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19話【カルト教団】


「真能連盟っていうと、五年以上前からあるカルト教団ですよね?」


燕が思い出したように言った。


「実際はもっと古いと言われています。十六年前のあの戦争より、さらに前から存在していたはずです。」


来栖が淡々と補足する。


「けど、真能連盟って結局何をしてる教団なんでしょうね?」


「聞いた話だと、真能連盟は世から異能者を救済する教団だとか。」


比嘉が燕に向けて言った。


「異能者を救済、ですか……」


燕は眉をひそめる。


「見ず知らずのカルト教団が救済なんて、大きなお世話だな。」


魏藍は吐き捨てるように言いながら、続けた。


「真能連盟の幹部以上は異能者って話だ。」


「じゃあ、この人たちも……?」


燕は床に倒れたローブの遺体を見つめながら呟く。


「ああ。幹部だったんだろうな。」


魏藍の言葉は静かだったが、その響きには確信があった。


「にしても、異能者を救済するとかいう連中が、何の目的でここに来たんですかね?」


来栖が問いかける。


「何や? 異能対策室はそんな事も分からんのかいな。簡単なことやろ?」


祖師が嘲るように言った。


「ここに運ばれてくる異能者の被検体を奪うこと。」


狗波がはっきりと断言する。


「それが、この教団における”異能者の解放”なのでしょうね。」


狗波の言葉を肯定するように、魏藍が続ける。


「狗波社長の言ってることは合ってる。」


魏藍の言葉に続くように、財前が口を開いた。


「五日前、ここにある被検体が運ばれてきました。名前は——櫓木光実(ろぎみつざね)」。彼の首にも六芒星のタトゥーが入っていました。」


「十中八九、真能連盟。それも、被検体として運ばれるということは、幹部クラスってことだ。」


財前と魏藍の説明を受け、祖師が言う。


「五日も幹部が行方不明なら、そらぁ真能連盟から襲撃の一つも受けるわな。」


「だとしても、解せないな。」


比嘉が話を遮るように口を開く。


「イノベーション事務局に異能者の遺体が運ばれてるなんてこと、政府関係と警察関係しか知らない情報だが?」


「確かに……私が所属していた時も、表向きは科学技術の研究としか……」


燕がそう発言した後、財前がふと考え込むように言う。


「もしかして……内通者みたいなのが……?」


その言葉が落ちた瞬間、場の空気が一変し、沈黙が流れた。


それを見かねた鳴神が、狗波たちをじっと見据え、静かに言った。


「テールム社の方々がここに現れたの……本当に偶然なのでしょうか?」


狗波はその問いに、まるで面白い話を聞いたかのように目を細める。


「おや? もしかして疑われてるのかな?」


「なんや? まさか、うちらが真能連盟にリークでもしたとか()かさへんよな?」


祖師が皮肉めいた口調で言うと、鳴神は即座に切り返した。


「そのまさかですよ。」


祖師の表情が一瞬だけ動く。


「仮に僕たちがそうだと思う理由は何でしょう?」


狗波が問い返すと、鳴神は淡々とした口調で説明を始める。


「簡単ですよ。幹部以上が異能者で構成されている真能連盟に、イノベーション事務局へ異能者の遺体が運ばれているという情報をリークし、焚きつける。そして、その異能者たちを一網打尽にする。」


静かな言葉だったが、場の空気に鋭く突き刺さった。


「待ってください。」


燕が間に入る。


「肩を持つわけではありませんが、テールム社にそれをする理由が見当たりません。」


鳴神はすぐに応じた。


「擬似能力の開発を促進させる。それだとどうでしょう?」


燕の視線を受け止めながら、言葉を続ける。

狗波は無言のまま、そのやり取りを聞いていた。


「なるほど。」


比嘉が腕を組み、考えるように頷く。


「テールム社がイノベーション事務局と提携している以上、擬似能力の開発を進めるのは理に適ってる。自社の武器具を提供しても、異能者の被検体が少なければ意味がないからな。」


