01
惑星移住となったら人材確保と、何より金策だ。
シャハルは今までに拡げに広げた人脈で、事業を拡大した。
グループ企業『ドーン商会』の誕生だ。
そこそこ時間は掛かったが、辺境の安い惑星と『女神の裳裾』という変な名前の星船を手に入れた。
星船はそれなりに設備は揃っていたが、粗が目立つので金を惜しまず投資した。
エンジン部分は勿論だが、手を抜けないのは医療セクションの生命維持カプセルだ。
ドーン商会のうちの一つ、医療機器販売及び開発部門の所長ルシア・ロペスを医療部長に据え、所内からエンジニアを出向させた。
ハルト・カツラギ。
あらゆる人種が混じり合った人間が当たり前の世の中で、未だに日本名とアジア人特有の特徴を持っていた。
シャハルは自分の暁と真昼の太陽の色合いとは全く逆の、夜の帷の瞳と髪に目が離せなかった。
むやみやたらと手に入れたくなったが、どうにも靡かないハルトに苛立った。
出向期間が終わった所でルシアに手を回し、解雇させた上で眠らせて星船に乗せた。
ハルトが目覚めると既に地球は遠く、目的地まで中継もない状況だった。
激昂したハルトはシャハルを叱責したが、薄笑いを浮かべ肩をすくめるだけのシャハルに絶望した。
「そうか。もう、いい」
ハルトは唇を震わせ、ただ静かにその場を離れていった。
それすらシャハルには楽しくて仕方がなかった。
シャハルは地球の業務はドーン商会の社員に任せ、星船内では艦長を務めた。
自分の取り巻き連中と、買い取る前から乗船が決まっていた乗務員。
加えて、その家族達。
気付いたら千人程に膨れ上がっていた。
乗り込む前に全てを掌握するのは難しく、出航してしばらくは艦内を回った。
取り巻き達は放っておいても光に集まる虫のようにシャハルに集ったが、そうでない者は定期的に顔見せしないと今ひとつ掴んでおけなかった。
行程の半ばも過ぎたある日、シャハルが機関室で無骨なルース機関士長に会っていると、緑のジャンプスーツにふわりと淡い金髪を纏わせて少女が飛び込んできた。
「父さん、機関室で火災があるかも。見えたの」
「ソフィア、詳しく話してくれ」
ルース機関士長の娘は身振り手振り忙しくまくし立てた。
どういう事かとシャハルはその様子を窺っていたが、どうにも顔がいけ好かなかったらしく父娘に白い目で見られた。
そこにいる全員で機関室の点検を実施、ショート箇所を発見して事なきを得た。
シャハルは新しい玩具を貰ったような気がした。
──なんだ、そのギフト。気に入った。
ソフィアは嫌そうな顔をシャハルに向けた。
シャハルはそんな嫌悪に満ちた顔と、そこに輝く自分と同じ暁色の瞳が美しくて、ますます気に入った。
ソフィアは人に接触すると、時々未来のビジョンが浮かぶギフトを持っていた。
未来と言ってもせいぜい数日が限度で触れる度に見えるわけでもない。
割と中途半端なものだった。
シャハルがグイグイ詰めるが、ソフィアにとっては自分でも制御できないものに興味を持たれても面倒なだけだった。
その場は「仕事の邪魔になるから」、と父親が収めたので逃げるようにソフィアは立ち去った。
そのまま交際相手のハルト・カツラギの元へ出向き愚痴をこぼすと、ハルトは一瞬憤怒の表情を浮かべたがすぐに不安気なものに変わった。
おずおずとソフィアの背に腕を回し、
「彼は関わってはいけない。何をしでかすかわからないから」
そう呟いた。
そんな二人をよそに、シャハルはむしろ意気揚々とソフィアに付きまとった。
取り巻き連中がこぞってソフィアの素性を収集しては、彼の耳に囁いた。
・ソフィア・ルース
・機関室長の娘
・予知のギフト持ち
・医療室のエンジニア ハルト・カツラギの恋人
最後のその情報で、面白さが二倍に膨れ上がった。
──もう、ちょっかい入れるしかないでしょ。
シャハルは毎日の様にソフィアに会いに行っては、交際を迫った。
十五歳は離れている小娘に纏わりつく船長。
取り巻き達にすらもの笑いの種になったが、意にも介さず言い寄った。
「予知のギフトは、これからの航海と開墾に役に立つぞ」
信奉している男にそう言われれば、みな納得するしかなかった。
購入した惑星は既に大気の組成や土壌の分析が済んでいた。
大掛かりなテラフォーミングが必要ではないとは言え、実際に移住するとなれば、もう少し細かい調査が必要だった。
軌道上に星船を据え、調査を開始した。
ステファン・バーレイ、マフムード・アブドラが率いるサイエンスセクションの数名を先発隊として送り込んだ。
ステファンは発光する微生物を発見し、
「これを培養する事で発電出来るだろう」と鼻息荒く報告した。
今のところ星船の燃料は十分な在庫はあるものの、そのうち当てに出来なくなるので発電所の建設は必須であった。
ステファンとエネルギーセクションのヒルベルト・ロッシが主体となり、有機発電所が計画された。
「白い花が咲いている所がいいみたい。まるでマグノリアみたいね」
そうソフィアが言った、と機関室の工員がシャハルに報告した。
シャハルの信奉者はそれを聞き逃さず
「予知でそこを指定したのだから、責任を取れ」
と、シャハルとの結婚を提案した。
当然ハルトと別れる気も、シャハルと結婚する気もないソフィアは反発した。
ソフィアは無謀な計画を考え、そして実行した。
カフェテリアのあるアトリウムの三階でシャハルに迫られていたソフィアは、にっこり笑いながら身投げした。
髪をキラキラ輝かせながら落ちてゆくソフィア。
シャハルは目を奪われた。
手を伸ばすでもなく、ただ魅入っていた。
彼が覚えているのは、床に横たわるソフィアの足があらぬ方を向いている──。
それだけだった。




