まだ気の動転がおさまりきっていなかったのだろう
「その手があったね!」
知らない人しかいないデパートのフロアで男の子型携帯がしゅんとしながらとぼとぼ歩いていた。その時、電話機能が動作を開始する。
「とうるるるっ、とうるるるっ」
急に泣き出したかのように男の子型携帯は(大多数の人はこういう携帯が市場に流通しているのをしらないので迷子の男の子にしか見えない)電話の呼出音のマネをしているとしか思えず近くにいた人はただ驚いた。
泣いている様子なのだが、電話の呼出音のマネをしているようにしか見えないので大半の人は通りすぎるし足を止めた人も遠巻きに様子をうかがってから去るだけである。
「とぅるる、とぅるっ」
そんな中、1人の若くて美人という表現がしっくり来る女性が男の子型携帯に声をかける。
「僕ー? どうかしたのかな? 迷子?」
「とぅるっ」
声をかけられた男の子型携帯が振り向いた。
「とるる…………………………」
涙のようなものを流してしまっている。
「…………!? もしかすると……」
そのお姉さんは男の子型携帯があの雑誌に掲載されていた珍しい携帯特集の商品ならと考えて、確か通話ボタンはこの服の第2ボタン位置と押して電話に出た。
<はいっ>
デパートの公衆電話からかけたら誰かが出てくれた。私は声からして若いと感じるその女性に居場所を尋ねる。
「あっ、それ私のケータイです! 今どこに!?」
物腰柔らかそうな声音で若い女性が応じた。
<本屋の前ですよ>
少し落ち着きを取り戻した私は今になって気付いた。最初から気付けなかったのは慌てていたからだろう。
「……あれ? 声に聞き覚え……」
近くで耳をそばだてていた勝ち気な女の子が控えめに叫んだ。
「私のお姉ちゃん!!」
女の子のお姉さんだと判明した人物が待ち合わせ場所の指定を告げた。
<うん。本屋の所でお待ちしてますからご安心を>
私は安堵したが、ふと男の子型携帯が不安そうにしていないかという考えが頭をよぎったので聞いてみる。
「よかったあ……どうもありがとうござ……あっ、今ケータイどんな様子ですか!!」
<え?>
つい私が口走ってしまった事にツインテールの女の子が叫んでしまうのも無理はない。
「こんな時に聞く事ー!?」