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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第二章 霧の街のミステリー
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落とされ子

「あれは......。なんだ?」


 銃を右手に持ちつつ、片膝を地面についたまま大穴を観察するマイルスが、怪訝な表情を浮かべて困惑していた。


「さあ。ろくでもないのは確かかもね」


 対するアンナは、数多の奇妙な見た目をしたヤツを相手にした影響か。最近は何を見てもあまり腰を抜かすことはなくなった。



 黒い渦。どれほどの大きさか、遠目では判断しづらいが、その穴から不気味なものが排出されていた。


 大穴から出てくるヌメヌメした真っ白の、しかも二メートルはある人間の脚のような物。


 あの形状からして、人型の化け物と言ったところだろう。



「フン。同類でも、あんなのにはなりたくないね」


「同類?」


 どんどんと真っ白の化け物が排出されていき、全体像が明らかになってくる。


 身の丈は十数メートル。両手両足が異常に長く、顔は目と鼻の造形はあるものの、両目がくり抜かれたようにぽっかりと空いている。口は見当たらない。


 そして体つきはお腹がぽっこり出ているだけで、それ以外は痩せ細っているため、アンバランスな見た目となっている。


 出てくる様といい、真っ白の肌といい、謎のヌメヌメといい明らかにグロテスクな見た目に、同じ化け物の身として自身と比較して思ったことを言うアンナ。


 それを聞いて意味がわからないと困惑する様子のマイルス。


 変な詮索をさせないためにも、さらりとその話題を受け流すことにする。


「ああ、今の独り言は気にしないでよ。......おお、やっと生まれたな」


「概ね予測できていたが、まさかあんな化け物飼ってるとはな。何かわからん以上、あまり迂闊に触れるなよ」


 ついに化け物が大穴から生み落とされ、化け物が地上に這いつくばると同時に穴も消え去った。


「空間魔術の反応がなくなったか。敵の目的はわからんが、俺たちを殺すか、もしくは戦力を削ぎたいように思えるな」


 確かにデリバーの言うように、こんな化け物を使役してくるとなると、殺すか削ぐかと単純な目的くらいなら想像できるが。


(でも、急にやり方が大胆になったな......)


「どっちにしろ同じだろ。さっさと片付ける!」


 殺すなら一人ずつ、ロウの時のように不意打ちを狙って殺せばいいはず。


 なのになぜ、今更になってアンナたち敵に対して時間を与え、対策を練るように行動させているのか。どうしてデリバーに見つけられるような、今までとは違う方向性の攻撃の仕方をしてきたのか。


