5分弱、電車に乗って三駅、そこから学校までは大体5分。

 その間、私は緊張でそわそわしながらみっちゃんと他愛の無い会話を交わしていた。



 学校に着けば、先輩その1との出会いイベントが発生するはずだった。


 確か、門をくぐった先で先輩その1とぶつかるはずだ。

 そして先輩その1がぶちまけてしまったプリントを一緒に拾う、そんな出会いイベント。

 上手くこなせるかどうか…、実に不安だ。

 まずぶつかると解ってて上手いことぶつかれる自信が無い。


 うーん、と小さく呻りながら門をくぐったその時、私は気が付いた。


 先輩その1が、私ではない女子生徒とプリントを拾っている事に。

 そして、先輩その1とプリントを拾っている女子生徒こそが、イレギュラーだという事に。

 あれでは起こるはずの出会いイベントが起こらないのではないだろうか…と、いう事に。


「…まさか。」


 私は思わずそう呟いていた。

 イレギュラーの容姿については何も教えてもらっていないが、きっとあの子がそうだ。

 直感でそう思った。

 だって、なんとなく、あの子は他の子と違って見えるから。


「どうした?」


「なんでもない。早く行こう。」


 不思議そうな顔をしているみっちゃんをその場に置いて、私はクラス表を見ていると思われる人だかりの中に紛れ込んだ。

 中庭に貼り出されたクラス表を見てみれば、私の名が2年C組のところに書かれている。

 なずなの名もみっちゃんの名もそこにある。

 よし、これはゲーム通りだ。私はほんの少しだけ安堵した。

 先輩その1との出会いイベントが発生しなかったのが不安要素ではあるが、基本的な設定はゲーム通りになってくれるらしい。

 だから、地道にこつこつ頑張ればきっとなんとかなる。

 …多分。

 出会いイベントは全員強制的に発生するものだったから、そのイベントをミスったらどうなるのかはさっぱり解らない。

 もしかしたら今後先輩その1と遭遇しない可能性もあるのだろうか…

 だとしたら、やはりみっちゃんを手離すわけにはいかないんだろう。

 うーん、みっちゃんは弟にしか見えないんだけどなぁ…

 と、ぼんやりしながらそんな事を考えていた時だった。


「何でなのよ!」


 という女の子の金切り声が耳に飛び込んできた。

 何事だろうと振り返ろうとした時、


「痛、や、やめて、」


 か細い女の子の声が聞こえる。

 これはなずなの声!

 ぐるん!と勢い良く振り返れば、そこには怒った様子の女の子に腕を掴まれているなずなの姿があった。

 私のなずなになんてこと!


「すみませーん。なずなおはよう!私達同じクラスだったよ!行こう!」


 文句の一つでも言ってやろう!と思ったのだが、ここには人が大勢居る。

 そんな中大声を出せる勇気なんて持ち合わせていなかったので、そっとなずなに近寄って何事も無かったかのように彼女を人だかりから連れ出した。


 そう、私はチキンなのである。


「なずな、大丈夫だった?どうしたの?」


 人だかりから充分離れた場所で、なずなに声を掛ける。


「大丈夫、…えと、ありがとう。それがその、あの子がイレギュラーなの。」


 なずなにそう言われて、私は必死でさっきの女の子の容姿を思い出す。

 さらさらでふわふわな長い髪の毛、白い肌、ぱっちり二重でぽってりとしたぷるぷるの唇…怒っていたためちょっとキツそうな印象を受けたが、超絶美少女だった。

 そして、ついさっき先輩その1との出会いイベントを起こしていた子と同一人物だ。

 やっぱり。


「なるほどね、うん。でも何で怒られてたの?」


 そう問い掛けると、


「私が無視したから、って。『あなたは脇役でしょう?何で私を無視するのよ!』…って。」


 私達はゲームの事を知っているから、言わんとしていることは理解出来るが、何も知らない人が聞いたら多分凄い勘違いをすると思うよ、イレギュラーちゃん。

 私の脇役のくせに無視してるんじゃないわよ!的な事?ナルシスト拗らせた性格悪いお嬢様状態じゃないか。

 …実際そんな子なのだろうか…痛い…。


「あれだね…イレギュラーの目的はヒロインに成り代わる事なんだね。さっき先輩と出会いイベント起こしてたし。」


 私は小さな声でぼそりと零す。

 彼女がなずなに声を掛けたのもヒロインに成り代わるためだろう。

 ゲーム内でのなずなは言ってしまえばとても便利な脇役だから、捨て置くはずもない。

 それなのに無視されたから怒っていたのか。それか、先輩その1とのイベントは起こせたのに脇役とのイベントが起こせないなんて!と思ったのか…。

 どちらにせよ私にとっては脅威である事に変わり無さそうだ。


「それにしてもなずな、何で無視なんかしたの?」


 いや、なずながイレギュラーに協力なんかしたら私が困る気もするのだけど、何も無視することは無いような。


「無視したというか、私、あかりちゃんを探しててあの子に全然気付かなかったの。あかりちゃんが見つけてくれて良かったぁ!」


 なずなの表情が見る見るうちに明るくなった。

 うわぁなんて可愛いのこの子!

 私は思わずなずなをしっかりと抱き締めた。


 その時、近くから『パシャリ』という謎の音が聞こえた。





 

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