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零式高速弾道移動法

 何事もなく翌日を迎える。

 朝日が照りつけ、一日の始まりを祝福しているようだ。


 実に飛行日和である。



 朝食を済ませ、俺は約束の時間まで王都の城壁の外で固有スキルの試験をしている。

「大丈夫そうだな…」

 作戦の要ともなるこの方法が使えなければ違う手を考えなければいけない。




 しばらくして、リュートがやってくる。


「なぁ、本当に大丈夫だよな…」

 流石のリュートも心配しているようだ。

「大丈夫だ。案ずることはない。君は君の役割を頼むよ。水や食糧は?」

「…ストレージに1週間分入れてある」


 彼には王都から遠く離れたドークリーバー伯爵の領地に行ってもらう手筈になっている。

 とは言え、通常の移動手段では最短でも5日はかかる。


「本当に大丈夫か…?」

「大丈夫大丈夫、最悪君の固有スキルのスケープゴートを使えば大丈夫でしょ?」


 リュートの持つ固有スキル”スケープゴート”は、自分とそっくりな分身を身代わりに作ることができる。このスキルがデコイ魔法やスケアクロウなどの他の分身術式などより優れている点は、攻撃を受けた後でもそのダメージそのものを身代わりに負わせて無かったことにできる。

 つまり、致命的な攻撃を受けても、一度だけなかったことにできるのだ。


「おい…人体実験のつもりじゃないだろうな…」

「案ずるな、人体実験はすでにしている」

「…」


 冒険者のチンピラで実証済みである。



 ーーーーーーーーーーーーーーーー

//エンティティに次の効果を付与する

Entity.Add

{

 //もし自分プレイヤーの右手に触れたら

 if(hit.player.RightHand)

 {

  //空気抵抗を無効にする

  AddEffect.System.AirResistance = false ;

   //120秒間

   TimeCounter.Countdown.sec(<120)

 }

 {

  //落下ダメージを無効にする。

  AddEffect.System.Falldamege = false ;

 }

 {

  //インパルスモードで力を加える

  AddForce(ForceMode=Impulse);

   //1ミリ秒でY軸方向にで1.4、Z軸方向に1.4の力で

   System.speed.ms = (x=0,y=+1.4f,z=+1.4f);

 }

}

 ーーーーーーーーーーーーーーーー


 さて、これで俺の右手に触れたものは、斜め45度に秒速2000mで飛んでいく。マッハ6.7である。戦闘機の3倍の速度だ。

 慣性問題は存在しないからこんな無茶もできる。もっとも、空気抵抗を無効にしなければ熱の壁と衝撃波で粉々になるが…。



「準備はいいか?」

「なぁ?本当に大丈夫か?」



 お前をマッハ7で南西の国境付近のドークリーバー伯爵領まで飛ばすと言われれば、心配するのも無理はない。


「大丈夫だって。見てろ?」


 ストレージから取り出された一枚の紙を取り出し、[Entity.Add]を[GameObject.Add]に変えて右手に触れる。

 その瞬間、紙は音もなく空へと軌跡を残して消えた。


「な?紙でもこの通りちゃんと空気抵抗なくマッハ6.7で無事上空まで飛んでいく。力は初動インパルスだけしか加えてないから、そのうち重力に捕まり落ちてくる。落下ダメージは無効にしてるから問題ない。まぁ何か問題あっても君の〈スケープゴート〉でどうにでもなるでしょ」

「…いや…分かってはいるけどよ…。勢い余って宇宙まで行ったりしないよな?」


「そんなことするか。ちゃんと計算してるわ。滞空時間は288秒。まず上空10万mまで上昇して、それから放物線を描くように自由落下が始まる。飛距離は407km。ちょうど伯爵領の中央辺りに落ちる。空気抵抗がないから計算は正確だ」


 昨日の夜に、何度も計算した。異世界でスマホの使い道はないと思っていたが、関数電卓として役にたってくれたよ。放物運動計算とか手でやるのはダルすぎる…。


「自由落下が始まるぐらいで空気抵抗の無効化が解除されるから、落下地点の微調整は頑張れよ」



「…わーったよ」

 大きく深呼吸して心の準備ができたようだ。


「よし。じゃあ、服を脱いでくれ」

「は?」


「は?じゃなくて。服はエンティティには含まれないからな。たかが布とは言え、マッハ7で瞬間加速する君の体に、慣性でこの場に止まり続けようとする服の僅かな力でもとてつもないエネルギーになるぞ?まぁ、衝撃波で粉々になるのは明確だけど。相当痛いと思うぞ?下手したら死ぬかもな」

