アルゼインの爆乳音頭。
『アックスプラント城:演習広場』
「はあああ!」
まるで空気まで引き裂くかのような剣の音。
「ふんっ!!」
何度揮ってもこの剣――《咎人の断首剣》の『真の力』を引き出せている感覚が無い。
「はあっ!!!」
違う、こうじゃない。
あの女は、カズハ・アックスプラントは、こんな太刀筋で『魔剣』を使ってはいなかった。
あの日、『大聖堂』にて頭のイカレたあの『勇者』とやらを赤子を捻るかの如く打ち倒した剣捌き。
しかも後から聞いた話では、あの勇者には《精霊王》とかいう過去の亡霊まで取り憑いていたとか。
「はあああああああああ!!!」
渾身の一閃を上空に向ける。
直後、張り詰めたような音が耳を劈く。
「……ふぅ……」
私は魔剣を鞘にしまい、汗を拭う。
「フォッフォッフォ……。相変わらずの『凶戦士』ぶりじゃわい」
いつの間にやら近くに現れた小柄なジジイ。
「……いつからそこにいたんだい?……相変わらず読めないジジイだね、ゼギウス」
ゼギウス・バハムート。
ドワーフ族にして『二刀流』の剣技までマスターした伝説の鍛冶職人。
そしてカズハの秘密を知る、私以外のただ一人の人物。
「フォッフォッフォ。そりゃあ、お主のようなナイスバディなお嬢さんが汗水たらしながら剣舞に勤しむ姿を、こっそりと覗くくらいのスキルは身に付けておるわい、アルゼインよ」
長い髭を触りながらもゼギウスは笑う。
「……ジジイの癖に女好きなグラハムのような事を言うな、見苦しい」
一度睨みを利かせてから近くの井戸に向う私。
と、その井戸で珍しい人物と出会う事に。
「……へぇ、珍しい奴がいたもんだねぇ」
そこには数羽の小鳥に囲まれた元魔王の姿があった。
「……アルゼイン・ナイトハルトか」
私が近付いたのを警戒したのか、小鳥達は空へと舞って行く。
「はっ、『元魔王様』ともあろうお方が井戸で小鳥とお喋りかい? 世の中平和になったもんだねぇ」
私は殺気を元魔王――セレニュースト・グランザイム8世へと向ける。
「……何のつもりだ? アルゼインよ」
むき出しの殺気に眉をひそめるセレン。
「『何のつもり』? ……それはあたいの台詞なんじゃぁ無いのかい? 一体どういう経緯でお前がカズハの仲間になったのかは知らないが……。それまでに自分がして来た事が分からないほど、お前は阿呆では無いんだろう?」
私は鞘から魔剣を引き抜く。
そう。
カズハは確かにあの日、私と『取引』をした。
そして約束通りゼギウスに『魔剣』を託し、それのお陰で『王都襲来』の際にカズハ達が駆けつけるまで持ち応える事が出来たのだ。
しかしカズハが私に託したのはこの魔王――セレンから奪った『魔剣』では無かった。
カズハは自らが既に持っていた『魔剣』を私に託したのだ。
「ふっ……。『私怨』、か……。誰の敵だ? 直接魔王城まで攻め入って来た冒険者や《勇者候補》の中に知り合いや家族でもいたか? ……たとえいたとしても、全てこの《咎人の断首剣》の剣の錆にしてくれたがな……」
セレンが私の殺気に呼応して鞘から剣を抜く。
世界に1本しか無い筈の魔界最凶の剣――《咎人の断首剣》。
それが私の手の中と、セレンの手の中にそれぞれ納まっているという矛盾――。
しかしその『本当の理由』をセレンは知らない。
カズハが実は一度ならず二度までも世界を救った元『勇者』で。
そしてその二度とも、魔王であったセレンを討伐したという事実も。
「これはこれは……。ワシの作った最高傑作を持つもの同士で殺気のぶつけ合いとは……」
遠くから髭を撫でながらこちらの様子を伺うゼギウス。
「止めるなよ、ゼギウス。こいつとは一度決着をつけておかないといけないと思っていた所なんでねぇ」
