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自作小説倶楽部 第33冊/2026年下半期(第193-198)  作者: 自作小説倶楽部
第194集(2026年08月)/テーマ 「感謝」
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6/13

01 紅之蘭 著 『天才紅教授の魔法講義 其の三十』

梗概/黄戸島村立大学魔法科講師・紅教授と縫目助教の日常。助教・縫目ちゃん失踪事件、全6回シリーズ第5回。


    第5話 感謝(三つの仮説と真相)


 郵便局員の黄戸、文具店店主の坂本、印刷所長の椎名……容疑者三人の証言をもとに、それぞれ犯人だと仮定して、犯行時の行動を再現してみたい。

 まず、黄戸だ。

 彼の言葉を信じるならば、朝の八時から九時にかけて港に届いたコンテナの仕分けに追われ、局長らと共に汗を流していたことになる。しかし、これが私の幻視の術式をあらかじめ警戒した上で、最初から仕組まれた集団アリバイ工作の偽装だったとすればどうだろう。

 実際の奴の動きはこうではなかろうか。黄戸は朝、郵便物の定期配達を装い、いつもの制服姿で大学へと侵入する。しかしその裏で、奴は島村学科長に扮する高度な変装術、あるいは認識阻害の術式を身にまとっていた。ファザコンである縫目ちゃんが、心酔する島村学科長の姿を見かければ、何一つ疑うことなく引き寄せられるのは明白だ。奴は言葉巧みに彼女をあの人気の途絶えた資材倉庫へと誘導した。

 その島村の姿のまま甘いウィンクを媒介とした精神干渉系術式『魅了』の魔法を放ち、抵抗する間もなく彼女の意識を刈り取った。そして、何らかの隠密な運搬手段を用いて学外へ移動させ、最先端の有機質ゴーレムである彼女を奪取すべく、今もどこかへ監禁しているという線はどうだろうか?


 次に坂本文具店の坂本店主だ。彼女の言葉を信じるならば、彼女は朝の七時半に大学の裏門から生協売店への納品を済ませ、そのあとはずっと自身の文房具店で店番をしていたことになる。しかし、実際の彼女の動きはこうではなかろうか?

 晴美は確かに朝七時半に大学の裏門から搬入を行っていた。しかし、それは単なる納品ではなく、犯行のための完璧な下見と工作の時間を兼ねていた。彼女は生協売店へと向かうルートを外れ、誰もいない早朝のグラウンドを横切って、最果てにある魔法科の資材倉庫へとあらかじめ足を運んでいたのではないか。

 そこで彼女が用いたのが、文房具店という立場を最大限に利用した、印字用インクや溶剤の匂いに偽装した独自の魔術触媒だ。晴美は倉庫のシャッターの鍵や周囲の魔力伝容経路に細工を施し、特定の時間になると自動で起動する『黒い影の触手』を模した捕獲術式を罠として仕掛けた。あの倉庫に放置されていた「黄戸島郵便局」のロゴ入りボールペンも、下請けに回す前の段階で彼女の店に保管されていたものだ。あえてそれを現場に落とすことで、捜査の目を隣の郵便局長や配達員の黄戸へと向けさせる、用意周到な偽装に違いない。

 そして七時半の工作を終えた彼女は、何食わぬ顔で店へと戻り、完璧なアリバイとなる「店番」の時間を演じ始める。彼女が仕掛けた自動の捕獲術式は、何も知らない縫目ちゃんが同胞のゴーレムたちへ献花に訪れるタイミングを見計らって作動した。影の触手が彼女の脚を捕らえて闇の奥へと引きずり込み、同時に、私の精霊魔法『幻視』を狂わせるための幻術ジャミングをもその場に自動展開させたのだ。

 全面ガラス張りの学内で誰にも目撃されずに移動する手段として、彼女は搬入用の大型の段ボールや文具のコンテナを利用した可能性がある。気絶させた縫目ちゃんを、何らかの方法で、学外へと運び出す。十時過ぎにしか現れない椎名印刷所の椎名や、八時から仕分けをしていた黄戸の証言と照らし合わせても、この七時半という早朝の空白の時間を完全に支配し、自由に動くことができるはずだ。


 残るは椎名だが、彼の言葉を信じるならば、大学側の九時頃の段取りを気遣い、わざとその時間帯の訪問を避け、十時過ぎか午後にしか大学へは伺わないということになる。しかしもし禿げた作業着姿の男が、頑なに「九時前」という時間を否定すること自体が、自らの関与を隠蔽するための偽りの防壁だったとすればどうだろう。

 実際はこうではなかろうか?

 椎名は「十時過ぎの訪問」という表向きのスケジュールを周囲に印象付ける一方で、今朝は全く異なる隠密行動をとっていた。彼は印刷所の店主という立場上、大学の広報や学生課から大学案内などの大口の発注を定期的に受けている。つまり、学内の機密エリアや教職員の動線を詳細に記したパンフレットの校正刷りや、ガラス張り校舎の死角となる構造を誰よりも完璧に把握できる立場にあったのだ。

 今朝、周囲の警戒が薄い八時過ぎの段階で、自身の印刷所の配達車両を使い、大学の資材搬入口へと密かに滑り込んでいたのではなかろうか? 狙いは、最先端の有機質ゴーレムである縫目ちゃんの強奪だ。

 椎名は印刷所で用いる強力な揮発性有機溶剤や特殊な黒インクの成分を魔術触媒へと転用し、現場に漂う「紙と油の匂い」に偽装した独自の認識阻害の術式を展開した。この術式により、全面ガラス張りの学内で張り巡らされた親衛隊らの変態的監視網を完全に無力化し、自らの姿を消した状態でグラウンドの最果てにある魔法科の資材倉庫へと侵入したのだ。

 そこで椎名は、ノベルティとして自らの印刷所で下請け製造した「黄戸島郵便局」のロゴ入りボールペンをあえて現場の床に落とす。これは、捜査の目を郵便局の黄戸や文房具店の晴美へと擦り付けるための悪質な偽装だ。

 そして、倉庫へ献花に訪れた縫目ちゃんを捕獲。大型の印刷用紙のパレットや梱包資材の中に隠匿し、九時前のチャイムが鳴る前に大学を脱出。その後、何食わぬ顔で店に戻り、「いつもは十時過ぎに伺う」という嘘の証言を並べ立てることで、犯行時間帯の足取りを完全に闇に葬ろうとしたのではなかろうか?


 2/2へ続く⤵

登場人物


01 紅教授(結城紅子):年齢不明の魔法使い。年齢不詳。八百比丘尼という説がある。愛車はサイドカー仕様九九九CC、ミリッター解除のスズキ・KATANA。

02 縫目助教(縫目フラ子):二十六歳。ロリ体型。紅教授の弟子。

03 ジャルジェ:紅教授が異世界からお持ち帰りした女騎士。バン・キュッ・ボン・ズガーンな九頭身スーパーモデル体型。縦巻金髪。愛馬は白のシルバーシップ。略して〝シルシ〟

04 メガネ、カブ、コゾウ。大学二年の変態三人組み。

05 管狐:紅教授が拾って来た式神。ペット。

06 島村学科長:ロマンスグレイのイケオジ。紅教授の元カレで、ファザコンな縫目助教が片思いしている。


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