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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第二章 霧の街のミステリー
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手傷を負った魔物退治

 片腕を失っているにも関わらず、血を噴き出しながら勢いよく走ってくる魔物。

 全長は三メートルほどだろうか。接近されて、意外と大きいことに戸惑いつつ、マイルスと一緒に突進をかわす。


「作戦は!?」


「オレの銃でやる! お前はサポート!」


「サポートって......」


 一体、何をやればいいのか。

 それを聞こうとする前に、マイルスが勝手に動き、自身の銃を取り出して構えた。


 するとロウの時と同じように、銃が光に包まれ、少しだけゴツくなる。


「マグナム!」


 マイルスが叫ぶと同時に発砲されたようで、光の弾が魔物の腹を撃ち抜いた。

 しかし血を吹き出したはいいものの、まだ動きを止めることはないゴリラのような魔物。


「阿呆! 頭を撃ち抜かんかい!」


「しくじった!」


 戦闘を観察していたロウに叱られ、失敗を自覚しつつ一旦離れようとするマイルス。

 しかし吹き出した血が邪魔となり、マイルスは地面で足を滑らせて逃げ遅れた。


 カバーに入るなら今だ。


 地面を力強く蹴り飛ばし、マイルスと魔物の間に割って入る。


 そして止まることなくマイルスを片腕で抱き抱え、蹴った時の勢いを利用して、地面に転がりながら一気に退却した。


 退却する寸前、魔物の引っ掻き攻撃を掠め、胸鎧に傷が入ったもののなんとか無事で済んだ。


「ほっ......。今回は穴あけずに済んだな」


 マイルスをおろして一息つく。うまく助けられるか心配だったが、お互い無傷で済んだ。


 流石に彼らに再生能力や左腕のことを見せると、色々と不審に思われるかも知れないので、怪我しなくて本当によかった。


「すまねえアンナ。でも、次で仕留める。いけるか?」


 再びこちらに走ってくる魔物を見据えて、マイルスが立ち上がり銃を構えてもう一度魔術を行使する。

 アンナは無言で頷き、いざという時のために神経を尖らして待機。


 魔物とマイルスたちの距離が残り数メートル。お互いの最初の一撃で全てが決まる距離まで達したところで。


「っ!」


 彼の光の弾が頭を打ち抜き、見事に魔物の頭を吹き飛ばすことに成功した。




「魔物退治完了!」


 マイルスが銃を下ろし、ホルダーの中にしまう。

 そして尻餅をついて、息を整える。


 あまり動いてもいないはずなのに何故か息が乱れている。どうしてなのか。


 不思議に思って見ていると、ロウがこちらへやってきて「お疲れじゃ」と言ってきた。


「お疲れさまです」


「お、乙だぜジジイ......」


 酷く消耗しているマイルスのことを片手で抱き上げ、そのまま丸太を運ぶように肩に乗っけるロウ。

 意外とパワフルなおじいさんで、色々と驚かされる。


 マイルスは人前で持ち上げられるのが恥ずかしいのか、「ジジイ、大袈裟だって!」と抵抗する。


「魔力の制御がなっとらん。自業自得じゃ。もっと己を磨いて、ワシに運ばれないようになるんだな」


「制御......」


 魔力の制御が未熟なせいで、たった数発の魔術の行使で息があがるほどに疲弊したのだろうか。

 どうやら話で聞く以上に魔術は難しく、そして魔力の操作は危険なようだ。


 それを当たり前のようにコントロールしていたロウや、「ブラックバード」なる戦術を扱うデリバーの凄さを実感する。


(ウチにもできるかなぁ)


 強い人の戦いに少なからず憧れるアンナ。旅人である以上、危険に対処するために魔力のコントロールは覚えてみたいものだ。


 そもそも魔力とかそういった未知のエネルギーに対し、何一つ理解がないアンナ。

 いつかデリバーにでも教わってみようと、この時思った。


「帰るぞい」


「はい」


 文句を垂れ流し続けるマイルスを抱えたまま、街の方へと歩き出すロウの後ろをついていった。




 ギルドに帰って報告を完了すると同時に、昼はカフェで夜は酒場になるギルドの食事処で夜飯を食べることに。


 ロウとマイルス。アンナで四人用のテーブル席に座る。

 今日はロウの奢りということらしい。


 しかし少食なので、いつも通りの量を頼もうとすると、ロウが必要以上に驚いて。


「もっと食わんかい! 死んでしまうぞ」


 と勝手に色々と注文してしまった。


 好意を無下にできず、運ばれてきた料理をガツガツと隣で貪るマイルスと共に、「こんなの無理......」と思いつつ涙ながらに夕飯をいただくことにした。


「しかし最近はめっぽう人が来んくなったのぉ」


「以前はもっといたんですか?」


 あたりを見て寂しげに呟いたロウ。確かに、今飯を食べているのはアンナたち以外に、二組程度しかいない。席は腐るほど残っているのというのに。


「ああ、いたさ。アンナも知ってるだろ、この街が今どうなってるか」


 隣で話を聞いていたマイルスが、食べるのを中断して話に割って入る。


 今、この街は謎の現象によって物が腐り、果てに人間が不可思議な死を遂げた。

 原因は不明。ある程度の推測はあるようだが、まだ推測の域を出ていない。


 そのような不安定な状況で、明日もしかしたら自分が死ぬ可能性だってあるのだ。その恐ろしさと言ったらたまったもんじゃない。


 無言で頷き返し、この状況が気に食わないらしく腹を立てながら文句を言うマイルス。


「この街の住民、そのほとんどが外に出るのを怖がってんだ。力のない住民ならまだしも、俺たち何でも屋の冒険者が力にならなくてどうするってんだよ」


「そうは言ってもなぁ。マイルス。冒険者だって人間じゃ。何が起こっているのか詳しく解明できていない今、恐怖に身を突っ込む奴の方が少ないもんよのぉ」


 おつまみをパクパクとつまみながら、どこか遠い目で語るロウ。

 彼の言う通り、死ぬ危険という恐怖に身を突っ込む方がおかしいものだ。


 一度死んだ身だからわかる。生きていたいと思い毎日を生きている以上、下手するとそれが全てなくなる、底なしのような恐怖。それに脅かされている以上、いくら冒険者とはいえ恐れを抱く。


「けどよ。俺やジジイみたいな奴がもうちょっといたって......」


「ワシらの心が強いだけじゃ」


「そんなババっというか、掴めない話じゃなくてさぁ」


 二人が話し合いに勤しむ中、アンナは「ちょっと外で休憩してきます」と言って、お腹の中に必要以上に押し込んだモノを少しでも消化するため外に出た。

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