目的の街「ウォールキャッスル」
残りの旅路はそれほど辛くはなかった。
最初の二日と同じように、ある程度歩いては野営地に泊まり、そして再び歩き出す。
しかも集落で買った野菜で作った無水鍋が美味しく感じ、相対的に最初の二日より楽だと思えてしまった。
そして予定では、ネイさんと別れた日から三日後。すなわち今日だ。
歩くたびに霧が濃くなり、肌や服に水滴が浮かんでいく。
そんな中しばらく歩いて、とうとう街の門にたどり着いたのだ。
「お、おお......」
「ここだ。まるで要塞だろ?」
デリバーの言う通り、見上げた先にある門はとても大きく、そして山谷にどっしりと構えていた。
この街は山を切り開いてできたのだと、見てわかる。
つまり天然の壁に囲まれた街なのだ。
「街の名前は『ウォールキャッスル』だ」
「壁の城......」
新たな目的地「ウォールキャッスル」に辿り着いた二人は、そのまま門番の許しを得て、街の中へと入っていった。
霧を抜けて街に入ると、目にしたのは以前の街とは全てが異なる景色だった。
まず、霧が外に比べて少し薄くなったとはいえ、まだ全体的に漂っており、視界が思った以上に悪い。地面を歩く足は見えるが、気を抜くと躓きそうだ。
街の建物の多くは石のレンガでできていて、街道も同じように色とりどりのレンガが使われている。レンガが名産なのか、それともこだわりなだけなのか。
建物の高さはどこも一般的で、二階の建物ばかりが立ち並んでいる。お店の数は少ない。仮にお店があったとしても、ドアが閉まっていて営業しているのか判別しづらい。
そして街の住民が全体的に落ち着いているように思える。親子連れや旅人、冒険者などはいるが、お互いに接触しないように歩いているように感じた。
その違和感に疑念を抱き、街をじっと観察していると、デリバーが肩を叩いてくる。
「何?」と言って振り返ると、この街について説明してくれるようで、街にある第一の目的地に向かって移動しながら教えてくれた。
「この街は見ての通り霧が濃い。そして空から降り注ぐ光もあまり入らん。お日様の光をまともに浴びることがない。お日様の光を浴びれないとなると、まあ人間ってのは気分が暗くなる」
そういえば以前の世界でも、太陽の光を浴びない人間は内気になるとか、引きこもりが悪化するとか、とにかく陽の光を浴びないことで悪い影響が多く出るとの説があった。
この世界にも人間は繁栄し、太陽のような恒星もある。つまり人間の体の作りも同じのはず。
「なるほどねぇ」
よって陽の光が上手く入り込まない土地にあるこの街は、多くの人々が内気になりがちと言うことだろうか。
しかしそれが必ず正しいとは限らないので、この静けさの理由は他にあるのだろう。
その考えをデリバーに伝えると「鋭いな」と、アンナを褒めて言った。
「お前の言う通りだ。前にも言ったことがあったが、今この街はある大きな不安の種を抱えている。そいつが大元の原因だろうな」
「それは、人と人の繋がりを避けるほどに?」
「ああ、またしてもいいラインだ」
前を歩きながら大きく頷いて、アンナの言うことの答え合わせをしてくれたデリバー。
彼の言う通りなら、一体この街の抱える不安とはなんだろうか。
歩いて見ても、霧が濃いだけの街であり、変わった様子は感じない。
街のつくりがネイさんがいた街と違うところ以外は、特に目立つ点は感じられないと言うのが正直な意見だ。
「着いたぞ。ここが目的地であり、お前の疑問の答えにもなっている」
「ここって......ギルド?」
辿り着いたのは、他の店などの建物に比べ、一回りも二回りも大きな建物で、しかも一等地のような特別な場所に建設されたところだ。
どこからどう見てもただの建物ではない。わざわざ庭園があったり、建物が大きかったりするところから察するに、街にとって重要な場所のはず。
「まあ、入ったらわかる」
勿体ぶって教えてくれないデリバー。仕方なく庭園を突っ切る道を歩き、ひとつしかない両扉の片側を開けて建物に入った。
「......お、落ち着いてる」
外観とは違い、建物の中は茶色の木材で統一されていて、家具はもちろん、壁や床も同じ木材が使われている。
外観がまるで大きな教会だったので、中とのギャップに驚いた。
ああいう少しおしゃれさを感じる木の家具を、「アンティーク」と称していた覚えがある。
そんなアンティークなテーブル、椅子、カウンターなど、至る所がおしゃれで落ち着いていた。
中にいる人たちはというと、ここの従業員と思われる人たちが専用のコスチュームを着ていて、まるでカフェの定員のような姿だ。
他には外から来たと思われる旅人や、街に住んでいる冒険者。商人など、以前見たギルド総本山「スカイジャンクション」と同じような面子が多い。
「クエストボードもあるんだ」
「ああ。ここは主に依頼を取り扱ったり、一角にはカフェを担っていたり、色んな複合施設として運営されてる。スカイジャンクションの小型版だと思えばいい」
「はえぇ」
スカイジャンクションの小型版。つまりここもギルドと言うことだ。
「こいつを届けてくる。あの席で座って待っててくれ」
そう言って、スカイジャンクションの人から受け取った荷物を持って、どこかへいくデリバー。
座って待ってて欲しいと言われ、併設されているカフェ内の適当な椅子に座ってじっくり待つことにする。
すると座って間もない内に、カフェの店員さんのような人が来て、「何かお飲みになりますか」と聞いてきた。
「何があります?」
「こちらのメニューをどうぞ」
”店員らしい”と言うより”本物”のカフェの店員さんが、メニューを渡してくれて、オリジナルブレンドコーヒーをいただく。
そしてしばらくすると、良い香りを放つコーヒーが運ばれてきた。
「ウチの好きな深煎りじゃんか......」
店ごとにコーヒーは違うのは勿論だが、深煎りのコーヒーを提供する点を踏まえて、個人的評価だとここの店は上出来だ。
心の中で星三つの評価を下し、コーヒーを飲みながらデリバーを待った。




