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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第二章 霧の街のミステリー
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「銃の魔術」の使い手

「獣に荒らされた跡が素人目でも分かるのぉ」


 ロウが先行しつつ、その後ろをアンナとマイルスで後を追う。

 手だれかつ熟練した経験を持つロウが先に行くことで、後ろの二人は安心して進める。


 最初はアンナが先行しようと思っていたのだが、ロウが「手本を見せてやる」と意地を張るので任せてみたのだが。


(確かに、ウチと違って洗練された目と耳で情報を探り、何気なく歩くようでいてちゃんと見てる。経験の差がここまで......)


 例えにするなら、車のドライバーがわかりやすい。


 熟練のドライバーは無意識に周りを見渡し、慣れたスピードを維持しつつ何気ない顔で車を運転する。

 そして危険が迫れば本能的というべきか、車と体が一体化しているのかと錯覚するように、即座にブレーキをかけられる。もちろん個人差はあるが。


 対する初心者は免許取り立てだと注意力が散漫している。免許を取ってから二年目に事故が多いと言われる理由も、慣れたと思い込むことで起こるものが多いらしい。


 旅人や冒険者。もしくは戦闘や狩りを仕事にする人間も同じことだ。人間は環境に慣れる生き物。同じ環境下に何年も浸されることで、人間ですら獣のような感覚を身につけることができる。


 アンナは生まれつき持っているような感覚も、彼ら人間は一から鍛えている。例え天才的な才能を持っていようが、磨いていなければ熟練者には勝てない。


「止まれい。この先におるぞ」


「さっすがじじいだな!」


 森を慎重に物陰に隠れながら、少しづつ進んでいると、ロウに制止されマイルスとアンナは立ち止まる。


(凄い......。ウチがなんとなくでしか感知できない気配を、正確に当てて進んでいる......)


 以前吸血木と対峙した時もそうだったが、アンナは全体的な気配を探ることにしかまだ慣れていない。少しの異変には気づけるが、対象を意図的に感知するのはかなり難しい。


 それを勘と熟練の経験から導くのだから、やはり感心する。


「おい、あれが噂の魔物か?」


「大きいね......」


 まるで大きな人型の魔物が、今隠れている草陰から視認することができる。距離は数十メートル先で、こちらが大きな音を立てれば近づかれる距離だ。


(ビックフットみたい......。見たことないけど)


