第二話 そんなの嫌です!
沙紀が叫ぶと教室のドアがガラッと開いた。
そこに立っていたのは背の高い女の先生だ。
沙紀の方をチラッと見て
「かわい−!」と喜んでいた。
どなた様でしょう…?
「はい!担任の内田です!よろしくね皆さん!」
「先生でしたか…」
「そうよ水野さん!!」
「名前…」
「だってたった一人の女の子ですもん!」
内田先生は沙紀に軽くウィンクをした。
沙紀は顔を赤くして下を向いてしまった。
その反応が気に入ったのか沙紀に笑いかけた。
「じゃあどこでもいいから席に付いて〜」
「俺ここ!」
女の子みたいな顔の男の子は沙紀の後ろの席に座った。
眼鏡を掛けた男の子はその男の子の隣に座った。
「愁は〜?」
「めんどいからここ」
愁が座ったのはなんと沙紀の隣だった?!
沙紀は
「ええええ?!」と言って顔を青ざめた。
愁は沙紀に
「慣れろ」
と言った。
慣れれませんん!!!
一番このクラスで怖いのあなたなんですよお!!
そっ…そのあなたが隣?!
「決まった?じゃあこれからはその席ね」
内田先生は笑った。
一名顔を青ざめている者がいるのは気にしない。
「入学式行くわよ−」
「はあい…」
やっと始まった入学式。
体育館はとても広く椅子が何個でも置けそうだ。
沙紀は
「広いです−」と喜んでいた。
沙紀の後ろからひょこっと頭を出した少年が沙紀に話しかけ始めた。
「俺ねー灰原夏樹!」
「いいお名前ですねえ」
「でねーこっちの眼鏡が椎羅鏡くん−」
「そ…そうなんですか」
沙紀はまだ慣れていないのか体が震えていた。
後ろに男の子…後ろに男の子…だめだあ…。
すごく怖いですう…!
でも…がんばらなゃきゃいけませんよね…。
「座り…ましょう?」
「うん!」
「悪いな…水野」
「え?」
「あれえ−無口の鏡くんが喋ってるー」
沙紀に話し掛けてきたのはいつも無口らしい椎羅鏡である。
沙紀は
「どうかしました?」と鏡に話し掛けた。
すると鏡は沙紀の顔をしっかりみていた。
「あのう…椎羅さん?」
「やっぱり…」
「椎羅さーん?」
沙紀がビビりながら鏡の顔に近づいた。
すると鏡は携帯を取り出し写メをしていた。
「え?!」
「似てる…アスカに…」
「アスカって…誰ですか?」
「キャンディポリスの…女刑事アスカ…」
沙紀は何を言っているのか分からないようだ。
皆さんも分かりませんよねえ?
キャンディポリスって…何でしょう…。
飴の…刑事さん?
ムムムムムム…悩みますねえ。
でも…分からないです!
沙紀が悩んでるとまたもや隣に座っている愁が沙紀に言った。
「アニメのキャラクターだよ」
「アニキャラ?!」
「そうなの−鏡くんアニヲタなんだよ−」
「アニ…ヲタ…?」
沙紀は苦笑いをした。
私…その…似てるんですか…。
アスカさんっていう方に…。
あんまり…嬉しくないです…。
「静かにー!!」
内田先生が沙紀たちに向けて指を唇に当てて
「シー」と言っていた。
沙紀は
「すいません…」と小さな声を出して頭を下げていた。
「え〜この学校の校長の猪垣です。入学生の皆さんご入学おめでとう」
「校長先生若いです」
「確か29歳だっけ」
「若いね−」
29歳ですかあ−。
私のお母さんの三つ年下ですねえ。
…………はい?
離婚していますよ?
私が…確か9歳の時だと思いますが…。
「沙紀ちゃん!入学生の言葉だよ−!」
「はっ?!」
そうでした!
私満点合格でした!
早くいかなくてはいけないのでした!立たなきゃ!
