結局あんたらが一番厄介
予鈴が鳴ったので三人をチャンスとばかりに散らせた後、隣から不快な会話が聞こえてきた。
「いいな〜持無。高嶺の花に囲まれるとかどんな徳積んだんだよ」
「囲まれてるのは俺じゃねーけどな。ま、日頃の行いの良さってやつだ」
ならば私は一体どれほどの徳を積んでしまったのだろうね。
ありがた迷惑にも程があるほど神は私に嫌がらせをするのだから。
「この前なんて天乃さんに話しかけられたんだぜ」
消しゴム落ちてたのを聞かれただけだろ。
「うっわまじかよ! 羨ましいー! やっぱ天使だったか⁉︎」
「もちろん。めっちゃ可愛い笑顔浮かべて話しかけてくれてさ。しかも俺、天乃さんに手触ってもらえたんだ」
消しゴム渡した時に指触れただけだろ。
「右手⁉︎ 左手⁉︎」
「右手」
ひらひらと自慢気に見せびらかしている手を男子生徒が両手で握りしめた。
「お前一生手を洗うな」
「たり前だ」
まさか第三者がそんな言葉を言うとは思わなかった。気色悪いな。
「ねえ空瀬ちゃん」
「何ですか」
裏切り者め。
「手握らない?」
「握りません」
「え〜」
どうせ氷冬さんとの間接握手目当てだろ。
そしてそれを聞いていた隣の男子二人が私の前に手を差し出してきた。
「空瀬、握手しないか?」
「ぶっ飛ばすよお前ら」
誰がするもんか。
「まあまあ減るもんじゃねーし」
「そうだよ空瀬ちゃん。手は二つあるしね」
何意味分かんない事言っているのやら。
「俺前から空瀬と仲良くしたいと思ってたんだ。お近づきの印にまずは握手しないか?」
「私は前から鬱陶しいと思ってたんだ。さっさと消えてくれないかな」
「酷いなお前」
「セクハラしようとしてくるあんたらも相当酷いよ」
「そうだよ男子、諦めな」
援護射撃して仲間面するな。
「女子もセクハラだ」
「男子よりかはマシでしょ」
こんな調子が次の休み時間にも引き継がれる。
「鬱陶しい」
「まあまあ。一回してくれたら満足するからさ。いいだろ、減るもんじゃないし」
どうせここで折れてしたら絶対別日も要求するし、他の人も握手しようとする。
減りはしないが増殖していく。
「菌が増える」
「相変わらず酷いな。ちょっとだけ、先っちょだけでいいから」
埒が明かないから、初めて私から文字を打つ。
「どうしたの花恋ちゃん?」
「くうちんどしたの〜?」
「花恋、呼んだ?」
三人が集合した途端、さっきまでの勢いはどこへやら、ひたすら空気に徹しようと存在感を消している。
「あんたらのせいで握手求められて迷惑してる。一言言って」
私は両手を使って前の席と隣の席を指す。
特に酷かった三人は顔を逸らして目を合わせないようにしている。
まるで悪戯がバレた犬だ。こいつらは可愛げなんて微塵もないから犬以下だけど。
「えっと、あまり花恋ちゃんに迷惑は掛けないように気をつけてほしいな」
「くうちんにあまりしつこくしないでね〜」
「花恋怒らせたら面倒だよ」
顔を逸らしたまま三人は消え入りそうな声ですみませんと言ったので、この件は収束したと思いたい。
「ちなみに今あんたらが言った言葉全部ブーメランとして刺さってるの自覚してよ」
「ごめんね」
「じゃあ構わないで」
「それは嫌だな。私花恋ちゃんのこと好きだから」
「ゆーゆもくうちん好き〜」
「私は花恋と仲良くしたい」
「今の言葉は聞かなかった事にする」
また面倒な展開が待っていそうで気がかりだよ。




