ようやく待ち望んだ夏休み
「皆さん、くれぐれも怪我や病気には気をつけて楽しんで下さい。それではまた九月に会いましょう。さようなら」
さようならという言葉を口を揃えて言った後、私達は学校を後にした。
二ヶ月、私立高校の醍醐味である長い夏休み。
夏休みが長いのは嬉しい。しかし、もっと嬉しいのは彼女らと離れられるということだ。
夏休みはゴールデンウィークのように短くない。
氷冬さんのせいであっという間に台無しにされたゴールデンウィークだが、それ期間が一週間だったせい。夏休みはそうはならない。
どうせ彼女らに振り回される日は夏休みであろうときてしまうだろう。
しかしまあ、長い夏休みの一日や二日くらい我慢できる。
うるさい蝉の鳴き声も、アスファルトで照り返された陽も、今は天国への道しるべのように思える。
さらば地獄、いらっしゃい天国。
クーラーがガンガンに聞いた涼しい部屋での一時が私を待っている!
「ねえねえ花恋ちゃん、皆で八月初旬にある花火大会に行かない?」
「行かない。クソ暑い上に人でごった返した地獄に誰が好き好んで行くもんか」
「酷い言いようだね〜、くうちん」
「花火見てみたい」
「三千円くらい出せば手持ち花火でたくさん入ってるの買えるよ」
「じゃあ一緒にやる?」
「やらない」
我慢できるとは言ったものの、避けられるのなら避けたい。別に彼女らに対しての好感度が上がったわけじゃないし。
「とりあえず、花火大会の予定は送っておくから、一応空けといてね」
「じゃあ埋めとくよ」
そう伝え、私は電車から降りた。
電車を乗り換えた後、八月初旬に行われる近くの花火大会を調べ、私はそこを埋められるように予定を計画する。
「お母さん、旅行行きたいんだけど」
「え⁉︎ 旅行⁉︎ 花恋が⁉︎」
お母さんはおそらく今日一番の声を出して驚いていた。
そりゃ私だって引きこもれるもんなら引きこもりたいけど、天乃さん達との花火大会が天秤にかけられているのなら話は別だ。
「どういう風の吹き回し? 熱でもあるんじゃない?」
「もう外も出られるようになったし、せっかくの夏休みだから旅行したいと思っただけ」
「そうね〜。今から休み調整できるかしら?」
「そこは頑張って」
「ただま〜」
お姉はリビングに入ってそうそうエアコンの前を陣取った。
「ご飯は〜?」
「グラタン。あとパンとサラダ」
「結愛、花恋が八月初旬に旅行に行きたいんだって」
「あー無理無理〜。私花火大会行く約束してるから。……花恋、もしかして天乃ちゃん達から花火大会誘われた?」
「別に」
「そうなの花恋?」
「偶然だって」
訝しげな目を向けられたものの、証拠がない為見逃すほかないのか、これ以上の追求はなかった。
「どちらにせよ旅行は中止ね。結愛がいけないのだから」
「お姉はおいて月餅の世話させればいいじゃん」
「自分の世話すらできない子が月ちゃんの世話できるはずないでしょ」
「お母さん酷い」
「じゃあまずはあの汚い部屋を片付けなさい」
「まあその内気が向いたらね」
絶対しないな。私が引きこもっていた時以上に汚い部屋で過ごせるとか、同じ人間とは思えない。
他人だったら絶対に近づきたくないよ。




