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エピローグ ~負け組勇者と残念魔王~

 オリエに背中を向けて歩こうとする真勇人は、その足を止めて反転する。

 未だにオリエは、おろおろとその場に留まっていた。


 (なにやってんだ、アイツ。……早く誰か来いよ、オリエ困ってんだろ)


 一分間、真勇人はそこで足を止めて、その姿を見つめていた。

 自分の見たことのないオリエが、その一分間でたくさんいた。

 人が通れば、道を聞こうと声をかけようとするオリエ。それでも、声が小さくて相手には届かない。

 前のオリエなら、人に道を聞こうともしないだろう。

 他の教室の窓を見回すオリエ。きっと、友達が偶然通らないのかを探しているのだろう。

 前のオリエなら、諦めてその場で授業の時間が終わるまで休憩しているかもしれない。

 一つ一つの表情が、見たことのないオリエ。知らない誰か。

 歩き出そう。揺らぎまくった意思を正そうとしたその時――。


 「――痛ぃ」


 右の手の甲が熱い。久しぶりに感じる、手先が痺れるような痛み。

 魔王騎士の印が赤く輝いている。


 (なんで、こんな時に……)


 真勇人には、これを消す方法は分からない。そして、この痛みを与えているのは、オリエしかありえない。


 ――たすけて。


 心の中に、オリエの助けを求める声が聞こえた。


 ――困った。道が分からない、どうしたらいいの。怖いよ……。私、全然わかんないし……勉強だってついていけてないし……誰か……たすけて。


 オリエの心の声が伝わり、彼女の苦しみを感じて胸が苦しくなる真勇人。

 耳を塞いでも、その声は直接真勇人へ届く。


 ――クラスのみんなは、近衛君がいろいろ助けてくれていたっていうけど……凄く冷たいよ。私を助けてくれていたのって、嘘なの? ねえ、わかんないよ……――嘘ついてないで、助けてよ。近衛君。


 真勇人の嘘つき。

 オリエにそう言われた気がした。昔、聞いていたあの気だるそうな声で。

 涙が出そうになるのをグッと堪えて、漏れ出しそうな弱音を飲み込んだ。

 気が付けば、自分の足はオリエの元へと歩き出していた。


 (最初から分かっていた。どれだけ変わっても、オリエはオリエなんだ。俺は、そんなオリエの側にいてもいいんだ。……嘘つきだな、俺も。お前が望んでいたことなんだよな、これも)


 体を丸めて視線を落としていたオリエに近づく真勇人に気がつけば、びっくりしたように見つめた。


 「近衛君?」


 どうやら、今自分が考えていた人物が目の前に現れて驚いているようだった。

 オリエに再会するような気持ちで、真勇人は優しく声をかける。


 「真勇人でいい。教室の場所、わかんないんだろ。教えてやるから、一緒に行こうぜ」


 オリエはしぼんでいた花が咲いたように、その顔を明るくさせた。


 「うん! ありがとう!」


 教室の場所を教えるために、並んで歩き出す真勇人の心に再び声が届く。



 ――このえく……じゃなくて、真勇人くん……意外と優しいな。なんだか、こうしていると懐かしいし、嘘じゃなかったかも。


 (意外は余計だ)


 心の中の声に苦笑を浮かべた。

 自分は何をやっていたんだろう、と迷っていた自分を真勇人は恥ずかしく思った。

 

 (オリエはオリエだ、昔のオリエも今のオリエも一緒なんだ)


 真勇人とオリエは肩を並べて歩き出す。

 負け組勇者のオリエと残念な魔王の真勇人は、この世界を共に歩き出した――。




最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

まだまだいろいろと書きたいこともありましたが、ここで完結とさせていただきます。


もしも希望があれば、続編も考えています。

自分もまだまだ書きたいな、と思っている小説なので、望んでくれば喜んで書きますので、いつでもお待ちしています^^



それでは、改めまして最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました!!!


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