22:キャンプの練習
「ロープの張り具合を、ちゃんと確認するんだよ。私が張ったロープの張り具合を目安にしてね」
はーいと子ども達は返事をして、せっせとテントを設置していく。テントはアカザさん達にお借りした物だ。
ポールを使ったペグを刺す位置の割り出し方、ロープはどんな角度が良いのかなどなどをレクチャーして行く。
アカザさん達とユリシーズさんが交ざるのも、いつもの事になっている。
「うん、だいぶ上手くテントを張れるようになったね」
「うん!テント張るの、楽し〜!」
最年長組ほど楽しみながら、だが、とても真剣に覚えている。孤児院を出たら必要になる技術だという意識が、そうさせるのだろう。
「この組み立て式ベッドを使うと寝心地が良いし、冷え対策にも、雨が地面を伝って中が濡れた時の体の濡れ防止にもなるからね」
いつかキナル第二王子殿下に話したコットも、もう流通が始まっている。
因みにこれはユリシーズさんの私物。子ども達は目新しいコットに順番に寝転んで、使い心地を試している。
一回や二回テントを張る練習しても上手くなる物ではないので、週に一度、暖かい午後を選んで、こうしてテントを張る練習を繰り返している。
練習は午後三時には片付けが終わるのを目安にしていて、おやつの時間が最後の楽しみだ。
しかし、これが張るのも片付けるのも大変だ。ビニール素材といった化学繊維はないので、分厚い帆布のような生地が使われている。そのため重いし、ごわごわしていてなかなか扱いにくい。
革をテント素材にすると、まず高い。そして通気性がない。
ある程度ゆとりのある人なら、帆布の方をインナーテントにして、革の物をフライシートとして使って、二重テントにするのもありかもしれないが……。
背負って移動する事を考えると、現実的ではないんだよねえ。
そんな事を考えていると、きちんとまとめたテント一式をひょいと持って、ユリシーズさんがキャンピングカー下の収納庫へ片付けてくれた。
「あ、ありがとう」
慌ててお礼を言うと、片手を挙げてひらひらして答えてくれた。
収納庫のドアを閉めると、「おやつ、みんな待ってるぞ」と次の行動を促される。
おおう、みんな目をきらきらさせ、晩秋の冷たい空気も相まって、赤い頬をしてこっちを見ている。
◇
「順番にホットケーキ持って行って食べてね。はちみつ使う子はテーブルにあるから使って」
私はキャンピングカーの中で、外にいるユリシーズさんからキッチンの窓越しに渡された食器を受け取る。
ホットケーキとホットミルクを注いでユリシーズさんに渡すと、ユリシーズさんが食器を受け取った子どもにそれを渡す。
子どもはそれを受け取り、孤児院の中で座って食べる。
孤児院の台所は夕食の準備で忙しい時間帯なので、このスタイルで落ち着いた。
「先生、ありがとうございました!」
おやつが終わると元気な挨拶に見送られ、野鍛冶の親方タドリィ親方の家を目指す。
一人きりの食事は味気ないだろう。何より、作業にかまけて碌な食事をしていなさそうなので、キャンプの練習のあった日はタドリィ親方の工房を訪ね、みんなでご飯を食べると決めたんだ。
タドリィ親方も、「美味い酒が出るなら来てええぞ」と言って下さったしね!
◇
「おう、来たか。今日の酒は何だ?」
「今日は麦焼酎です。が、先にお風呂使って下さい。お酒呑んだら、お風呂は入れませんから」
タドリィ親方は家に着替えを取りに戻ると、いそいそとキャンピングカーでお風呂に入る。
「タドリィ親方がお風呂済ませたら、ユリシーズさんとカールくんも続けて入ってお風呂済ませて」
「分かってる」
「オレ、ユリシーズ兄ちゃんより後に入ってお風呂洗うよ!んで、お湯入れ替えるね!」
「ありがとう、カールくん。頼むね」
頭を撫でてあげると、へへっと笑っている。
大所帯なので、早目からお風呂に入り始めないと最後が深夜になる。そして人数が多いので、男子は男子、女子は女子で続けて入って、途中でお湯を張り替える。
この流れも、みんな慣れた物になっている。
◇
「ふう。若い頃はがばがば呑むのが旨かったが、寄る年波にゃ勝てんて。こうしてじっくり呑むのが旨くなったもんよ」
「体のためにも、その方が良さそうですけどね」
少々狭いが、みんなでダイニングで固まって夕食を摂る。今日はイノブタと野菜の蒸し鍋。アテになりそうな小鉢がちらほら。
お酒は麦焼酎のお湯割り。好みで昆布、レモンを入れて呑む。
梅干しがあれば梅干しもいいんだけど、ここにはないから、あるもので楽しむスタイルは相変わらずだ。
さすがにこの人数がいて、さらにコンロを使って鍋をしているから、キッチンの窓を少し開けるくらい暑い。
それでも口の悪い好々爺のようなタドリィ親方と呑むのも食事をするのも楽しくて、毎回庭先にキャンピングカーを停めて騒いだそのまま泊まってしまう。
タドリィ親方は寝る時は家へ戻るんだけど、近く届くプレゼントを喜んでくれると良いな。
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