7:わたくし、ユリシーズ様不足ですの……?
『 イザベル宛
そうか
ユリシーズ 』
何度見ても名前と三文字しかない手紙。
裏を見ても、封筒の中を見ても、何もなし。三文字しかなし。
そんなことってあります⁉
いつもなら……いえ、いつも便箋一枚ではあるのですが、もっとびっしりとは書き込まれていたのです。
「だから言ったじゃないですか……」
「っ、わかってるわよ! 今からちゃんとユリシーズ様との約束通り真人間になって、見直してもらうわよ」
「はいはい、その調子ですよぉー。がんばれぇぃ」
アリアに雑な応援をされてちょっとモヤッとたものの、間違いなく自業自得ではあるため、ぐっと我慢です。
とにかく、無駄に怒らない、叱らない、叫ばない。
日進月歩でゆっくりと進むのです。
日進月歩……していましたら、半月経っていました。
その間、ユリシーズ様との接触ゼロです。
「ユリシーズ様エキスが不足しているわ」
「どんなエキスですか。ちょっとキモいですよ?」
「こう、脳内に溢れ出る、なんか幸せな成分よ」
「……」
何故か、可愛そうな子を見るような目で見られました。なんでしょうか、とても不服です。
「そういえば、来週は騎士団の公開訓練がありますね」
「あの炎天下で行われる行事ね」
「お嬢様はそう言って一切参加されませんが、結構人気のイベントなんですよ?」
ユリシーズ様が所属されている王国騎士団・第一部隊は、実力のある貴族子息が集められています。
むさ苦しい男たちが模造刀で打ち合っている姿を見て、ミーハーな令嬢たちがワーキャーと騒いで、さらに会場の熱気が上がりまくりなので、正直見たくもないのですが。
「むさ苦しいから嫌い、ですか。お嬢様はおこちゃまですねぇ」
「はぁ?」
「きらめく汗。乱れる息。上下する肩。揺れる胸筋。波打つ腹筋。血管の浮き出る腕! 惜しげもなく見せつけてくるんですよ! タダで! タダで見れるんですよ!」
――――うわぁ。
アリアだけで凄い熱気です。
アリアって、マッチョが好きだったのね。だからユリシーズ様には全くクラリともしてなかったのね……。
「え? ユリシーズ様もムキムキですけど?」
「……え⁉」
「お嬢様、気づいてなかったんですか?」
というか、何故にアリアがそんなことを知っているのよ。
ユリシーズ様、どう見てもほっそりしているじゃないの。
「チッチッチッ、ユリシーズ様は細マッチョです!」
何故にドヤ顔なのよ。
だから、何故に知ってるのよ。
「え? 見に行ってるからですけど?」
「……は?」
アリア、まさかの私からの差し入れと称して公開訓練をだっぷりと見学していたそうです。
まさかの、サボり。
しかも、堂々宣言。
流石に説教案件かと思いましたら、逆ギレされまさた。
公開訓練時、婚約者から差し入れしてもらうのが騎士団たちのステイタスらしいのですが、私が絶対に行かないものだから、アリアが代理で行ってくれていたそうです。
「あ……何か…………ごめんなさい?」
「まぁ、半分は趣味でしたけど!」
――――あら? 謝り損なの⁉
「とにかく、今回はちゃんと見学に行きますよ!」
「うん。行くわ」
「ふおっ⁉ お嬢様素直! ちょっとかわいい!」
「うるさいわよっ」
だって、私の知らないユリシーズ様をアリアが知ってるの、なんだか悔しいんですもの。
暑いのも、日焼けしそうなのも、ムサいのも、我慢しますわ!
明日は……ちょいと旅行に行くので22時頃になるやもです。