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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第一章 旅の幕開け
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初めて訪れる別世界の街

「クソっ、こんな惨めな気持ちで朝を迎えるなんて......」


「ほい。眠気覚ましに水汲んできたぞ」


 デリバーを右手で軽く叩き起こして、汲んできた水の入ったボトルをそっと置いておく。


「いつもは起きてられるのに......。あっ、片付けは......」


「ウチがやっといたよ。アンタさんが起きる前にね」


「はえぇ」と頭が上がらない様子のデリバー。正直、起きていても暇なので、後でやるとわかっていたことは先に済ませておいた。


 具体的には、焚き火の後片付けや荷物の整理などを済ませ、いつでも出発できるようにすることである。


「それにしても一人でよく......。おお、水浴びると目ぇ覚めるわ」


 デリバーがお水で顔を洗ったり、うがいをしたりしている間に、アンナはついでにとってきた食材になりそうなモノを整理する。


 そしてデリバーの前まで持っていき「どれが食べられるやつ?」と聞いてみる。


「これとこれ。あとそれも。今言ったやつ以外はダメだな」と選別され、残った食材をカバンに詰め込む。


「そんなキノコなり草なり集めてどうすんだ? 食えるといっても、街に着いたら必要なくなるぞ。それに必要なくなるからそのまま放置して勝手に腐る」


「腐ったらその時に捨てる。もしもに備えて、わずかでもこういったやつは欲しいかなってさ。あっ。これ干しても食べられる?」


 無言で頷くデリバー。こうやっていちいち確認して知識を増やすのも、勉強になるし緊急時に助けとなる。

 先輩から有用な知識は奪い取れるだけ奪い取る。当然だ。


「うっし、こっちは準備できた。行くか」


 こんなやりとりをしている間にデリバーの準備が終わった。

 最後の確認を済ませ、荷物を担ぎ、そして目的の街へと向かうために歩き出した。



 出会った森を超えて、森を抜けて草原地帯へ。そのまま進んで、少し整備された砂利道を歩いていく。


 砂利道が石畳へと変わり、ちゃんと舗装された一本道となる。少し前には商人と思われる人がおり、大きな荷物を背負っている。


「すごい......ワクワクする」


「んん、そうだろ? 今から行く街には昔行ったことあんだが、まだまだ探索が不十分でな。ま、裏を返せばそれだけ楽しむことができるってわけだ」


 デリバーの言っていることはよくわかる。京都に行ってもまだいきたいところがあったり、東京に行っても遊び足りなかったり、とにかく足りない。そして不十分に終わり、また来たいと願う。


 ここは日本ではないが、それでも同じように楽しむことができるのはなんとなくわかる。


「そういえば言っとくが、あまり目立つなよ? お前、注目されるのに慣れてないだろ?」


「そうだけど......」


「特にその腕。お前の話じゃ触れただけで殺すんだろ? なら、まずはそいつをどうにかしに行こうと思う」


 そのことを聞いて驚いた。まさかこの腕に対策があったとは。

 そういえば初めて会った時も、デリバーは余裕で左腕を掴んで見せた。もしかすると、その時から対抗策は思いついていたのかもしれない。


「俺の知り合いがいるとこだ。まずはそこに向かうぞ」


「わかった」


 もはやどうにもならない腕に対する対抗策に期待できるとは。

 例えどんなに小さなことでも、対抗策があると知れただけでアンナにとって嬉しいことだった。




 一本道をしばらく歩き進むと、やっと街の入り口へと辿り着いた。


 よくあるファンタジー世界の街のように、入り口には大きな鉄の門がそびえたっており、街を囲むように石の壁が立っている。その門の入り口からアンナたちの方まで、ラーメン屋に並ぶくらいの人の列ができている。


 どこまで壁が続いているのだろうか。疑問に思い目で追っていると、デリバーが軽く説明してくれた。


「気づいたか? この街もそうだが、基本大きなところにはこうやって壁があって、外敵から街の人間を守ってるんだ。大体ここまでくると、一つの独立した国だと思えば良い」


「じゃあ、今から入るのは街より国みたいなところ?」


「そうだ」と頷き、正面を指差すデリバー。指さす先を見ると、いくつもの関所が並び立っている。


「ちなみに病気気味だと、もう少し隣の検疫所に連れていかれる」


 検疫所と聞いて、思わず自分の身なりを確認した。果たして連れて行かれないだろうかと不安になる。


(大穴の空いた服、それを隠すためにデリバーから借りた羽織り。これだけで大丈夫か......?)