「……だそうだ、ゼギウスよ。殺し合いまでにはならぬから、黙って見ていて貰えるか?」
「ふむ……」
ゼギウスがそう言い、再度髭を触ったのが合図となる。
「はああああ!!!」
私は中段の構えのまま勢い良く地面を蹴る。
そしてそのまま魔剣を横に振り抜いた。
「水龍神よ! 我を守りし盾となれ! 《ウォーターウォール》!!」
セレンの足元から巨大な水の壁が現れ魔剣を弾く。
「ちぃ……!」
背後に殺気を感じ、そのまま振り返りもせずに蹴りを放つ。
ガキン、と小気味の良い音で剣により弾かれたのだと察する。
そしてすぐさま次の攻撃に移る私。
「全ての闇を払う力をここに! 《シャインイクスプロウド》!」
背後で剣を振り上げていたセレンの胸元に光が凝縮する。
「異界の扉よ! 我の身に絶なる混沌を! 《ブレインマイグレイト》!!」
「なっ……!?」
光の爆発寸前に闇に包まれ身を隠したセレン。
「ちぃッ! 厄介な《闇魔法》を……!!」
辺りを見回す。
――いない?
「黒銀の闇よ! 怨念の元に全ての正義を喰らい尽くせ! 《ダークサーヴァント》!!」
「――上か!!」
上空を仰ぎみると、そこには異界の扉から再度現れたセレンの姿が。
そして自分を取り囲むように8本の黒銀の槍が空中で停止している。
――まずい!
「闇を払いし光の槍よ! 《ライトニングスピア》!!」
私は光の槍を通常とは逆――つまりは自身から周囲に射出させる為に咄嗟に唱える。
瞬間的に唱えた光の槍は黒銀の槍と衝突し相殺される。
「ほう……。流石は《魔道戦士》と言った所か。通常とは逆方向に魔法を射出させるとはな……。だが……!!」
そのまま上空より魔剣を振り上げ急降下してきたセレン。
「来な……!! 返り討ちにしてやるよぉ……!!」
下段の構えで急襲するセレンに魔剣を振り上げる私。
ガキン――!!
周囲に眩い閃光がひた走る。
そして演習広場に土埃が舞い、一瞬全ての視界が塞がれた。
「!!」
「なっ……!」
私とセレンの間に立つ少女。
「はいはい、それまで。おまいらさぁ。何が原因か知らんけどさぁ。喧嘩は良くないぞぉー。喧嘩はー」
「・・・」
「・・・」
「フォッフォッフォ……。これはまた……」
ゼギウスが髭を撫でながらも笑い声を上げる。
「『フォッフォッフォ』じゃねえよジジイ! お前見てたんなら止めろよ! 大方アルゼインとセレンのダブルおっぱおでも眺めてて『眼福、眼福』とか言ってたんだろ? このエロじじいがっ!!」
「・・・」
「・・・」
「……ん? ……何でおまいら、さっきから無口なん?」
口をもぐもぐさせながら間に立つ少女――カズハは言った。
「……カズハよ。お前は……本当に……『何者』なのだ……?」
セレンが私が言いたい事を先に言う。
「へ?」
「……あんた……。流石に……ソレは無い、だろう……」
「へ? なにが?」
カズハが両手に持っていたもの。
私が渾身の力で振り抜いた魔界最凶の剣《咎人の断首剣》。
そしてもう一方でおそらく渾身の力を込めてセレンが振り下ろした、もう片方の魔界最凶の剣《咎人の断首剣》。
「……あ、これかっ! いやさぁ、だって、食事中だったからつい…………てへ♪」
カズハの両手には――。
おそらく食事中に使用していたのであろう――。
――ナイフとフォークが握られていた。
「・・・」
「・・・」
「……あれ?」
「……これは当分立ち直れんわいのう……。フォッフォッフォ……」
その後、私とセレンは。
お互いに肩を叩き合いながら。
お互いに酒を汲み合い、慰め合った事は言うまでも無く――。
「……あれ?」