「水野沙紀さん」
「は…はひ?!」
「お願いしますね」
沙紀は立ち上がりマイクに向けてしっかり話し出した。
「本年この橘学院高等学校に入学した私たちは、三年間を有意義に過ごし頑張っていく事をここに誓うことを宣言します…」
で良いんですよね…。
沙紀はマイクの電源を切り一礼した。
すると大きな拍手が沢山鳴り響いた。
「沙紀ちゃんすごぉい」
「アスカ…」
「ま、普通だな」
色々言ってはいるが兎に角上手く出来たようだ。
沙紀は顔をあげると周りに男の子たちが…。
「沢山…だめです…」
沙紀はストンとしゃがみこんでしまった。
校長先生は
「どうしました?!」と驚いていた。
「沙紀ちゃん!」
「アスカ!」
「水野!大丈夫か?!」
何故か席から離れて立ち上がった三人は沙紀の隣に座った。
一番心配していたのは女嫌いの愁だった。
「だめです…」
「ああ!もう!ったくさ!!こんな高校くんなよな!!」
「すいません…」
「今日だけだからな」
「へ?」
愁は女嫌いのはずなのに立ち上がれない沙紀を背中に乗っけていた。
沙紀は
「あの…」と小さな声で愁に話しかけたのだが愁は
「黙る」と言って無視していた。
「校長先生−保健室に運びますね」
「よろしくお願いします」
「はあい」
夏樹と鏡は愁の後ろに付いて沙紀を保健室に運ぶことになったのである。
沙紀の顔は赤い。
多分とても恥ずかしいのだ…多分。
なんで私愁さんの背中に乗せていただいてるのでしょうか…。
とても申し訳ありません…。
本当にすいません。
沙紀は呟いていた。
「すいません…」
「着いた」
「沙紀ちゃん着いたよ−!」
「アスカ…大丈夫?」
「アスカさんじゃありません」
沙紀はため息を付いていた。
愁は
「座れ」と言って保健室のソファーに沙紀を座らせた。
沙紀は頷いて座った。
「で、そんなに嫌いか?」
「嫌いじゃなくて怖いんです」
「怖いんだぁ…」
「アスカ…怖いのか?」
「アスカさんじゃありませんって!!」
「彼女は水野沙紀だ」
「そうそう沙紀ちゃんだよ」
鏡に愁と夏樹が説得していた。
皆さん私の事はどうでもいいのですね…。
まあそれはそれで嬉しいかもですが…。
いや…別に嫌いな訳じゃ無いんです。
「で、お前は?」
「何のお話でした?」
「だから何で男が怖いんだ?!」
「ああ…そうですか」
「教えろ」
「嫌です」
沙紀はニコッと笑って言った。
それにムカついた愁が思いっきり沙紀のほっぺたを引っ張り出した。
「はひふふんでふか!」
「言わないと離さない」
「いはいでふ!」
「沙紀言え」
愁が沙紀をそう呼んだ。
その瞬間沙紀の顔は真っ赤っかになっていた。
沙紀と呼ばれたのが初めてなのか嬉しそうだ。
「沙紀ちゃん悩み言ってみ−」
「アスカ言ってみるとなんでも解決で…」
鏡は夏樹に口を塞がれた。夏樹は
「黙ろうね−」と言いながら嫌な笑顔を浮かべていた。
鏡は
「ムムム」と喋りたくてたまらないようだ。
「はい…」
そして沙紀の身の上話が幕を開けたのだ。
「私の両親は離婚して早7年が経ちます。私は最初母方につくという話だったのですが、父が許しませんでした。父は自分が引き取ると言い張り結局私は父に引き取られました。父は仕事のストレスで私に暴力をふるい、私は怖くてたまらなかったんです。だから父が寝ている間家を抜け出して祖母の家に助けを求めました」
7年前〜
「私が沙紀を引き取ります」
お母さんの声だ…。
何の話しているの…?
「金があるのは僕の方だ!!引き取るのは僕だ」
お父さんまで…何の話をしているの?
引き取る?引き取らない?
分からないよ…。
「僕が引き取るからな」
「もう…勝手にして頂戴」
「明日出ていけ」
「分かったわよ…」
母親は立ち上がり沙紀の部屋のドアを開けた。
沙紀は急いで目を閉じた。
気付かれていませんよね…?
お母さん泣いているんですか?
泣かないで欲しいです。何で泣いているんですか?
