6:わたくし、手紙くらい書けますのよ……?
ユリシーズ様にお礼状……最近、書いたことありましたっけ?
幼い頃には色々と書いていた覚えがありますが。
「あぁ、どえらく酷い内容の手紙でしたねぇ。『わたくしのげぼくにしてさしあげてよ!』とか『しょうらい、あなたをしたがえてあるくのが、たのしみだわ』とかとか」
「ちょっ! なんでそんな昔のことを覚えてるのよ!」
まさかの、ユリシーズ様が婚約解消を願い出て来たときに、要因のひとつとして挙げて来たそうです。
まだ八歳とかその程度の、ちょっとやんちゃな年頃の、斜め上に突っ走ってしまった手紙を引き合いに出されても納得できません!
でも、あの頃のお手紙をまだ手元に残されているということは、ユリシーズ様は少しは私に興味があるのかもしれません。
「うぉっと、その前向き思考は危険ですよ」
アリア曰く、ユリシーズ様は幼い頃からの聡明な方だったので、いつか何かの役に立つだろうと、ただ単に証拠として残していた可能性のほうが大きいそうです。
そんなまさか、と言いたいのですが、昨日のユリシーズ様や、今までのユリシーズ様の言動を良く良く思い返して見ると、なんとも言えない気持ちになってしまいました。
「と、取り敢えず書くわよ!」
「はいはーい、がんばってくださいねー」
アリアに雑な応援をされながら、レターデスクに向かいました。
「うーん…………まぁ、これでいいかしら? ちょっと没個性的すぎないかしらねぇ」
アリアに書き終えたお礼状を渡すと、あんぐりと大きく口を開けられてしまいました。
『 愛しのユリシーズ様
今日はとても天気が良いですね。庭の花々が嬉しそうに陽光をあびています。
昨日の夜会は足早に去ることになってはしまいましたが、ユリシーズ様に新しいドレス姿を褒めていただいて、とても心躍りました。
いつもエスコートしていただいて感謝しております。
またユリシーズ様にお逢いできる日を楽しみにしております。
愛を込めて、
イザベル 』
「……お嬢様って、まともな手紙も書けたんですね」
「どういう意味よ」
「そのままの意味です」
アリアと言い合いをしつつ、とりあえず没個性的なお礼状をユリシーズ様に届けることになりました。
ユリシーズ様にちゃんと届けて、必ずや返事をもらってくるようにと命令済みなので、戻るのをお茶でも飲みながら待ちましょう。
「いったいどんな素敵なお返事が来るかしら?」
「え、没個性とか言いつつ、返事にクオリティを求めるんですか」
「それとこれとは別よ。ユリシーズ様はいつでも素敵な手紙をくれているじゃない!」
「…………昨日の今日で、もらえるとでも?」
全く、アリアったら。
ユリシーズ様は素敵で真面目な紳士なのだから、絶対に素晴らしいお返事をくださるはずだわ。
あぁ、心がドキドキとときめきますわ。
早く戻ってこないかしら!
待ちくたびれて、アリアおすすめのチョロイン本を読みつつ時間を潰していましたら、夕方になる少し前に部屋の扉がノックされました。
「お嬢様、お返事が届きましたよ」
「まぁ! やっと!」
アリアがハウスボーイから受け取った手紙を素早く奪い取り、封蝋をそっと剥がして手紙を開きました。
現れたユリシーズ様の美しい手書きの文字……。
『 イザベル宛
そうか
ユリシーズ 』
――――三文字ぃぃぃ⁉
戻ってきた手紙は、名前と『そうか』だけの簡素なものでした。
次話も明日19時ころに更新します。




