仕事帰り
カタカタカタカタカタカタカタカタ、カタ。
「よし、今日はこんなもんかな」
作業に切りをつけ、背もたれに寄りかかる。
すると、「武田さん」と声をかけられた。振り向くと、後輩の前田君だった。
「この計画案、修正したので加えておいてください」
わかったよ、ありがとう、とUSBを受け取り、中身を確認する。
今僕が勤めているのは、EHR(関東高速鉄道)の事業企画部だ。新規路線計画を始め、既存路線の延伸、新駅設置、ダイヤの見直しなど様々である。
そして今進めている一大プロジェクトは、新たな企画乗車券、「関東まるごときっぷ」である。
他社への相互乗り入れ路線も含めると、関東一都六県に路線網を持つEHR。
そして今回は、他の関東私鉄やJRと共同でフリーきっぷを作るという、前代未聞のビックプロジェクトである。
また背もたれに寄りかかり、目をつむった。
「武田君、居眠りかい?」突然声がしたので、また振り向くと、声の主は山本PMだった。
「いえいえ、ちょうど切りがついたものでしたから、つい」
「そうだな。もう5時過ぎだから、そろそろ帰っていいぞ」
「本当ですか?残業は………」
「ここのところ、スケージュール押してて、帰るの遅くなってただろ。たまには早く帰って、嫁さんとも過ごしなさい」
「そうですね…ありがとうございます。ではお言葉に甘えて」
と言い、荷物をまとめて、PCをシャットダウンし、会社を出た。
改札にPASMOを通し、メトロのホームにやって来ると、流石は通勤時間帯、人でごった返している。
やっとの思いで乗り込み、一息つこうとしたところ、列車が揺れ、隣の人にカバンが当たってしまた。
「すみません」と謝った時、あることに気づいた………
「れ……玲也?」「か……一真?」
なんと、隣に立っていたのは、中学校の同級生、牧野玲也であった。
彼は小学校の頃からの友人で、バンダムを書くのが好きだった。
その頃の才能が生かされたのか、今はジプリで働いている。
「あれ、ジプリって三鷹じゃあ………」
「いや、今日は日比谷に打ち合わせに行ってた」
「そういえば、お前この間映画の監督してなかったか?」
「『うしろのトロロ』でしょう。そんなすごくねえよ」
「いやいや。観客動員今年一番でしょう」
公開と同時にネットでも大きな反響があり、都内では当日券が即完売するほどの大ブームを起こしている。
「お前だってこの間文部科学大臣から何かもらってなかったか?」
「未来科学名誉賞でしょう。仕事柄」
仕事のつながりで参加させてもらっている、文科省主催の「日本未来都市プロジェクト」で、僕が発案した、鉄道と街を一体で開発していく構想が評価され、晴れて授賞したものだ。
発案は確かに僕だが、チームのみんなのいろんな意見があったからこそ実現できたと言える。
『まもなく、中目黒、中目黒です。東急東横線はお乗り換えです」
(続く)




