20:寺子屋の先生
「複写」
見た物そのままを炎の魔法で木簡に焼き付け、教科書を量産している最中だ。まあ、ページ数がそんなにないから、もうすぐ終わりで助かる。
なぜなら細かい作業で魔力を食うのか、魔力切れで少しくらくらしている。
残り一冊、全二十四ページ。魔力が持つかな……。
「複写」
ずっと見ていたユリシーズさんが複写を試す。
「……っく」
「無理しないで。これも固有能力みたいだし」
「倒れて、また運ばれたいならそうする」
あうっ。それは恥ずかしいから遠慮したい。
さて、なぜ教科書を量産しているのかといえば、昨日肉を教会に寄付したお礼にこられた方に頼まれたのだ。
「子ども達に、しっかり勉強を教える時間の取れる者がおりません。
もし宜しければ、子ども達に勉強を教えてやって頂きたく存じます」
と。
で、とりあえず授業参観してみたんだ。教科書は足りていないし、先生はしょっちゅう席を外すしで、ちょっとどうかという授業だ。
授業内容も日本の小学一年生の一学期分もなさそうなので、引き受ける事にした。
授業は来週の月曜から、国語と算数を担当。体育と称して、剣の扱い方をユリシーズさんが担当。魔法の使い方を、魔法使いのナハルさんが担当。課外授業は、全員で引率して行う。
働き口がほとんどなく、孤児院を出るとほとんどの子ども達が冒険者になるそうなので、それに合わせたプログラムにした。
歴史などの、私には手に負えない部分は教会の方が受け持って下さる事になっている。
これはカールくんがいた寺子屋より、かなり充実した内容になるなと悩んだ。教会の方に相談すると、どんなに充実しても問題ないそうなので、色々やるよー。
教科書を二人でどうにか複写しきり、乗り付けていたキャンピングカーまでかろうじて辿り着いてから記憶がない。
お姫さま抱っこは回避できたし、教科書も一日で複写が終わったので良いのだ。
◇
初めての授業はどんな子達かもっと知るため、課外授業にした。
大人というか、冒険者五人の同行がある。そこで、子ども達だけで普段は行けない、少し森の奥の高価な物の採取が目的だ。
「やった!傷薬の葉が、一杯摘めた!」
「木の実や果物もたくさん!」
「火傷の薬の実もたくさんだよ!」
アカザさん達も売れる葉や実、鉱石なんかを細かく教えてあげている。
クーとルーには走り回って私達の周りから魔物や野生動物を追っ払ってもらっているので、ある程度は安全が確保できてる。
「はーい、ここでご飯を作るよ。火起こしや外でご飯作る担当の子は、材料取りに来て」
「はーい!」
十歳以下の子ども達はお留守番なので、孤児院でいつもお手伝いしている年長組は割と手際が良い。
竈門を組むのと焚火に手間取ったが、料理自体はスムーズに作れた。
◇
「今日は晴れ続きの焚火だから火が付きやすいけど、雨で土や枯れ木が湿ってる時はこうすれば良いよ」
煮込み料理を煮ている間に、土や枯れ木が湿っている時の焚火方法をレクチャーする。
……、なぜ冒険者五人が真剣に聞いているのかな??
魔法がある世界だし、この人達との今までの付き合いで、火の魔法で強引に火を起こしていたと思われて苦笑いが出てしまった。
「わ、水魔法で濡らしたのに、ちゃんと火が付いた!」
「濡れてても火が付くもんなんだね!」
わいわいと濡れた枯れ木を使った焚火の練習をしているうちに、煮込み料理が完成した。
みんなでそれを美味しく頂く。子ども達が作ってくれたこの地方の郷土料理だが、とても美味しい。
◇
食事の後はそれ以上奥へ進まず、安全を期して帰路に着く。
今度はみんな、注意深く足元を見ている。
アカザさんによると、この地方の一部でのみ産出される珍しい宝石の原石が、このあたりの地表にも稀にあるのだそうだ。
小さな物や宝石にはランクが低い品質の物でも人気があり、高値で買取りされるそうだ。
みんなその宝石に狙いを定めたため、下を向いててくてく歩いている。
「あ、光ってる!……、違った……。
ただの石なのかぁ。残念。」
「こっちは?……違うや……。え、これも売れる宝石系の石?やった!」
みんな目を皿のようにして、これはと思う石を手にして確認している。そしてアカザさん達に見せ、本当にただの石かどうかの確認も怠らない。
お目当ての石はなかったが、宝石系の小さな石と、小ぶりな魔石が拾えたのでまずまずのできだろう。
食料は教会にもらえると助かるが、それ以外の物は子ども達の物として売っても構わないと言われているので、統括ギルドへ寄ってから教会へ帰る事にする。
◇
「わあ!これで孤児院を出る時に、冒険者に必要な装備がいくつか買える!」
「私も、町へ出るまでの旅費とか宿代になりそう!」
男の子はカールくん、サーラちゃんと同い年の十四歳。女の子は一つ歳下の十三歳。
そっか、そんな支度金も貯めるんだね。足しになって良かった。
安全な場所で宝石や魔石が手に入ったら、何かアクセサリーに加工して売るのも良いかもしれない。
そんな事を考える私なのだった。
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