【冬の特別企画】交じり合う物語【二】
「……はあ……はあ……ああ。しんどい」
風魔は荒くなった呼吸を整え、周囲を見渡す。
いつの間にか辺りは前も見えぬ位に暗くなっていた。
「参ったな。完全に道に迷った」
風魔は溜め息を吐くとサングラスの留め具の部分に触れ、暗視モードに切り替える。
「これで良しと」
「何が良しなのだー?」
その声に振り返ると赤いリボンに黒いワンピースの少女が両手を広げて佇んでいた。
「この暗い中でも夜目が利くって事は君、現地の人?」
「げんちのひと?」
「この……幻想郷だったか?ーーに住んでいる子?」
「そーなのだー」
その言葉を聞き、風魔はホッと安堵する。
どうやら、先のムラマサの様にはならないな、と……。
「それは良かった。なら、此処から一番、安全な所を教えてくーー」
「その前にルーミアの質問に答えるのだー」
「ん?質問って、なんだい?」
風魔は腰を落とし、ルーミアの目線で尋ねる。
「貴方は食べても良い人間?」
「……はい?」
一瞬、何を聞かれたか解らぬ風魔にルーミアは笑顔で近付く。
咄嗟に逃げたのは風魔にとって最善の措置ーーではなく、最悪の措置であった。
「質問に答えられないって事は貴方は食べても良い人間なのだー」
そう言うとルーミアは宙を舞って風魔を追い掛ける。
先程の妖怪と良い、この少女と良い、今日は厄日だ。
そう思いながら、空中から襲い来るルーミアを見て、これはマズいと判断した風魔はポツリと呟く。
「我は魔を払う風なり」
その瞬間、風魔が四肢に青い光を輝かせ、あっという間に見えなくなる。
風魔が扱える数ある魔法の一つで攻撃力と素早さが驚異的に上がる身体の部位強化を主体にした魔法ーー瞬撃の型である。
「なんだ?あの人間は魔法使いだったのかー?」
ルーミアは風よりも速いスピードで妖怪の山へ逃げて行った風魔を眺めながら残念そうに呟く。
「ルーミア」
そんなルーミアに誰かが声を掛けた。
「んー?なんだか、聞きたくない声の気もするけど、誰なのだー?」
「その闇を操る程度の能力を解除すりゃあ、解るだろ?」
その言葉にルーミアは素直に周囲の闇を解除するとムラマサの姿があった。
「げっ!やっぱり、ムラマサなのだー!」
ルーミアは嫌そうに叫ぶと一歩下がってムラマサを睨む。
人喰い妖怪であるルーミアにとって、自分から人間を守るこの妖刀の妖怪は天敵であったからである。
「げっ!ーーはないだろう?
定期的に飯は喰わせてやっているんだからよ?」
「人間の肉じゃないから嫌なのだー。
このままだと、人喰い妖怪ってルーミアのアイデンティティーが崩壊するのだー」
「そうかい。そりゃあ、悪かったな。
なら、人喰い妖怪から大食い妖怪にでもなったらどうだ?」
「むー!そうやって、ルーミアの事をすぐに馬鹿にするからムラマサは嫌いなのだー!」
むくれるルーミアにムラマサは「そんなつもりはないんだがな」と呟いて溜め息を吐くとすぐに真剣な表情になる。
「ところでお前、黒いロングコートに黒いレンズ眼鏡の怪しい外来人の男を見なかったか?」
「んー?もしかして、さっきの魔法使いなのかー?」
「魔法使い?」
「そうなのだー。ピカーッて光ったと思ったら、妖怪の山へ向かって逃げてったのだー。あれは天狗よりも速かったのだー」
「そうか。すまんな。
今度、また飯でも奢ってやるからな?」
「今度は兎とか猪じゃなくて、人間が食べたいのだー」
「そうか。なら、次は豚で良いな」
ルーミアの言葉にムラマサはそう返すと妖怪の山へと向かって駆け出して行く。
「そう言えば、ルーミアは風魔を魔法を使ったとか言っていたな?
あいつ、何か特殊な能力でもあるのか?」