 ビックフット。もしくは大型ゴリラと言うべきだろうか。詳細は確認できないが、シルエットからそう判断できる。


 さてどうするか。三人で目を合わせてしばらく考え、ロウが何か思いついたようで「これはどうじゃ?」と聞いてくる。


「ワシの魔術で一匹ずつ仕留める。マイルス。分かるな」


「ああ、銃の魔術だな。頼むぜジジイ」


 二人で話を進める。何がなんだか分からずにいると「こっちに来い」とマイルスに連れていかれるアンナ。

 何をするのか聞こうと思い口を開くと「黙って見てるんだ」と言う。


 移動した先でロウと獲物を交互に見る。一体何が始まるのかが気になるからだ。


「ロウさんは一体何を?」


 ロウについてならマイルスの方がよく知っているはず。なので彼に聞いてみる。

 するとまるで自分のことのように、自慢げに語り始めてくれた。


「習得することが難しいって言われてる、魔法よりも複雑な未知の力。魔術を会得したすげえ旅人なんだぜ。ジジイは」


「魔術......。なんのことかさっぱりだ......」


 世間一般に広がる魔術は色々なイメージがあることだろう。

 例えば創作の中に出てくる魔術は、何かを触媒にして神秘を行使するものが多い。


「なんだ。知らないのか? もしかして田舎娘なのか。お前」


「そんなところ」


「仕方ねえな」と肩をすくめて、わかりやすい言葉で説明してくれるマイルス。

 話の流れを聞いてまとめると、意外と簡単な話だった。



 まず話は「魔法」と「魔術」の違いから。


 魔法は誰でも簡単に使える、触媒なしで使う神秘の再現と定義されるらしい。詠唱を唱えて使うという。

 その利便性の代わりに威力は限度があるらしい。戦闘にて使用する際、陽動か不意打ち程度にしかならないという。


 その代わりに無理矢理にでも魔力を込めると、それなりに威力も強くなるらしい。燃費が悪いので普通はそんな横暴な使い方はしないそうだが。


 そして対する魔術とは、家系や血統。伝承。さまざまな分類に分けられ、多種多様なものが多いという。

 主に触媒となる何かを使い、詠唱とかは必要ない。そして威力や効力は魔法より大きい。


 その代わりに習得は困難を極めるらしく、主に使う魔術を一つと仮定して、その他を極めるのは普通の人には無理らしい。


 それでも魔術をいくつも会得し極めた者はいるらしく、ほんの一握りの存在だが稀に出現するとのこと。

 ロウは「銃の魔術」を極め、そいつを使った戦闘を得意とする。



 以上がマイルスの話してくれた内容だ。


「見ろ! ジジイが始めたぞ!」


「あれって......。ハンドガン?」


 まるでハンドガンのような、と言うよりどこからどう見てもただのハンドガンを取り出すロウ。

 銃身は茶色で、所々革細工が施されている。


「魔術ってのは多種多様って言ったよな。ジジイの魔術は大元は有名で誰でも使うけど、ジジイのは派生された完全オリジナル。つまり自分だけの魔術であり、誰かに継承しないと途絶えちまうくらい希少なんだぜ!」


「へぇ」


 マイルスが興奮しながらしゃべり宣う。囁き声なのは確かだが、その熱意がすごく、隣にいられると暑苦しい。


「......光った?」


 一瞬、ロウが持つハンドガンが光った。光の反射かと思ったが、それはすぐに見間違いだと理解する。


 徐々にハンドガンが姿を変えていき、淡い青色の光を発光しながら長くなっていく。

 あの銃の形には見覚えがある。昔、ゲームでよく使っていた、中距離用のライフルだ。


 スコープはついていない。腕と肩で固定して打つタイプだ。


 トリガーと持ち手は元のハンドガンと一緒の革細工の装飾と金属。しかし、銃身は完全に光輝く別物だ。

 光が実体化し、銃の形をかたどるなんて常識ではあり得ない。


「構えた!」


 ロウが銃を構え、流れるような手つきで一発放つ。


 音はなかった。本当に発砲されたのかすら認知できなかった。

 しかし、試しに目標である魔物を見ると、一匹が突然血を吹き出して倒れていた。


 魔物が仲間の死に気づき、騒ぎ始める。

 そこへ続いて数発。正確に頭を撃ち抜いていく。


「凄い......(まるで暗殺者......。この場合は、伝説のマタギか?)」


「だろ! オレもまだあそこまではできないけど......。あの術をいつか必ず継承するんだ!」


 どうやら師弟関係でもあるロウとマイルスは、魔術の継承者としても繋がっているらしい。


 知れば知るほど、この世界は色々と奥が深い。

 そう思っている間に、敵は残り一匹となった。


 ロウの方を見ると、息を切らすことすらなく、シワの入った顔に狩人としての覇気を感じさせるような表情である。


 正直、あの顔で敵意を向けられると、アンナは萎縮してしまうだろう。それくらい、ロウの狩人としての威圧というべきか、あの覇気に押し負ける。


(デリバーの時と似たようで違う。これが経験を積んだ人間の放つ威圧感か......)


 感心しながら、じっとロウを見つめる。最後の一発はいつ撃つのか。


「......ん?」


 一瞬、ロウがこちらを見たような気がした。

 錯覚かと思ったが、ロウが発砲した次の瞬間、獣の大きな咆哮が聞こえ、思わず最後の一匹を見る。


 すると不思議なことに、最後の一匹の片腕が吹っ飛んだだけで、完全に仕留め切れていなかった。


 マイルスが「何やってんだよジジイ!」と叫び、ロウを庇おうと駆け出して、怒り狂って突撃してくる獣の前に立ちはだかる。


 しかしアンナは分かっていた。ロウはおそらく、わざと最後の一発を外した。


(何か企んでるな)


 思いこみかも知れないが、確かに最後の一発を撃つ前にアンナを見たロウ。彼なりの思惑があり、戦闘力でもはかりたいのだろうか。


「仕方ないか」


 渋々草陰から飛び出して、アンナはマイルスの隣に立った。

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