【冬の特別企画】交じり合う物語【一】
幻想郷に本格的な冬が到来する。
俺は素足で雪道を歩き、いつもの様に人間の里を歩く。
雪の日ってのは人間の里の奴らの出入りも必然的に少なくなり、皆、家の中で暖をとっている。
「外来人がまた入った様だな」
俺は独り呟くと黒いロングコートに黒いレンズの眼鏡を掛けた怪しい奴に歩み寄る。
明らかに場違いな格好と言い、十中八九外来人ーーつまり、外の世界の人間だろう。
「おい」
俺が声を掛けるとそいつはゆっくりと此方に振り返る。
「……日本語?此処はニホンなのか?」
「あん?」
「いや、此方の話だ。気にしないでくれ」
そう言うとそいつは手を軽く顔の前に上げた。
「俺は風魔。しがないトレジャーハンターだーーって、言ってもこの時代じゃ解らんだろうな。まあ、所謂、遺跡探索者だ」
「俺はムラマサ。妖刀の付喪神だ」
「つくもがみ?」
「まあ、妖怪。化け物って所だ」
「ああ。成る程。
だから、この雪の中、裸足で歩ける訳か……」
ん?なんだ、こいつ?
妙に物分かりが良いな。
普通、化け物か妖怪って言ったら、聞き返したり、驚いたり、ビビるのだが、どの反応とも違う。
まるでそう言うのに慣れている感じだ。
「しかし、妖怪か。昔のニホンに本当に実在してたとはな。
神統暦でも滅多にお目に掛かれないな」
「しんとうれき?西暦とかじゃないのか?」
「え?この時代に西暦の暦が存在するのか?」
その問いに俺はますます解らなくなる。
こいつは間違いなく、外来人に違いない。
だが、他の外来人とは何かが違う。
俺は分身体の刀を手に風魔と名乗る男に刃を向けた。
「……お前、何者だ?まさか、月の連中か?」
「あっと……そうなる、のか?」
「そうか」
俺はその言葉に納得すると風魔に踏み込む。
「うおっ!?」
俺が踏み込むと風魔が慌てて飛び退き、その前髪が俺の振り下ろした刀で僅かに持って行かれる。
俺はゆっくりと中段に構え、風魔を見据えた。
「月の連中も大胆な事をする。いよいよ、侵略の準備でも整ったか?」
「ああっ!ちょっと待て!嘘!嘘だ!
俺は月の連中とかって奴じゃない!」
「今更、言い逃れか?見苦しいぞ?」
「くっ!こうなったらーー」
ーー来るか?
俺はゆっくりと間合いを詰め、奴との距離をーー
ーー取ろうとしたら、風魔と名乗る月人は俺に背を向けて逃げ出す。
戦略的な撤退って奴だろうか?
いや、俺を誘き出す為の罠かも知れないな。
いずれにしろ、里から出て行ったなら追う必要もないだろう。
俺は刀を消すと博麗神社へこの事を伝えに行く。
「霊夢」
「あら、ムラマサ。丁度良かったわ」
階段を上り、神社の隣ある家でこたつで丸くなる霊夢の前に来ると俺は溜め息を吐く。
「なんで、お前がいるんだ、八雲紫?」
そう。普段なら冬眠している筈の八雲紫がうつらうつらしながら、自身の式神である八雲藍と共に霊夢の入っているこたつで一緒にくつろいでいたからだ。
「んあー?ムラマサ?」
「紫様。やはり、無理をせずに眠られては……」
「やーよー。折角、風魔を呼んだのにサインを……ふわあ~」
「やれやれ。妖怪の賢者であるお前がしっかりーーん?」
今、こいつ、何か重要な事を言わなかったか?
「おい、八雲紫」
「んー?なーにー?ムラマサ?」
「今、風魔とか言う月人の名を口にしなかったか?」
「んー?つきびと?」
駄目だな、これは。
完全に冬眠間近でうたた寝しかけている。
俺は代わりに八雲藍に尋ねた。
「どう言う事だ、八雲藍?
お前の主人は何をしようとした?」
「簡単な話だ。紫様は陰猫(改)と言う人物のとある小説から境界を操り、風魔と言う主人公の一人を呼び寄せた」
「そう言う事は早く言え。人間の里から追い払っちまったぞ?」
その言葉に霊夢が溜め息を吐き、八雲藍が天を仰ぎ見る。
八雲紫はこたつで正月に除夜の鐘を聞く為に頑張って起きてたが、睡魔に勝てなかった子供みたく寝ている。
「ちょっと、紫。人の家で寝ないでよね」
「んへへー♪こたつ、あったかーい♪」
訂正しよう。完全に八雲紫は幼稚化してしまっている。
俺はもう一度、溜め息を吐くと八雲紫達に背を向けて歩き出す。
八雲藍の伝達ミスとは言え、俺が追い払ってしまったからな。
どんな物語の主人公か解らんが、無事だと良いんだが……。




