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はい、こちら黄泉国立図書館地獄分館です  作者: 日野 祐希@既刊8冊発売中
最終話 ~冬~ え? 神様方が地獄分館を取り潰そうとしている? ウフフ……。ならば私が、彼らに身の程というものを教えてあげるとしましょう。
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ラストバトル、開始です。

「両者、レファレンスの依頼書のコピーは受け取ったな。――ああ、まだ依頼を見るんじゃないぞ」


 大会議室に伊邪那美(いざなみ)様の楽しそうな声が響き渡ります。

 伊邪那美様、超楽しそうですね。声がこれでもかという程弾んでいます。


「よし。では始めようか。――位置について、よーい……ドン!」


「死に晒しなさい!」


「ぬおっ!」


 勝負の火ぶたが切って落とされた瞬間、私は依頼書には目もくれず久延毘古(くえびこ)氏に金棒と釘バッドをダブルで振り下ろしました。

 ですが、奇襲は失敗。意外と反応の良かった久延毘古氏に、あっさり躱されてしまいました。


「貴様、一体何のつもりだ!」


「何って、レファレンスの一環ですよ。私流の……ね!」


 言葉と共に第二撃を振り下ろしますが、こちらも避けられてしまいました。

 チッ! 見た目は初老のくせに、アスリート並に素早いですね。腐っても神様ということですか。


「フン! 本性を現したな。だが、付き合ってられん。ケンカがやりたいなら、今すぐ外へ行け!」


 そう言い残し、久延毘古氏は大会議室から走り去ろうとしました。

 久延毘古氏をこの部屋から逃がすわけにはいきません。彼には勝負が終わるまで、この部屋にいてもらわなければならないのですから。


 とは言うものの、金棒と釘バッドを振り抜いた今の体勢では彼を止められませんね。

 仕方ありません。ここは私流レファレンス、第二の策です。


「とまとさん、ちーずさん、ばじるさん!」


「「「あいあいさ~!」」」


 大会議室に踏み込んできた子鬼三兄弟が、絶妙なコンビネーションで久延毘古氏を足止めしました。

 倒すことに重きを置かず、あくまで足止めに主眼を置いた動きです。これなら久延毘古氏も、おいそれとこの部屋から脱出できません。


「くっ! 汚いぞ、部外者を巻き込むとは!」


「久延毘古様、ちゃんとルールを聞いていましたか? 伊邪那美様は『手段を問わず』と仰っていたじゃないですか。それに、チームプレイはレファレンスにおいても正当な手段のはずですよ」


「どこの世界に、徒労を組んでレファレンスの妨害工作をする司書と司書補がおるか!」


「いるじゃないですか、ここに」


「ふざけるな、卑怯者め!」


 子鬼三兄弟に悪戦苦闘しながら、久延毘古氏が私を睨み付けます。

 アハハ。本当に何を考えているのでしょうね、この神様。インテリのくせに『卑怯や汚いという言葉は敗者の戯言である』という至言を知らないんでしょうか。勝てば官軍、負ければ賊軍。世の中、いつだって勝った方が正義です。


 第一、審判である伊邪那美様は、先程からポップコーン片手に大爆笑しています。

 つまりこの行為は審判公認。そもそも卑怯と罵られる謂れさえもありません。


(それにしても、ようやく久延毘古氏が感情を剥き出しにし始めましたね。鉄面皮を相手にするより何万倍も楽しいです。さあ、心行くまでかち合うとしましょうか!)


 そして悔し涙にむせび泣かせてあげます。

 と思ったら、先に久延毘古氏が動きを見せました。


「そっちがその気なら、こちらも対抗するまでだ。商議員諸君、手を貸してくれ」


「「「わかりました!」」」


 おお! 商議員の方々まで動き出しましたか。向こうも本気ですね。

 ですが、こちらもそれを黙って見ている気はありませんよ。


「子鬼さん達、出番ですよ!」


「「「は~い!」」」


 返事と共に大会議室に雪崩れ込んできたのは、五十人からなる子鬼さんの大軍です。

 プラン・デストロイに備えて各部署から供出してもらったのですが、まさかこんな形で役に立つとは思いませんでした。


「皆さん、あそこにいるおじさん達と思いっきり遊んであげてくださーい!」


「「「よろこんで~!」」」


「のわ~! 君達、やめなさい!」


「重い! ――うぐっ! 腰が……」


「ぎゃああああああああああ! 子鬼の壁が迫ってくる~!」


 大会議室は文字通り、阿鼻叫喚の地獄絵図となりました。これぞ、地獄の正しい作法ですね。

 さて、邪魔者は一通り片付きました。あとは、レファレンスを解決するだけです。


「兼定さん、聖良布夢(せらふぃむ)さん、タカシさん、白仙さん! あなた達も出番ですよ!」


「承知いたしました」


「待ってたッスよ、姐さん!」


「なんかもう、このノリも慣れてきたな」


「何で儂まで……」


 連れて来ていた残りの四人を呼び寄せます。

 ちなみに白仙さんは、人質くらいにはなるだろうと思って天国庁から拉致――もとい、同行してもらいました。

 ただ、この状況なら人質以上に役に立ってくれる可能性がありますね。

 さすがは私です。すべての行動に一切の無駄がありません。


「閻魔様! 何を天井に頭突っこんで遊んでいるのですか。さっさと降りてきてこちらを手伝ってください」


 最後に閻魔様を天井から引き抜きます。

 こんな時にまで手を焼かせてくれますね、このゴリラ分館長は。


「はれ……? わしはいったい……?」


 微妙に呂律が回らなくなっているところを見ると、まだ寝ぼけているようですね。

 目を覚まさせてあげましょう。


「がふっ! げふらっ!」


「閻魔様、お仕事の時間です。目は覚めましたか?」


「は……はい……。ばっちり覚めました……」


 顎と脳天に一発ずつ見舞ってやったら、気分もスッキリ爽快になったようです。

 さあ、これで役者が揃って準備も整いました。


「皆さん、久延毘古氏をはじめ、商議員共が足止めを食らっている今こそチャンスです。急いでこのレファレンスを解決して、勝利をもぎ取りましょう!」


 六人で円陣を組み、受け取った依頼書のコピーを回し見ます。

 さてはて、依頼の内容はなんでしょうね……。


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