幽体が教えた事
『幽体は、私に何でも教えてくれた。』
「友達、恋人、家族でしたね。」
喜与恵は、私に微笑んだ。
私は、ゆっくりと頷いた。
『愛する事の難しさ、拭いきれない程の悲しみ、絶望の中を生きていく苦しみ…。私の元へくる幽体のほとんどが、最後に嬉しいや楽しいなんて感情を持っていなかった。ほとんどの幽体が、絶望と悲しみの中でその生涯を終えていた。』
「宝珠だからこそ現れたのかもしれませんよ。」
喜与恵は、私の涙を優しく拭ってくれる。
『私の元へやってくる魂のほとんどが、今の世に生き苦しさを感じていた。夫が不倫をしていた幽体がやってきた。彼女は、不妊だった。二人で生きて行く道を見つけよう。そう言ってくれた優しい夫は、彼女の親友と不倫していた。子供なんていなくたって幸せになれるのよ。そう言って笑って励ましてくれた親友は夫と手を繋いでいた。親友は、バツイチで子持ちだった。そこには、自分が望んだ家族の形が合ったと彼女は笑った。』
「酷い裏切りですね。」
『そうだね。彼女は、優しい夫に愛されてると思っていたんだよ。だって、夫は落ち込んだ自分に毎日こう言った。ゆっくりでも、二人で生きて行こう。俺は、君がいれば何もいらないよってね。三日月先生、あれは嘘だったんですよね?彼女の願いで、彼女が亡くなって一週間後に会いに行ったんだ。私も、幽体としてね。』
「どうだったのですか?」
『彼女の夫は、彼女の親友と…。彼女と一緒に寝ていたベッドで肌を重ねていたよ。』
「そんな…」
喜与恵は、ボトボトと泣いた。
『ほら、やっぱり。三日月先生、嘘だったのよ!私の結婚生活なんて!彼女は、笑った。私も悪かったの、彼を責めていたから…。結婚して12年だった。愛なんてどこにあったのだろうか?私の疑問と彼女の疑問は同じだった。事がすんだら、親友は彼女の仏壇に手を合わせてニヤリと微笑んだ。可哀想、何にも手に入れられなくて。そう言ったのだ。』
「そんな酷い話ありません。何で、そんな酷い事が…。」
『私はね、滑稽だと思った。彼女も同じだった。寝室に戻ると、彼女の夫は、ベッドの上で泣いていたんだ。下らないわね、三日月先生。彼女が笑ったけれど、心がどしゃ降りなのは感じていた。泣くぐらいなら、初めからしなければよいのではないか?私は、彼女の夫を見ながら思っていた。でも、
何故、泣いているのか、私も彼女も気になったんだ。』
「幽体のまま、触れたのですね?」
喜与恵の言葉に、私は頷いた。
『私から流れてくるビジョンを彼女に見せてあげたかった。そして、彼女もそれを望んでいた。私は、彼に触れた。彼の頭の中には、彼女との日々が流れ続けていた。彼女は、何故と泣いていた。』
「何故だったのですか?」
私は、喜与恵を見つめていた。
『互いに相手に気持ちをぶつけなくなっていった。だから、互いの気持ちがわからなかったんだよ。彼は、子供を欲しい事、でもそれ以上に彼女を失いたくない事をうまく言えなかった。彼女は、子供は欲しいけれど本当は彼が一番大事だというのをうまく言えなかった。それらを口に出し続ければ、本当に子供が出来なくなってしまうかも知れないと互いに恐れた結果だった。愛していたとしても、相手に伝わっていないならば愛していないのと同じ事だと私は彼女の幽体から教えられた。』
「それで、その夫はどうしたのですか?」
『彼女の49日に崩壊して、入退院を繰り返しているよ。彼女がね。今でもずっと傍にいるんだ。時々、私に会いに来て報告してくれるんだよ。彼女は、私に話したんだ。死ぬ前に、もっとぶつかればよかったって…。』
「彼女の言葉は、伝えなかったのですね」
『彼女が、お別れを望まなかった。彼の傍に一生いる事を選んだんだ。だから、今も傍にいるよ。』
「死なずにそれを知れていたら、二人の未来は違っていたのでしょうね」
喜与恵は、そう言って泣いていた。
私は、たくさんの幽体から愛を教えられた。
それは、様々な形や色で、一人として同じものはないのを知った。
同じではなくても、共鳴したものだけが友になりパートナーになる事を知った。
言葉で、表現すれば「わかる」って気持ちである。
なのにいつしか、普通や常識や当たり前とゆう名の濁流に押し流されていく。
その結果、自分が本当に欲している事を忘れてしまうのだ。
そして、息が出来なくなるのを感じていくのだ。