「沙紀…ごめんね」
母親は優しく沙紀の頭を撫でてあげた。
「さようなら…沙紀…」
その言葉を言ってお母さんは姿を消しました。
朝起きると机の上に手紙が置いてあったのです。
私はそれを見ると走り出していました。
書いてあった文字とは一言で
「さようなら」と書いてあったのだ。
「お母さん!!お母さん!!」
でも…もういませんでした。
それからの人生は辛い事ばかりでした。
「ガキは早く寝ろ!」
「痛いです!お父さん!」
「邪魔なんだよ!」
バシッ
「どうしてぶつんですか!」
「出てけ!ガキなんかいらねんだよ!」
毎日毎日ぶたれました。
でも我慢してました。他に行くところが無かったからです。
お母さんがいなくなって一週間が経ちました。
私の怪我は体じゅうに出来ていました。
もう嫌だと…思いまして部屋にある祖母の住所を見つけて逃げ出しました。
台風が来ていたので死にそうでしたが…。
何とか着いたのです。
「おばーちゃん…開けて…」
「沙紀ちゃん?!一体その怪我どうしたんだい?!」
「寒い…」
「傘もさしてこないで…お入り沙紀ちゃん。温かいミルク飲むかい?」
「ん…」
おばーちゃんは温かいミルクをくれました。
事情を事細かに話すとおばーちゃんは一緒に住もうと言ってくれました。
それ以来お父さんには会ってはいません。
幸せだった三年間。
でも…おばーちゃんは病気で亡くなってしまいました…。
それからは一人で頑張って暮らしてました。
「ぐすん…」
「可哀想に…アスカ…」
夏樹と鏡は涙を流していた。
そんなに可哀想ですかねえ…?
「なあ…だったらさ…男の人を嫌いにならないの?」
まだ何かを悩んでいる愁は沙紀に問いた。
「まあ…普通はです」
「なんか他にあったのか?」
「中学の時軽く男子に虐められまして…」
「ああ…言ってたな」
「そういう事です」
沙紀は苦笑いをした。
愁は沙紀は平気なのか頭をポンポンと撫でた。
沙紀は顔を上げて愁を見上げていた。
愁さんは…女嫌いなんですよねえ…?
私も…大丈夫ですが。
愁さんと夏樹くんとヲタさん…いやいや鏡さんは全然怖くないです。友達ですよね?
「えへへ…」
「気味悪いぞ」
「喜んでいるんです」
「何が嬉しいの−?」
「友達が出来たことです」
沙紀はほんのり笑った。
可愛いい…。
友達出来たの嬉しいですよ。
えへへ…。
「沙紀ちゃん可愛い−」
と言って夏樹は沙紀に抱きついた。
沙紀は
「どうしました?」と夏樹のほっぺたを引っ張った。
「あれえ?僕ら平気なのお?」
「友達ですから」
「そーなんだあ」
「少しずつ慣れていきますね」
「そーだねえ」
「はい」
沙紀が笑った。
夏樹は沙紀の膝の上にちょこんと乗っかって喜んでいる。
そんな二人を見ていた愁が沙紀に聞こうとした。
「なあ沙紀」
「はい何でしょうか」
「……いやなんでもない」
「?」
何かあったんでしょうか…?
そんな悲しい顔しないで欲しいですが…。
私男の子に慣れそうです。
頑張りましょう!
でも…未だに…愁さんは怖いであります…。
顔付きが…ちょっと…。
キーンコーンカーンコーン
「鐘鳴りましたね…」
「今日は掃除して帰るんだ−」
「どこだっけ」
「教室」
ああ…教室でしたか。
さて立ちますかあ。
教室掃除にレッツゴー!
…………あら?
「…立てません…」
「足痺れたのかよ…」
「大丈夫−?」
「ごめんなさい…」
「お前さ」
「はひ?!」
「………乗れ」
再び愁は沙紀の前にしゃがんで背を向けた。
沙紀はゆっくり乗っかった。
保健室を出ると校長先生がこっちを見て笑いかけている。
しかし愁と目が合った瞬間校長先生は冷たい視線を送った。
「やあ家出少年」
「…」
「私を愚弄するつもりかい?」
「行くぞ」
愁は話もせずに校長先生の隣を通っていった。
沙紀は何がおこったのか分からないようだが夏樹と鏡は理解していた。
愁の…全てを。
「校長先生とお知り合いなんですか?」
「ああ」
「そうなんですか…」
「……」
なんだか…大変そうですね…。
愁さんと校長先生の関係は何なんでしょうね?