「一緒に飛ばせよ!?」

「いやぁ〜それができたらいいんだけどな。はっはっは」

「んだよ…つっかえねーな…」

「すまんて」


 だからリュートだけを呼んだ。見送りは必要ないと。彼の名誉のために…。


「おい、脱いだぞ」

 服をストレージに閉まって後ろを向くリュート。


「…野外で全裸はヤベェな…」

「お前!刈り殺すぞ」

「冗談だって。さて、方角は……ここだな。よしよし。じゃ、海崎からの定期連絡もあると思うが、作戦通りよろしく頼むよ」

「分かったから早く飛ばせ!誰かに見られたらどうする!?」

「おいおい、君が人目を気にするとは意外だな」

 厨二病の癖に。一丁前に世間体気にしやがって。

「おい!お前!絶対わざとだろ!早くしろ!」

「はいはい。じゃ!」


 ーーーー



 音もなく空へと一直線で飛んでいき、すぐに見えなくなった。



 零式高速弾道移動法の確立である。



「便利なのか不便なのか…」

 まぁ、服や靴など身につけているものを全て外す必要があるのが問題だが…。


 俺のVA言語で使える関数は、主に、座標系を表すVector(ベクター)構造と、それ以外の速度や重力などに使うFloatフロート型など様々あるが、なぜか小数点第1から2桁(0.1~10)までしか扱えない。


 これのせいで、座標指定でも10mまでが限界だし、オブジェクトを生成するにも一度に10個までしか作れない。


 前回の半グレ冒険者に人体実験させてもらった瞬間加速式は、

 //1秒間にY軸に10m移動する力を加える

 【System.speed.s()c()e() = (x=0,y=+10,z=0);】


 今回は、

 //1ミリ秒間にY軸とZ軸に1.4m移動する力を加える

 【System.speed.m()s() = (x=0,y=+1.4f,z=+1.4f);】


 ms(ミリセコンド)は1000分の1秒。変数の桁が増やせないのであれば、単位を変えることで実質的に不可能を可能にした。


 最高理論値では、

 //1ミリ秒間にY軸とZ軸に10m移動する力を加える

 【System.speed.ms = (x=0,y=+10f,z=+10f);】

 が可能である。



 つまり、秒速14,100m(マッハ47.8)で斜め45度に飛んでいける。最大飛距離は2万kmに及ぶ。


 この世界は地球をベースに作られている惑星だ。外周は4万kmで同じ。

 つまり、俺はこの場所にいながら、星の裏側まで33分で爆速宅配ができるということだ。


 この星の全ての範囲を爆撃範囲と言える…。



 まぁ、マッハ48で打ち出せば、第二宇宙速度のマッハ38を超えてることもあり、確定でこの星の重力圏からおさらばしてしまう。


 それに、手元の1度の角度のズレが、1km先では20mもズレる。今回のリュートも400kmも離れるところに飛ばせば、数十kmの誤差はあるだろう。


 ここから魔界に魔法弾なんかで爆撃するという案もなしではないが、効果は期待できそうにないな…。


「まぁ、使い方次第でなんとでもなるか…」


 俺はそんなことを考えながら、王都へと戻った。




 王都で明日の作戦で必要なものを用意する。



 まずは、フードのついたローブを10着。耳が特徴的な獣人種が身を隠すなら必須のアイテム。

 それからセトの着替えも必要だな。俺より頭二つ分小さいぐらいの身長を考慮した服を買う。



 次に、スライムだ。


 薬屋に足を運ぶ。


「亭主、粘着スライムを頼む」

「粘着スライムですか。これはまた珍しいものを」

()()()()()にな」

「でしたら、こちらの”ネズミも笑ってコロリ 空の星様になれるチーズ”がおすすめです」

 ネーミングセンスが狂気染みてる毒団子を薦めてくれる。

「あぁ、捕まえるの空飛ぶネズミでな。粘着スライムが一番だ。拳サイズのを1ダース詰めてくれ」

 薬の調合素材として使われるネバネバとしたスライムがある。これ自体に効果はないが、その粘着性が薬やアイテムに役立つこともある。



 俺が欲しいのはその粘着性だ。


 亭主は頭にハテナを浮かべながらも裏に行き用意してくれる。


「お待たせしました。触る時には必ず手を濡らしてから触ってくださいね」

「ああ、心得てる」

 水気のないところにつけると、剥がすのが大変だ。


 水の入った瓶2つに分けられて渡される。

 金を支払って店を後にし、他にも必要そうな物を買い足す。

 ロープや、地図、コンパスといった冒険者に必須の道具も準備し、最後のキーアイテムを買いに行く。


「おばちゃん、トマト1ダースくれ。真っ赤に熟したやつ」

「まいど」

 今作戦の最重要アイテム。トマト。正確には、トマトジュースとも言うべきものだ。


「あ、そのリンゴももらおう」

「はいよ」


 俺はトマトをストレージにしまい、りんごをかぶり付きながら王都を歩く。


 あとは、王城で最後の大詰めを終えれば準備は整う。

 俺は海崎たちが待つ王城へと向かった。

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