「そういえば、最近になって被検体の数が増えましたね……擬似能力が完成したあたりからでしたっけ?」


天城が思い出すように呟く。


「大方、呼び寄せた異能者を自分たちで処理して引き渡すつもりだったのでしょうが、【No Trace】の乱入で誤算になった、というところですかね。」


鳴神の言葉が締めくくられると、狗波が微笑んだ。


「なるほど、良い推理だ。物語としては完璧と言っても過言ではないね。」


だが、と狗波は肩をすくめる。


「残念だけど、僕たちは本当に今日、擬似能力を受け取りに来ただけなんだ。」


「ま、オモロい話やったな。」


祖師が肩を揺らして笑う。


「それにね、何度も言うけど、僕たちは擬似能力を危険視している。だから、擬似能力を促進させるようなことは、わざわざしないさ。」


狗波はそう言い切った。



両者の会話を遮るように、魏藍は苛立ちを滲ませながら静かに口を開いた。


「やめろ。テールム社がリークしていようがしてまいが、正直どっちでもいい。俺達的には、また襲撃された場合の話をしたい。」


魏藍の冷静な言葉が場を引き締める。


「確かに、この感じだと真能連盟からは狙われ続けるでしょうしね。」


天城が周囲を少し見渡しながら魏藍の言葉に呼応するように言った。


「それでしたら、私の部下達を見張りにつけましょうか。」


鳴神が即座に提案する。


魏藍は一瞬だけ鳴神を見つめた後、小さく頷いた。


「話が早いな。じゃあそうしてもらおうか。狗波社長、擬似能力を受け取ったら、あんたらも退散してもらうか。」


「はは、あぁ、勿論だよ。これ以上ここに留まっても、印象は良くないだろうからね。」


狗波は肩をすくめると、軽く笑って答えた。

魏藍はそんな狗波をそれ以上詮索せず、すぐに財前へと視線を向けた。


「財前、提供用の擬似能力を取りに行ってくれ。」


「了解しました。」


財前は静かに頷くと、建物の奥へと足を進めた。


その間、比嘉は足元に(たお)れるローブ姿の者たちに目を向ける。


「魏藍、この遺体はどうする? こっちで、安置所に送るか?」


比嘉は視線を上げ、魏藍へと問いかける。


「いや、こっちで受け持つさ。」


硬い表情をした魏藍が即答した。


「いいのか? 今なら”その手のプロ”が居るぞ?」


比嘉は軽く来栖の方を見てから言う。


「そいつはありがたいが、ここでの騒動は俺達で後処理しねぇと…」


「そうか。なら俺達はこのまま帰らせてもらうぞ。」


「あぁ、構わない。王来王家も、わざわざ足を運ばせて悪かったな。」


魏藍が燕へと視線を向ける。


「いえ、魏藍さん達が無事でほっとしてますよ。」


燕は柔らかく安堵の色を浮かべながら言った。


そうして、比嘉は燕、鳴神、来栖の三人と共に車に乗り込んだ。


「王来王家さん! 次はゆっくり会いましょう!」


建物の奥から戻ってきた財前が、大きな声でそう呼びかける。


車に乗り込もうとしていた燕は、その声に振り向くと、この日一番の和かな顔を見せ、手を胸の前で軽く振った。そして今度こそ、車の中へと姿を消した。




「比嘉さん、今回の【No Trace】の件はどうしますか?」


運転手席に乗った来栖が口を開いた。


「どうもこうも、同じ組織の別の部隊の行動に俺如きが口出ししたところでだろ。」


助手席に座った比嘉が言った。


「真能連盟の遺体もイノベーション事務局が処理するんだ。ただでさえカルペ・ディエムっていう得体の知れないのを捜査してんだ。これ以上悩み事を増やしたくねえ。」


比嘉の言葉に燕も鳴神も悩むように考え込み、それをバックミラーで確認した来栖は一言「ですね。」とだけ言ってエンジンを掛けた。




比嘉達の車が敷地を出たのを確認すると、財前は担いでいた武器や道具を狗波の前に持ってきた。


「これが今回、そちら側から依頼のあった擬似能力です。」