 今の服装は急遽用意したものに過ぎない。胸の中央とお腹が槍で貫かれたせいで、怪我は治っても服はそのままだ。

 デリバーが貸してくれた上着を引き締めて、なんとか穴の部分は隠してはいるが。


 その心中を見抜いていたデリバーは、安心させるようにアンナの背中を「パンっ」と叩いた。


「大丈夫だ、心配すんな! 俺やお前みたいに冒険してりゃ、ある程度汚れた奴は大丈夫のはずだ」


 最後の「はずだ」に少し不安になるが、ついに自分たちの番が回ってきた。


「お勤めご苦労様です」


 門番の一人が丁寧に接してくる。

 こちらも軽く会釈し、デリバーが労いの言葉をすかさず挟んだ。


「そちらこそ。いつも門番お疲れですよ」


「お、お疲れ......」


 アンナも真似して言葉をかける。すると門番は「む?」と眉を寄せてアンナを見つめる。


 しばらくお互いに見つめあって、もしかすると検疫所に連れて行かれるのかと不安になり冷や汗が流れるが、何事もなかったように門番が笑った。


「いやあ、ここまでボロボロになるなんて大変だったね嬢ちゃん! まだ十七くらいだろう? この街には美味しい食べ物がいっぱいあるから、そこの兄さんに奢ってもらいなよ!」


「ど、ども......(ウチの実年齢、二十代後半なんだけどなぁ......)」


 こうして門をくぐり街の中へとついに入ることができた。




 街に入ってみると、門に隠れて見えなかった街の全貌が明らかになる。


「大きい......」


「だから国みたいなもんだって言ったろ? ここからでも見える一番大きい建物があるだろ。そこに領主様が住んでる」


 街の右奥側、ここからかなり離れた場所に見える、木に囲われた館。無論大きいのは遠目でもわかるが、木々に負けじと建物の高さもそれなりのものだ。


 続いてデリバーは街を歩く衛兵を指差し、「ちなみに」と説明を始める。


「街ごとに軍力も存在する。ここは想像通り、一国と対等な関係まであと一歩ってところだな」


 確かに国と言われても納得できる。イメージ的には戦国時代の日本の城下町と同じで、それがヨーロピアンになった感じだろうか。


 数十年後には本当に独立しそうな感じだ。


「そんじゃこっちだ。ついて来い」


 デリバーの後を追って、初めて訪れる別世界の街を歩く。目に見えるもの全てが異様なものだ。


 まず住民だが、皆各々の装束を身につけており、魔法使いのような見た目の人たちはほうきに乗って、当たり前のように飛んでいる。と思えば、見た事もない機械に乗って飛んでいる奴もいる。


「ありゃ機械いじりに長けた奴だな。遠い雪の国出身の人間が持ってる秘術だって聞いたことあるが......。いいもん見れたな」


「へぇ」


 そして街を歩いていると、鎧を着た人とその連れだったり、砂や風よけなのか長いマントのような羽織を着ていたり、おそらくアンナたちと同じような旅人と思われる人も目にする。


 他にも素朴な布を着ている格好をした子供づれの母親がいたり、ファッションに気遣ったりしている人もいる。まるで映画で見た中世ヨーロッパの世界と現代が混ざったかのような、独特なセンスを匂わせる文化を感じる。


 住居の方はどうなっているのか。見てみると大体が石造の家で、主にイギリスなど北欧に行けば慣れ親しめるものに近い感じだったが、こちらは全て()()が違う。


 家の一つ一つが大きい。そして当たり前のように階層が分かれており、家の上に家が立っているようにも見えてしまう。


 また家と家を繋ぐ連絡通路が数多くあり、アンナたちが歩いているところは街の一層で、上を向けば二層、三層となっているのがわかる。


「この街、なんか高い」


「そうだな。確か上に行けば行くほど新しい建物で、大体三層目まであったような......」


 まるで超でかい大学構内のようなつくりで、ちゃんと設計されているのもわかる。その証拠に、大きな広場に覆い被さるような建築はないし、無闇やたらに高く積んでいるわけではなく、一層で止まっているところもある。


 なんだか言葉にするのは難しいような、とにかく街が縦に積み重なって階層になっており、移動が大変そうだということははっきり言える。


「俺たちの目的地は一層にある。あいつ高所恐怖症だからな、高いとこには行かねえんだよ」


 確かに高所恐怖症の人にとって、この街の上層階に住むのは酷だろう。

 それにしてもなぜこの街は積み上がり方式で、家が上へと伸びていったのだろうか。


(もしかして、土地がない?)


 日本の国土が狭く、主要都市に高層ビルが立ち並ぶのと同じように、この街も建設用の土地が足りないのだろうか。


 今考えても仕方ないし、そういった考察の答え合わせは暇な時に街を歩いて確かめようと思う。



 そうこう適当に考えながら歩いていると、やっと目的の場所に辿り着いた。


 着いた場所は、一見ごく普通の石造の家が立ち並び、路地裏に並び立っている。先程見てきた豪勢なお家が並び立つ市街地とは違い、こちらは若干スラム感漂う家ばかりだ。


 どの街にも貧困層は存在し、ここらも低所得者の住居が並んでいるということだろうか。


 デリバーが並び立つ家のうち一つを指差し、看板を見て「んん!」と頷き言った。


「ここが『変わり者のオッドアイ』なんて呼ばれてる奴の家だ」


 変わり者のオッドアイ。一体どんな人なのだろうか。

 恐る恐る玄関のドアを二人で押し開けた。

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