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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第二章 霧の街のミステリー
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最強戦士のひと暴れ・成長の実感

「うっそぉ......」


 巨体を持つ化け物が宙に浮き、しかも次々と攻撃を食らっている。


「よっと!」


「うわっ!?」


 再び風が吹き荒れ、同時にデリバーがアンナたちの前に姿を現した。


 そして化け物も地面に落ち、大量の泥と砂埃があたりへ飛び散った。


「まだ生きてるか。しぶといが......ふぅ」


 両手をパッパッと払って、こちらに向き直り親指を上へと突き上げニヤリと笑みを浮かべる。

 その顔から「やってやったぜ」と言わんばかりの意思を感じた。


「......一応聞くけど、何やったの?」


「何やったかって? 身体強化の魔術をフルでぶん回して、見ての通り殴っただけだ」


「な、なんだって?」


「まあ、それ相応の疲労はあるがな。だが、まだまだ許容範囲内ってとこだ」


「えぇ......」


 恐らく例の戦術「ブラックバード」を行ったのだろう。


 以前見た時よりも明らかにスピードと威力が跳ね上がっており、あの時は本気じゃなかったのだと一眼でわかる。


 それに今の戦術を使ったデリバー自身、全く息が上がっていない。

 はっきりいって、戦力だけなら化け物レベルだ。


 後ろで様子を見ていたマイルスも、こちらにゆっくりと歩み寄ってくるが、信じられないと言った様子でデリバーを凝視している。


「ありえない、身体強化の魔術だって!? あんな基礎でここまでできるわけねぇだろ!」


「それはお前の思い込みだ。あれだけを極めれば、格闘なんて化けるもんさ。周りの奴らは何一つ信じていなかったがな」


 しかし信じられない気持ちはわかる。

 ”今の”をこの世界の人間の実力者と数えるなら、間違いなく化け物揃いだ。


(......恐ろしい世界だなぁ)


 魔術と魔法。魔力の存在があるだけで、世界はこうも違ってくるのか。それをしみじみと実感しつつ、倒れた化け物の方へと目をやる。


 すると殴られていた場所が大きく凹んではいるものの、未だ動く気配をビンビンと感じている。


「来るぞ。それと教えておく。あいつに触れても大丈夫だが、ヌメヌメになるのが嫌なら距離を取って戦っておけ」


「何それ......」


 しかし触ってもいいというのは好都合だ。


 アンナはマイルスがいる以上、いつもの左腕を使った殺し方はできない。


 それに仮に、もしこの戦闘が計画されたモノだとしたら、ここで全力を出して敵の親玉に手を打ち明けるのはまずいだろう。


(あの化け物を操っている親玉が、この戦いを見ているかは知らないけどね......)


 自信はないが自衛に越したことはない。

 ならばどうするか。


「ふっ!」


「おお、やるか。いいぞ、がんばれ!」


 やるべきは身体強化の魔術。余裕ができた今なら、万一の時はデリバーがなんとかしてくれるはず。


 甘えかもしれないが、隣にいる先生ことデリバーも「がんばれ」と声援を送ってくれた。


「しっかり見ててよね!」と言って、まずは両足に魔力をためて脚力を強化する。


 そして右足を後ろに、前傾姿勢を取って「行くよ、マイルス!」と合図を送り、二人で動きが遅くなった白い化け物へと突っ込んでいった。



 マイルスは銃の魔術を使い、小規模ながら連続してダメージを与え続けている。


 実際、銃弾を打ち込まれた箇所にはしっかりと穴が空いており、よくわからない透明の液体がチョロチョロと流れ出していた。


「くそ、奥まで届かねぇ!」


 頭を片手で強くかきむしりながら、苛立ちを見せるマイルス。彼の中では、今の威力は納得がいかないものらしい。


 確かにロウに比べたら、一撃の破壊力に差はあるだろう。彼もまだ成長中というわけだ。


「ようし!」


 張り合いがあると成長も促せる、というものだ。


 競争心を我が心に宿す。負けてはいられないと、アンナも張り切って前線へと出て、両手の拳で思いっきり殴りつける。


 右手で殴っても、アンナ程度の身体強化の魔術では致命傷とはならない。それでも確実にダメージは通り、右腕で殴ったことで化け物が後退りしていくほどだ。


 左腕を身体強化の魔術で強化し、殴った暁にはとんでもない威力だった。


 自分でも驚くほどの拳圧によって、化け物の体がさらにぶっ飛んでいく。


 その様子を攻撃の傍ら近くによってきた時に、偶然目撃してしまったマイルス。言葉が出てこないのか、何度か口をパクパクと開閉させたあと、呆れた様子で言ってきた。


「......お前。どんな馬鹿力してんだ? 拳だけであの巨体が二回転ぐらいしたぞ」


「あはは......(こりゃ脳筋もいいところだなぁ)」


 しかしこうして、二人はお互いに持っている自慢の武器を使い、弱っている謎の化け物相手に優勢となっていた。


 デリバーが痛めつけてくれたおかげで、弱った化け物の身に銃撃を撃ち込み、身体強化の魔術で恐るべき威力になった拳によって殴られ続けていく。


「弱ってはいるが......」


「もう一回行ってくる!」


 だが、化け物は未だに倒れない。痛みを感じていないのか、悲鳴もあげず殴られ続けているばかりだ。


 動きが鈍くなっているので弱っていると思えるが、それでも立ち向かってくる。


 ピクピクと震えながら体を前へと進め、アンナたちの方へゆったりと向かってくる化け物。

 その巨体に目掛けて突っ走り、身体強化の魔術を施しつつ接近する。


 化け物も黙って殴られるわけではない。今までは巨大な腕や足をジタバタさせていたが、今度は虫の足のようにうねうねと動く無数の手足を一斉にアンナへと伸ばしてきた。


「伸びるのかよっ!!」


 不意打ちだったが、度重なる戦闘経験によって培った反射神経と、身体強化の魔術によって上昇している運動能力によって攻撃を掻い潜る。


 なんとか躱し切って、横腹の布を持っていかれたこと以外はなんの怪我も負わずに。

 そのまま跳躍し、化け物の頭部あたりに目掛けて飛び降りつつ拳を入れ込んだ。


「よしっ!」


 殴り飛ばしたと同時に退却し、距離をとって息を整える。


 そして、先ほど化け物の体を殴った左手をじっと見つめる。


 度重なる攻撃によって、アンナも成長を重ねていく。自分の腕に魔力が流れ、足に流れ、それが殴り拳や地面を蹴る強力な脚へと「強化」されていく感覚。


(これが......身体強化の魔術か)


 魔術の成果を、体で強く感じ取る。


 やっとものに出来てきた。適切な魔力を流し続けることで、体のどこかが痛むことも無くなった。


「アンナ! こっちにこい!」


 同じく攻撃を続け、退却していたマイルスがアンナを呼ぶので、近づいて「どうした?」と尋ねる。


「いくら攻撃しても、弱りはするがトドメがさせねえ。どうするよ」


「どうするか......」


 悩む二人に、今まで傍観していたデリバーがやってきて、二人の肩をポンと優しく叩いてきた。

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