「ありがとう。助かりますよ。」


狗波は微笑を浮かべながら、財前の手から受け取る。その横で、祖師が待ちきれない様子で割り込んだ。


「お、あったあった。これやこれ。妖刀村正!…のレプリカ。ちゃんと依頼通りにしたんやろなぁ?」


祖師が満足そうに刀を取り上げながら、魏藍に向かって軽く言う。


「どうだかな。気味の()りぃ依頼寄越しやがって。」


魏藍は眉をひそめたが、それを祖師はまるで気にする様子もなかった。


「被検体も送ったんやから文句言うなや。」


その言葉に、魏藍は心の中で舌打ちしそうになる。どこから手に入れた異能者なのか、詳しく問い詰めたくなったが、無駄に刺激しても仕方ないと判断し、押し留めた。


「受け取ったなら、さっさと立ち去りな。」


「そうだね。他のも要望通りにしてもらえてるのか、帰って確認しようか祖師くん。」


狗波が軽く笑いながら、祖師に向かって言う。


「なんや? もう行くんか?」


祖師がやや名残惜しそうに尋ねるが、狗波は静かに頷いた。


「あぁ。僕達はこれを受け取りに来ただけだし、どうにも今日は居心地がよろしくないようだしね。」


狗波は擬似能力の武器具を抱え直し、踵を返した。


「それじゃあ、また良い武器具が手に入ったら、依頼と共に届けにくるよ。温羅部さんにもよろしく言っておいてほしい。」


「ほな、また。」


狗波と祖師は、手を軽く振ると、そのまま敷地内を出ていった。





「…いよいよ、明確に荒れてきたね。さて、どうなる事やら。」


狗波は誰にも聞こえないぐらい小さな声でそう呟いた。




狗波たちが去ってから、数時間後――。


イノベーション事務局には、鳴神の手配によって護衛として派遣されたのは、1人のチームリーダーと4人のSBチーム精鋭班員。


その指揮を任されたのは、那岐(なぎ)という男。静かな威圧感を纏い、(したなが)の時代からその部下として異能者と対峙してきた者だ。

彼のもとには、鳴神が厳選した戦闘特化型のSBチーム4名が揃えられた。いずれも単独での制圧力に長けた精鋭たちだ。


那岐は被検体管理室の至近に配置され、現場の指揮を執る。一方、班員たちは建物内と外部に2名ずつ配置され、隙のない防衛線を築いた。


さらに、事務局内の事務員の一部にも擬似能力を持つ者が選ばれ、彼らは建物内で待機することとなる。目的は、被検体管理室の完全防衛――


鳴神曰くを「完璧な防衛体制」と評した。


ーーそう後に、鳴神は話していた…ーー




次の日の昼下がり、燕達はいつも通り異能対策室本部に集まっていた。


珍しく異能事件が発生していない1日に燕達は室内で少しゆっくりとしていた。

思えば異能対策室に来てから休みと言える休みはほぼ無かった。


日々、異能者と対峙し、戦闘。

少し合気道が出来、ただの研究者上がりだった燕にとっては本来の人生ではあり得ない事だ。

ただ異能者と対峙しても恐れず立ち向かう。

異能対策室に選ばれない人との差はそれが出来るか、出来ないか。ただそれだけ。

そんな非日常な生活にも日常が来ることもある。


そんな事を思いつつ、壁際に浮かぶホログラムスクリーンに何気なく流していたニュースを見ていた。

ニュースでは連日発生している有名政治家や著名人の行方不明事件が報道されていた。

異能者絡みなのかそれとも非異能者による事件なのかが判明していないため、異能対策室には一切情報が流れてきていない。

捜査を行なっているのは捜査一課だろう。

ニュースでは今も調査をしているとアナウンサーが喋っていた。


そんな日常も比嘉が訪れてすぐに終わりを告げる。


「イノベーション事務局の事務員が昨夜殺害された。


比嘉によるその一言によって。


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