第52話:荷物持ちとスイカと
「どうにかリビングのカオスを収拾して外に出たまではいいけど……あ、暑い」
僕は今馬鹿みたいに重いトランクを引きながら、真夏の道を歩いている。
どうにか荷造りが終わって駅に向かうまではよかったんだけど、何なんだこのトランクの重量感は。
三泊四日だけにみんなも荷物は多いけど、うちのトランクの重さはハンパじゃない。一体何が入ってるんだ?
「き、きな子姉ちゃん。なんか妙に荷物が重いんだけど、変なもん入れた?」
僕は額から汗を流しながら、きな子姉ちゃんへと質問する。
きな子姉ちゃんは両手をぶらぶらさせて歩きながら、気だるそうに質問に答えた。
「んあー……変なもの入れてないよぉ? まずゲーム機本体でしょ? あとコントローラーと……」
「スタァァァップ! しょっぱなから変なもの入ってるよ! ゲーム機本体って、そりゃ重いよ!」
僕はきな子姉ちゃんにツッコミを入れるが、すぐ暑さにやられてだらっと肩を落とす。
そんなきな子姉ちゃんの言葉を聞いていた刹那姉ちゃんは、胸の下で腕を組みながら言葉を返した。
「トランクがどうも閉まらないと思ったら、こっそり入れてたのね……私も慌てていて気付かなかったわ」
刹那姉ちゃんは片手で頭を抱え、がっくりと肩を落とす。
しかしそんな刹那姉ちゃんの言葉を気にすることもなく、さらにきな子姉ちゃんは言葉を続けた。
「んー……あと何入れたかなぁ? ああそうだ。スイカ割りしようと思ってスイカ3玉入れたんだ」
「うん。きな子姉ちゃんは“現地で買う”ってことを覚えようか。てかよく入ったねそれ」
聞けば聞くほどこのトランク異次元に繋がってるんじゃないかと思いたくなるが、この重さは本物だ。
いや、重さだけなら大丈夫だけどこの暑さはちときついなぁ。
「はっはぁ! 信よぉ、この程度の暑さでバテるとは鍛え方が甘いぞぉ」
「いや、僕のトランクに乗ってダレてる猛には言われたく……って何してんの!? どうりでさっきから重さが増したなぁと思ってたよ!」
猛はいつのまにか僕の引いているトランクの上に乗り、暑さで完全にダレている。
そして僕のツッコミを受けた猛は、嫌々ながらもトランクを降りた。
「ちぇー。信のけち! ド変態!」
「ド変態!? どっからそんな評価が……いやまあ、降りてくれたからもういいや」
僕はそれ以上ツッコミを入れる気力もなく、駅に向かう道を進んでいく。
そうして前に進んでいくと、ようやく駅前広場へと出ることができた。
噴水の水が普段よりも涼しげに感じられ、早朝だけあって人通りも少ない。なんだかようやく一休みできたって感じだ。今朝からツッコミしっぱなしだったからなぁ。
「荷物運びお疲れ様。これスポーツドリンク」
刹那姉ちゃんは手持ちの鞄から一本のペットボトルを取り出し、ぶっきらぼうに僕へ突き出す。
そうして突き出されたペットボトルを受け取った僕は、ひんやりとした感触に癒されながら返事を返した。
「ありがとう刹那姉ちゃん。なんというか、こう、荷物運び以外で疲れたよ」
「……そうね」
息を切らせながら返事を返す僕の言葉を受け、刹那姉ちゃんは小さく頷く。
これはツッコミ疲れとでも言うんだろうか……旅行はこれからだというのに、こんなんじゃダメだな。
僕はスポーツドリンクを飲んで気力と体力を回復させると、真剣な表情で駅の方へ顔を向ける。
するとそんな僕の視界に、あずきを肩車して爆走するきな子姉ちゃんの姿が映った。
「よっしゃーあずきぃ! 意味もなく売店の商品買い占めようぜ!」
「おお! きな子どのは豪胆でござるなぁ! あっはっは!」
二人は物凄いスピードで駅の売店に向かって突っ込んでいく。
そんな二人の姿を見た僕は、無表情のまま刹那姉ちゃんの肩にタッチした。
「……僕はもう限界なので、ツッコミよろしくお願いします」
「はぁっ!? ―――ああもう、仕方ない……!」
刹那姉ちゃんはぐったりとした僕の姿を見ると、頭をかいてきな子姉ちゃんたちに向かって爆進していく。
その後きな子姉ちゃんがボディブローによって宙を舞い、頭から噴水に突っ込むことになるのだが……僕は疲労によって、ツッコむこともできなかった。
夏の日差しはますます強く、僕達の身体を強く照りつける。
吹っ飛ばされるきな子姉ちゃんの姿を見た猛はぽんっと僕の肩に手を置き「いやー、夏だなぁ信!」と爽やかに笑いながら言葉を発していた。
どこで夏を感じてるんだ猛はという想いを持ちながら、僕はゆっくりと上へ視線を向ける。
そこでは突き抜けるような青空が広がり、これから起きる楽しい出来事を暗示しているようだった。




