令和鬼合戦:箱の真実~生体結界の深淵~
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崩落寸前の「匣」。門の向こう側から響く温羅の猛動。
絶体絶命の瞬間、地下最深部の静寂を切り裂いたのは、皮肉にもかつて自分たちを追い詰めた人桃衆の「遺産」でした。
しかし、修復された「箱」の内部から露わになったのは、人桃衆が平和を維持するために積み上げてきた、狂気とも呼べる非人道的な技術の結晶。
「避けて! 匣が誘爆するわ!!」
モモの悲鳴に近い警告が地下空洞にコダマした、その刹那だった。
ドォォォン……! という腹に響く重低音と共に、死に体だった予備電源系統が、青白い火花を散らしながら息を吹き返した。
「電力が……回復した!?出力全開だ! 磁場を固定しろ、急げ!」
主任研究員の額田が、血走った眼でコンソールを叩き、レバーを押し込む。
地上での八岐大蛇の暴走により基幹系統は破壊されていたが、上層に取り残されていた作業員たちが、必死の思いで旧式の自家発電機を再始動させたのだ。ガラガラと唸るエンジンの振動が壁越しに伝わり、電圧計の針が急速に緑の領域へと跳ね上がっていく。
その瞬間、地獄の門を内側から狂ったように叩いていた、あの不気味な衝撃音がぴたりと止んだ。
向こう側の結界維持装置が電力を得て再起動し、現世へ這い出そうとしていた温羅を、再び地獄の深淵へと押し戻す圧力が復活したのだ。
「……助かった、のか?」
九十九が冷や汗を拭い、膝をつく。だが、佐伯の顔はまだ死人のように蒼白なままだった。
「安心するのは早い! 電圧が不安定だ。こちら側の匣も過負荷で回路が焼き切れている。予備の匣とすぐに入れ替えないと、過電流でまたショートするぞ!手を貸してくれ!」
予備の匣は、一辺が二メートルもある巨大な鋼鉄の塊だ。フォークリフトも動かぬこの状況下、人力で運べる代物ではない。
「……どけ。俺が浮かせる」
九十九が両手を広げ、重力操作によって数トンの匣を次々と浮遊させた。集まってきた作業員を佐伯が指示し、パズルのピースを埋めるように、火を吹いた古い匣を抜き取り、新しい匣を門の縁へと叩き込んでいく。
作業の最中、九十九の重力によって不自然にひしゃげ、外装の装甲板が剥がれ落ちた「壊れた匣」の中身が、羅夢多の視界に飛び込んできた。
「……っ、何だ、これは。機械……じゃないのか?」
羅夢多の十字の瞳が、その異形を克明に映し出す。
金属製の匣の内部。複雑な基板と、魂脈を増幅させるためのクリスタル回路の隙間に鎮座していたのは、培養液に浸された、いくつもの「脳」だった。
それらは無数の細い金色の電極で繋がれ、まるで生きているかのように、今もなお微かに脈動を繰り返している。
「……佐伯さん。この匣は、人間の脳でできているのか?」
羅夢多の声が、怒りと困惑で低く震える。
佐伯は作業の手を止め、剥き出しになった脳を凝視して絶句した。
「……私は、これが高度な演算機能を備えた生体CPUだと聞かされていた。だが、まさか……。ただの脳を直結して、結界の演算をさせていたというのか……」
「これ、ただの脳じゃないわ……。魂脈の波形をスキャンしたけど、極めて高い精神感応を示してる」
モモが端末を向けたまま、吐き気を堪えるように口元を押さえた。
「これだけの高出力結界を、機械だけで維持するのは不可能だったってことね。結界師の脳じゃないわよね……? 」
「人桃衆の闇は、思っていたより深いどころじゃねえな……」
九十九が、自らの重力で浮かせている匣を睨みつけた。
平和の守護者を自称していた組織の足元には、数えきれないほどの「部品にされた人間」の犠牲が、文字通り部品として組み込まれていた。
門の向こう側で沈黙した不滅の王・温羅。そして、こちら側で沈黙し、結界の糧となっている名もなき脳たち。
羅夢多は、血の気が引いた自分の右手を強く握りしめた。その手にある鬼火すらも、何かの犠牲の上に成り立っているのではないかという、拭いきれない疑念が彼を襲う。
第七十話をお読みいただきありがとうございました!
電力の回復により、温羅の顕現は辛うじて防がれました。
しかし、結界装置の正体が「脳」であったという事実は、羅夢多たちに強い衝撃と嫌悪感を与えます。
※AIとの共同執筆作品となります。
本作は、制作体制の更なる充実と物語のクライマックスに向けた構想のため、一時休止させていただくこととなりました。
羅夢多たちの戦いは、人桃衆の闇の深淵に触れ、いよいよ最大の転換点を迎えようとしています。この壮大な物語を最高の形でお届けするため、一度筆を置き、設定の再構築とクオリティの向上に専念する時間をいただく決断をいたしました。
楽しみにしてくださっている読者の皆様には大変申し訳ございませんが、より一層熱い展開をお見せできるよう準備を進めてまいります。
引き続き、『令和鬼合戦』をどうぞよろしくお願いいたします。




