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26 終章~社のその後と贈り物

 最近、近隣の村人たちの間では「どういうわけか、突然、林の(やしろ)が大破した」という話で持ち切りだった。


「その日は晴れていたはずなのに、雷の音が聞こえた」と言い張る子供がいたことから、落雷の被害に遭ったのだろう、ということで話題には終止符が打たれたが……未だに首を傾げている人は多い。


 壊れたままにしておくのは良くないから、ということで、村々の間では修繕の寄合が開かれた。その話し合いには竜胆家も参加し、「修繕にあたって全面的に金を出す」と太っ腹な提案をしたことで、寄合は丸く収まった。


――と、表向きにはそういうことになっているが、真実を知る志乃は、苦笑をこぼすばかりだ。


「それにしても、派手にお壊しになられましたねぇ……」

祭神(さいじん)には悪いことをしましたね」


 祭神――社に祀られている神にとっては、突然、自宅の屋根がぶち抜かれたようなものだ。さぞ驚いたことだろう。


 紫紺は懐から布包みを取り出し、志乃に見せた。


「社を直すまでの間、祭神には別の依り代に移っていただくことにしました。こちらに」

「まぁ……! 綺麗な(かんざし)ですね」


 布に包まれていたのは、べっ甲の簪だった。繊細な彫刻がほどこされていて、淡い金色に透き通っていて美しい。


 簪に見入っていると、そこからにょろりと白い蛇が顕現した。


(いや、蛇じゃなくて龍?)


 小さいから蛇かと思ったが、よくよく見ると角と手足が生えている。簪に宿っているのは社の祭神――白龍だ。


 紫紺は白龍共々、簪を差し出した。


「差し上げます」

「えっ!? わたしがいただいてもいい物なのですか、これは」

「はい。先日、あなたの簪を燃やしてしまったので、新しい物をと、ご用意したので。ついでに祭神も行き場を失くしていましたし、ここに宿しておきました。護身に役立つかと」

「神様を良いように使ってませんか……?」


 社を壊されたうえ、護身の任まで押し付けられて、祭神は怒っていないのだろうか……と心配になったが、簪の白龍は『ピッ!』とやる気に満ちた鳴き声を上げていた。


 簪を両手で受け取り、つい頬を緩めてしまった。


「まぁ、可愛らしい」

「肌身離さず身に着けておいてください。……もう、あんなことは御免だ。寿命が縮むかと思いました」


 先日の社での出来事を思い返しているのか、紫紺は遠い目をしている。その顔は無表情で、声にも抑揚がない。


 けれど、初めて会った時に比べて、ずいぶんと「人らしい空気感」のようなものを感じられた。少なくとも、志乃には明確に感じ取れた。


(紫紺様ったら。寿命なんて言葉をお使いになって)


 若くして消える、とか言っていた人の口から、寿命が縮むという言葉が出てこようとは。狐葉が聞いたら、きっと涙を流して喜ぶに違いない。


 志乃は胸に湧き上がる温かい心地に、顔をほころばせて返事をした。


「はい。肌身離さず大切にいたします。旦那様の長生きのためにも」


 そう答えると、紫紺は柔らかく微笑んだ。


 この世ならざる天人の笑みではなく、どこか照れ臭さをはらんだ、人間臭い笑顔だった。







 おしまい


お読みいただきありがとうございました。

良いお年を!

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