第24話:二人の関係
「ぜいっぜいっ……ま、マジで、死ぬ……!」
僕は両手に大量の請求書の束やその場で買った桜川祭用の用具を持ち、荒い息を吐きながら夕暮れの駅前広場を歩く。
女子である桜崎さんやモブ子さんに荷物を持ってもらうわけにもいかないし、買ったもの全て僕が持っているんだから当然の結果だ。
もっとも体力が削られた最大の原因は、荷物の重さというよりも―――
「この日照りと、桜崎さんの精神攻撃……だよなぁ」
夕方になって大分太陽の日差しは弱くなってきたものの、日中は地獄そのものだった。
そんな状況で両手に大荷物を持って絶えず罵声を浴びせられていれば、さすがに体力だって消耗する。
途中小休止を取れればよかったのだが、早く用事を済ませたい桜崎さんがそんなもの認めてくれるはずもなく、結局ずっと歩き通しだった。
「しかし、僕自身体力不足……だな。鍛錬が足りてない」
今日ほど、己の無力さを痛感した日を僕は知らない。
長い長い人生の中でまだほんの少ししかまだ生きていない僕だけど、今後もこれだけ絶望感に溢れた日を過ごすことはそう無いだろう。
そして肝心の桜崎さんはと言うと、ずっとモブ子さんと談笑している。
モブ子さんは心配そうに僕を見つめ、時々「私も持とうか?」と言ってくれるが、その提案はやんわりとお断りしている。だって女の子に荷物を持たせたら僕が恥ずかしいじゃないか。
「次は……あ、今日の目的全部済んだわね」
「えっ!? ほ、ほんと!?」
僕が突き出した猛からのメモを見ていた桜崎さんの一言に希望を見出し、僕は満面の笑みで返事を返す。
桜崎さんはそんな僕の言葉に反応することもなく、言葉を続けた。
「これで今日は終わりね。桃園さん、今日はありがとう」
「えっ。あ、ううん。私はいいの。それよりしぐれくんが―――」
「じゃあ私、この後用事あるから。また学校でね」
「あっ―――」
桜崎さんは一刻も早く僕から離れたいのか、足早に改札に向かって歩いていく。
僕は乾いた笑いを浮かべながら、両手に持った荷物を持ち直した。
「は、ははは……確かに今日の予定は買い物だけだもんね。終わった後でちょっと喫茶店に入って休憩とか、あるわけないか。は、ははは、は……」
僕は全身に襲ってくる疲労感と絶望感。そして何より桜崎さんと一歩も近づけなかった事実と共に、夕焼けの空を見上げる。
茜色に染められたその空は妙に物悲しく、僕の涙腺を直撃した。
「な、泣くな。泣くなよ、時雨信。それだけは、駄目だ……!」
僕は奥歯を噛み締めて眉間に皴を寄せ、両目から溢れ出る謎の液体を塞き止める。
そんな僕の口の端には、まるでスポーツドリンクのようにしょっぱい何かが流れ込んでいた。
「あ、あの、しぐれくん、だいじょぶ? ちょっとその辺りで、休憩していこうか?」
モブ子さんも疲れているのに、僕に向かって暖かな言葉を送ってくれる。
いい人だ……今日も何度かくじけそうになったタイミングで励ましてくれたし、本当に助かったよ。
「いや大丈夫、帰れるよ。今日は付き合わせちゃってごめんね。ここで解散しよう」
「あ……う、うん。私はいいの。そっか、解散……か」
「???」
モブ子さんは何故か俯いてしまい、その表情を伺い知ることはできない。
前髪に隠されたモブ子さんの表情を伺おうとした瞬間、僕の両肩に大量の荷物の重みが襲い掛かってきた。
「ふぐっ!? う、き、きつい……!」
「しぐれくん!? しぐれくん大丈夫!?」
暑さと体力低下によってボヤける視界で、心配そうに声を荒げるモブ子さんが見える。
僕はがっくりと膝を折りそうになるが、かろうじて意識を繋ぎとめて言葉を続けた。
「だ、大丈夫大丈夫。さあ、帰ろうか」
「う、うん……無理はしないでね?」
心配そうなモブ子さんをよそに、僕も桜崎さん同様改札に向かって歩いていく。
その後ホームで電車を待っている桜崎さんを見かけたが、減少した体力では話しかけることもできない。
僕は結局桜崎さんとの親睦を欠片も深めることができず、その重い事実を抱えたまま込み合った電車に揺られて自宅へと帰った。




