65:英気を養うために一仕事
「うわあ!見渡す限りの牧場だ!」
からん、コロンというカウベルの音があちこちから響いてくる。
「この辺りにこんな所はなかったから、新しく出来たんだろうね」
「じゃあここも、開拓村の一つなのかな?」
ここは動物と魔物の牛と馬、特に魔物の馬が多く放牧されているようだ。
子馬や子牛も沢山いる。さ、触りたい…っ。
キャンピングカーさくら号は柵に挟まれた道を進む。左手に馬、右手に牛が多く放牧されているようだ。
「姉ちゃん達…?」
やや遠くで作業されていた方が、やけにこっちを見ているなと思っていたら…。姉ちゃん達?
◇
「いやあ、まさか実家からこんなに離れたところに、あんたが牧場を持つなんてねえ」
男性はアカザさんとアカギさんの間生まれのご兄弟だそうだ。名前をアカダさんと仰る。うーん、ネーミングセンスが独特。
「嫁さんの実家がこっちの方なんだ。去年からあちらこちらで新しい農地や家畜の村の村民の募集があって、俺はその募集でこっちへ来たんだよ」
「へえ、運に恵まれたね」
「ああ。嫁さんは子供が出来るまで冒険者として稼ぐって、今は留守だけどね。今度来た時に紹介するよ」
「旧王都からここなら近いからね。そうだね。また来るよ」
アカザさんとアカギさんがアカダさんと話しをしてる間、あたりをちょっと見渡してみた。前に行った開拓村ほどではないが、急拵えの荒屋には違いない。
◇
「オオシロ方伯?!」
「あれ?前に他の開拓村でお会いした?」
「覚えていて下さいましたか!あちらの村では素晴らしい宿舎を、ありがとうございました」
「いえいえ。こちらへは移動ですか?」
「はい。この春の辞令でここへ赴任しました」
以前、キナル王子と訪れた酪農開拓村におられた、開拓責任者のトヴァルさんがおられて驚いた。
お聞きして良いとは思わないが、キナル王子が気にしておられた食料不足の件。私も気になっていたのでお聞きしてみた。
「武官は文官ほど計算が得意ではなく…。お恥ずかしながら計算が違っていたそうです」
開拓村はたくさんできているそうで、もとから数の少ない文官さんは2つの村を兼任で対応しているそうだ。その負担を減らすのに、武官さんが手伝っていたそうだ。
「後に計算道具として算盤の使い方が広まり、最近はミスが減ってます」
ははは…。色々突っ込みたい気持ちはおおいにあるが、人がする事だからミスくらいあるよね。
「ところで、もしかしてこちらでもあの建物を?」
「あ、はい。そうです」
「いや、あの建物に住めるならと、あの村は移住の希望が殺到しましたよ。
募集の残り家族分の二棟。あの後噂が広がり、すぐに埋まりました」
おお、そんなに人気だったんだ。
家が人気があるって事は、思いがけずお聞きできた。狼の事や、天窓に使ったガラスが割れなかったかなどもお聞きしておきたいな。
「ご安心を。狼は出ておりません。
天窓というのも、オオシロ方伯が普通の物では割れるかも知れないからと分厚く小さな物を使うようご指示なさったお陰でしょう。一つも割れた物はありませんでしたよ」
それを聞いて安心した。狼が出ていないのもだが、小さなガラス板を何枚か使って作った天窓。雪の重みにも割れなかったのは本当に安心した。
「じゃあ、良ければあの時と同じ長屋を作りたいのですが…」
「作って頂けるならありがたいです!こちらからお願い申し上げたいくらいですから!」
◇
「前回より早い…」
「前回よりきれい…」
「前回より…」
以下省略だ。前に作って慣れたのか、確かに早く正確に思った通りの三軒長屋が形成できている。
旧王都ではキャンピングカーの現物を見てる人が多いためか、キャンピングカーを牽かせる馬力のある馬の需要が高まっているそうだ。
旧王都からみて南側のこの地方は魔物の馬の生息が多く、魔物の馬の牧場に力を入れているって。
そのため、すでに三軒長屋で7軒分のご家族と、雇っている方が暮らしているそうだ。
「ふう。後一棟で良いんですか?」
「一次募集の分は、後一棟で一家族分余ります。それで十分です」
建てたい場所に案内して頂いて、最後の三軒長屋を建てる。予備は前回同様いらないとの事で、後は宿舎だね。
「師匠、飲んでおいて」
「まだだいじょ…って、開けたの?」
「飲んで」
開けてしまったなら飲むしかない。お礼を言って、マジックハイポーションを受け取って飲む。
飲みながらちらりと、斜め後ろのユリシーズさんを見る。
崖から落ちて以降、解りやすく過保護になった。キャンピングカーなんかの中ならそうでもないが、外を移動するとなると後ろに張り付いている。
港ではたまたまかと思っていたが、確実に違う。護衛されているって感じがして、落ち着かないなぁ。
「建物はこれで大丈夫なんですね?」
「はい。本当にありがとうございます!」
ガラスを造れる方はいらっしゃるが、ドアを作る大工さんはいらっしゃらないそうだ。だが、ほとんどの方が家その物以外なら作れるので問題ないと。確か、アメリカがそんな感じだったな。
ここは本当に、日本文化が見当たらないだけで、それ以外の文化はミックスになってるわ…。
そんな事を思っていた時だった。
「これで、魔物種の馬や牛を捕獲する作業に力が入ります」
◇
「では明日。ご一緒しますね」
「捕獲まで申し訳ありません。宜しくお願いいたします」
詳しくお聞きしてみると、魔物の馬の中にとても賢くて強いリーダーが率いる群れがいるのだそうだ。
その群れに限らず捕獲へ行くと、邪魔されたり怪我人が出て思うように馬や牛を集められていない日が続いているそうだ。そのため士気が目に見えて落ちて来ていたのだが、私の作った家に住めるという明るい話題はタイミングとしてもとても助かったって。
クーとルーが勢子をしてくれれば、空振りって事はないだろう。
自分の言った事で始まった計画なら、お手伝いできる事はお手伝いすべきだとも思うしね。迷わずお手伝いを申し出た。
ただユリシーズさんを筆頭に、私が馬を駆って勢子に参加するなら絶対に参加させないと言われてしまった。
まあ、勢子ができるほどには馬を操れないから。これは分かったと受け入れたよ。
今日する事はもうないので、キャンピングカーを置かせて頂いているアカダさんの新しいお家まで戻る。
「姉ちゃん!アカギ!家がすごいんだけど!!」
「兄さん。落ち着きなよ」
「ああ、優さんの作る物はどれも凄いよ」
「優さん!本当に夢みたいな家を作ってくれてありがとう!ここなら子供ができても、寒さで凍えさせる事はなさそうで嬉しいよ!」
「たまたま作れる能力があって、気に入って頂ける物が作れて良かったです」
引っ越しの終わったアカダさんと話しをしていると、他の引っ越しの終わった方達が次々と集まって来られた。そして口々にお礼を仰りながら、チーズやお肉などを持って来て下さる。
「湯を貯めて使うお風呂は、気持ち良いですね!ありがとうございます」
「仕事の後、どろどろになる事もありますがお風呂があるとすぐに体が洗えて助かります!」
お風呂の使い方も噂として耳にしていた方も多かったらしく、お風呂のお礼もかなりお聞きした。
「お肉足りない?じゃあ足すね」
それは自然とバーベキューの流れになり、遅い時間まで明日の英気を養いながら続いたのはお察しの通りだよ。
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