 色々な違和感が拭えず、頭の内でごちゃ混ぜになって混乱していくが、マイルスの言うように今はさっさと片付けるのが先だ。


 立ち上がって銃を構えるマイルスの隣に立ち「さて、どう攻める?」と横に並ぶ二人に尋ねる。


「俺が先陣を切る。俺なら奴に触れず攻撃を......」


「それならオレにもできる! ついてこい!」


 触れずに何発か当てて、敵の出方や奇妙なトリックがないか確かめる。

 そのつもりで行くようだったが、冒頭を聞くと待ちきれず先にマイルスが飛び出していった。


 確かに彼なら銃撃で、触れずに殴り続けることが可能だ。


「おい待て、急ぐと危ないぞ!」と先を走るマイルスに手を伸ばすも、すぐさま諦めるデリバー。

 口早に「お前はあいつの補助だ。危ないときに助けてやれ」と指示し、デリバーも戦闘に参加していった。


「......二人ともやる気だなぁ」


 やる気がみなぎっている二人の後に続くため、アンナは指示に従って行動することにした。




 こうして大した作戦もなしに、まずは様子見を徹底することにしたのだが。


「いくら撃ち込んでも反応なしか......」


 銃を撃っては退散。それの繰り返しをしていたが、白い化け物はゆっくりとこちらに歩き続けるだけで、銃弾を浴びても灰色の液体をブチ撒くだけだ。


 飛び散った液体はもちろん、体から滑り落ちる透明のジェルのようなヌメヌメすら、あたりに生えている草木に触れているが、特になんともないらしい。


「ただ単に気持ち悪いだけか?」


「油断するなアンナ。お前らには分からんかもしれないが、俺の目にははっきり見えている」


 化け物に投擲武器を使って何度か攻撃を試みていたデリバーが、突如としてアンナの元に戻ってくる。


 いまだに銃撃を続けるマイルスをちゃんと見守りながら、隣にやってきたデリバーに「どういうこと?」と意味を聞きだした。


「身体中に激しく魔力が巡っている。身体強化の魔術で目を強化すると、魔力の流れすら見えるんでな。あっ、真似するなよ。失敗すると目が吹っ飛ぶぞ」


「りょ、了解......」


 しかしデリバーのいったことが本当なら、もうそろそろ何かしらの行動をするはず。


 応戦し続けて注意を引いているマイルスに向かって「戻ってこ〜い!」と叫び、彼を呼び戻す。


「どうした? なんだ?」


「今に見てろ」


 三人で十分に距離をとった場所から、白い化け物を観察する。

 すると間もなく、化け物が小刻みに震え出し、うつ伏せになって地に伏した。


 死んだのかと思いきや、なんと突如身体中から無数の小さな手足を生やし始める。


「き、気持ち悪いっ!!」と悲鳴をあげ全身をさする。流石に予想外過ぎた異形化を目の当たりにして、全身に鳥肌が浮き上がるアンナ。


 前言撤回。やはり気持ち悪いものはいくら見ても克服できない。今回はオーソドックスな人型の化け物かと油断していたが、あれはもはやなんといっていいのか分からない存在だ。


「おお見ろ、頭まで手足まみれだぞ」


「よく笑っていられるねぇ......」


 何が面白いのか分からないが、グロテスクなモノを見慣れているのか、デリバーは小さく笑っている。


 マイルスは口を大きく開けて、流石に驚きを隠せない様子だ。


 各々が独自の反応を示す中、突然化け物が豪速の足踏みで、地に伏したまま駆け寄ってきた。


「くっ......。オレの銃撃も無理だっ! 引こう!!」


「ええっ!? で、デリバー!」


 頼みの綱だったマイルスがいち早く撤退し始める。力量を判断して撤退するのは、戦況を冷静に見る能力の一部として大変素晴らしいものだ。


 しかし今回に限って言えば、マイルスが逃げたらどうやって攻撃すればいいのか分からない。


 身体強化の魔術を使おうにも、まだ扱いきれていないにも関わらず、こうも切羽詰まった状況で一か八かの魔術を使うのは危険だ。


 なので、残された道は一つ。とっても強い相棒を信じて、全てを託すのみ。


「頼むっ!!」


「ああ、任せとけ!」


 馬が駆け寄ってくるのに引けを取らない速度で、アンナたちの方へと向かってくる化け物。

 そいつに対して、真正面から立ち会うデリバー。


「無茶だ! 死ぬぞ、おっさん!」と後ろの様子が気になったのか、一番最初に逃げ出していたマイルスが足を止めて振り返り叫んだ。


 おっさん呼ばわりされたのが気に入らなかったのか、デリバーは「おっさんじゃねえ、お兄さんだ」と大声で叫んでどうでも良い訂正をしつつ、大きく息を吸い込んだ。


 何をしてくれるのか。必ず打開してくれるだろう。そういった期待と希望を胸に、相棒を信じてアンナはデリバーの背中をしっかりと見つめる。


 豪速で駆け寄ってくる化け物とデリバーの距離。すでに五メートルほど。


 その一瞬の間に、何をしたのか分からないが、デリバーの姿が突然消えた。


「うあっ!」


 消えたと同時にとんでもない風が吹き荒れ、風に乗って大きな音が鳴り響く。

 両手で顔をガードしつつ、前方を確認する。


「......えっ」


 するとあまりの光景に、言葉を失ってしまった。


 なんと巨人の如く大きな巨体を持つあの化け物が、軽々しくふわりと空中に浮いていたのだった。


「......う、浮いてるぞ!?」


 ありのまま、マイルスは今起こったことを口にした。顔を見ずとも、その声色からかなり動揺しているのは目に見えている。


 そしてそれはアンナも同じだった。

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