第十六章 第三幕への突入
王宮に駆け込んだ夜、王は、すぐに俺を、応接間に通した。
王は、俺の濡れた姿を見て、無言で侍従に毛布を持って来させた。
「サクラ殿。何が、起きました」
「ミレイアさんが、教会に拘束されました。グレンさんは、襲撃で重傷。リリアさんの店は、焼かれました」
王は目を閉じた。
しばらく何も言わなかった。
開いた目には、抑えた怒りが、浮かんでいた。
「教会の」
「はい」
「証拠は」
「あります」
俺は、業務日誌を机に置いた。
そして、説明を始めた。
千年前から、五百年前、そして現在に至る、ロスの発生時刻と、地点の、規則的なパターン。中心点は、王都の大聖堂。
説明には、半刻ほどかかった。
俺は説明の途中で、何度か、声が震えそうになった。
ミレイアの細い手首の、鎖の跡を、思い出すと、声が、揺らいだ。
そのたび、俺は業務日誌の、数字の欄に、目を戻した。
数字は、揺らがない。
数字は、嘘を、つかない。
俺は、数字を信じて、説明を続けた。
王は、最後まで無言で聞いた。
聞き終えて、深く息を吐いた。
「私が、ずっと、感じていた違和感を、君は、数字で示した」
「畏れ入ります」
「君に、提案がある」
王は、俺の目を、まっすぐ見た。
「『大いなるロス』の、原因究明と、停止のための、王命を下したい。これは、教会の管轄を超えた、国家事業として」
「国家事業」
「うむ。教会の鑑定権を、超えるのは、王命のみだ。これがあれば、大聖堂の中の調査も、可能になる」
「ありがとうございます」
「条件は、一つ」
王は頷いた。
「君の指揮で、各地に号令を、かけたい。冒険者ギルド、商人組合、魔導士組合、すべて」
「俺の、指揮で」
「君の名で、各地に、要請を出す。これは、君の作戦だ」
俺は頭を下げた。
頭を下げながら、業務日誌に書いた。
「全大陸・棚卸し。発令日、王暦四七二年・春」
書きながら、自分の手は震えていなかった。
雨で泣いた指は、もう止まっていた。




