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ムラマサの子供【終】

 異変解決後、ムラマサは雷鼓の元を訪れた。

「……ムラマサの兄さん……あの子は?」

 その言葉にムラマサは答えず、元に戻った笛剣を差し出す。

 そこからは微かな妖気すら感じない。

 雷鼓はそれを受け取ると胸元で抱き抱える様に握り締める。

「……ごめん……ごめんね」

 雷鼓がそう言って笛剣に向かって泣くとムラマサは静かに囁く。

「悲しむな。あいつは俺の中にいる」

「解ってます。兄さんはあの子の妖力を吸収したんですね?」

「……ああ」

 ムラマサは雷鼓の言葉に肯定すると目を伏せる。

 元が自身の与えた妖力であるなら、それを奪う事も長年生きた人妖ならば可能である。

 ただ、そう言う事をする者がいないと言うだけで……。


 雷鼓は普段と違い、やるせない表情のムラマサに何も言わない。

 ただ、心は痛んだ。

「……あの子は本当にいたら、いけなかったんですか?」

 雷鼓のその問いにムラマサはしばし、沈黙するとゆっくりと答えた。

「掟かあの子か……俺も悩んだ。だが、結果的に俺は掟を選んだ。それだけだ」

 その言葉に恐らく、嘘はないだろう。

 幻想郷の守護者の掟にはこの様な物がある。


 ーー幻想郷に害をなす事なかれ。


 故に自身の力を得て、異変を起こした娘に対してのムラマサの判断は幻想郷の守護者としては正しい事である。

 だが、そこに生まれたての我が子を消す事はムラマサでも堪えたらしい。

「その笛剣はお前に渡しておく。

 俺にはその子の思いだけで十分だ」

 そう言うとムラマサは雷鼓に背を向けて立ち去ろうとする。

「待って下さい、兄さん」

 そんなムラマサの事を雷鼓は引き止めた。

「もし、もしもですよ?

 この子を私がきちんとしつけられていたなら、兄さんはこの子を受け入れてくれますか?」

「……そうだな。可能ならそうするかも知れない。

 だが、それは俺達の決める事ではない。

 その子がゼロから付喪神として誕生し、それでも俺達の事を親だと思っていたのなら、その時は俺も受け入れるかも知れん」

「……ムラマサの兄さん」

「だが、今はその時ではない。

 故に今回の手段を選んだ。

 恨んでくれても良い。

 だが、それが"俺達"だ」

 そう告げるとムラマサは今度こそ、その場を後にした。


 その夜、ムラマサは無縁塚で一人、空っぽの酒瓶を手に御猪口で飲むフリをして桜の散り終えた木を眺める。

「古き世を捨て、新たな世界で会おう、か……」

 ムラマサはしみじみ呟くと再び酒を煽る素振りをして黙って俯く。

 そこに何を思うかはムラマサしか解らない。


 ただ、ムラマサはしばし、その場で空っぽの酒を飲むフリを続け、黙って新たな蕾を宿す桜の木を眺めるのだった。


 ーーー


 ーー


 ー


 後日、ムラマサはいつも通りに人間の里を巡回する日常に戻る。

 そこには憂いはない。

 あるのは幻想郷の守護者として務める普段の彼の姿である。


 ーー幻想郷の守護者。


 人知れず、幻想郷を護り、博麗の巫女を補佐するかつて、秩序無き時代で幻想郷の為に戦い続けた者達である。

 その役目を終えても、彼の様に去らず、未だ戦う者もいる。


 ーーそれが幻想郷へ思いを紡ぐ事になると信じて。


 例え、外の世界の人々が科学を盲信しようと忘れないだろう。

 そこに幻想郷の理はない事に。


 例え、世の人が常識や道徳に縛られようとも忘れないだろう。

 幻想郷に許されぬ事などない事に。


 彼らは闇に生き、光に奉仕する者ーー幻想郷の守護者である。

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