まだまだ…分からない事が沢山です。
そんな悩みを聞いてあげたいような…。
「沙紀着いた」
「あ…ありがとうございます」
「あら…水野さん大丈夫?」
「先生大丈夫です」
「そう…あ掃除教室よ」
「はい知ってます」
「じゃあ始めましょう」
内田先生は手を叩いた。
始まりの合図のようだ。
沙紀たちは教室の机を後ろに下げてほうきを取り出した。
愁は黒板消しを外にあるクリーナーで綺麗にしていた。
夏樹と鏡はほうきで掃除をしている。
綺麗にしましょう!
私掃除大好きですよ〜。
…………十分綺麗なのに…。
何かすごくやる気が…。
よし!
「沙紀ちゃん気合い入ってるねえ」
「あ、はい〜」
「アスカ…頑張るな」
「もう…アスカさんでいいですよ…」
沙紀は肩を落とした。
夏樹は鏡に飛びついた。
可愛いです−。
うさぎさんみたいです−。
「あんまり沙紀ちゃんの事アスカって呼ぶと死ぬよ…?」
「ひいっ?!」
………怖いです。
夏樹くん裏表が激しいですね…
鏡さんがびびってます。
笑っちゃいけないんです…いけない…ふっ…
「あ−アスカ!助け…」
「…殺」
「いやあああ!」
「まあまあ…掃除しましょう」
「は−い」
夏樹はケロッとして鏡から下りていった。
鏡は顔が真っ青である。
メガネがズレているのも気付いていない。よほど怖かったのだろう。
そんな鏡を心配した沙紀が近付いていった。
「鏡さん?大丈夫ですか?」
「アスカぁぁぁぁ!!」
「ひぃ?!」
鏡が沙紀に抱き付こうとした瞬間沙紀はびびって両手を出してしまった。
そして…
ドスッ
みんなが見ていない隙に沙紀は思いっきり鏡の腹を殴った。
その後背負い投げを…。
投げ飛ばされた鏡は口を開けてメガネを直した。
「あんまり…近付かないで下さいね…」
「は…はい!!!!!!!!」
鏡はゆっくり立ち上がり沙紀の顔をみてポゥと赤くなった。
何…?コイツらバカ?
黒板を消していた愁だけがその一瞬を見ていた。
しかし全く気にしてはおらず笑っているのだ。
「……」
「は−投げてしまいました!どうして…」
「なあ沙紀」
「はい?!」
「何驚いてんだよ」
意外にも愁は笑っている。こんな顔して笑うんだ…と沙紀は思った。
私…何考えてんでしょう?!ああ恥ずかしい!
もう一つ…考えている事があります…。
校長先生の冷たい視線には何か理由があるのでしょうか?
「さっきの事…」
沙紀が問いかけようとすると愁が
「気にすんな」
と少し怒りっぽい口調で言っていた。
「分かりました…」
「沙紀ちゃん」
「はい?」
「こっち掃除しよ−」
「そうですね」
夏樹が沙紀の腕を引っ張って連れて行ってしまった。
夏樹は愁と目が合うとウインクをした。
「夏樹くん?」
「愁くんの事知りたい−?」
「少し…」
「教えたの内緒だよ−」
「え?」
夏樹は沙紀の耳元に何かを囁いた。
それを聞いた沙紀は驚き夏樹に問いたのだ。
「なら…どうしてこの高校に入学したんですか?」
「ん−そうだね−」
「え?」
「ま、僕が分かるのはそれだけだよ−」
「…でも…」
夏樹は沙紀の頭をポンポンと叩いた。
そして掃除に戻ってしまった。
沙紀は愁の顔を見た。
さっき言われた言葉が頭の中でグルグル回っていた。
『愁くんは校長先生の息子さんなんだよ−』
そんな?!
まさかですよ…。
校長先生の息子さんですか?!
ならどうして父親の学校に来たんでしょうか…?
それにあの冷たい視線には何か理由が…?
「家出少年」と呼んだって事は家出中なんですか?!
なんか…色々あるんですねえ。
え?私が投げた?
誰も投げていませんよお。
あははは。
見た人いないんだから大丈夫ですよ−。
そんなねえ…。
「水野さん言い投げっぷりね」
「見てたんですか?!」
「しっかり」
「あああああ…」
見られてしまいましたぁぁ?!
どうしましょう?!
もう…ダメです…。
助けてくださあい!!!!




