第六話
青いネモフィラの絨毯が広がっている。
――静かで温かい優しい世界。
安らかな眠りから目を覚ますと俺は今の居場所へ戻ってきていた。
「おかえりなさい。ちゃんと渡せ....」
俺は彼女が言葉を言い切る前に勢いよく抱きしめた。
「ありがとう。サイネ。本当にありがとう」
「ちょ、蛍くん。苦しいです」
サイネも俺が離さないと思ったのか諦めたように髪を撫でた。
「良い旅を終えたのですね」
俺はサイネを離して残った一つの宝石を取り出した。
「ここが俺の最後の場所。そしてこの宝石はサイネに贈りたい」
取り出すケースの中に埋め込まれたエメラルドは大きく光り輝いている。
「なんで、私....」
サイネは驚き手で口元を覆った。
俺の想いは死んでもなお、有効だったのだ。
サイネはきっと、この宝石は現世に残した相手へ贈るものだと思っていたのだろう。
何故、瑠璃の時に光らなかったのか。
それは、最初からこのエメラルドは俺の想いがサイネの為に結晶化したものだったからだ。
「一目惚れだったと思う。最初に出会ったときは儚くてなんて綺麗な人なんだろうって思ったんだけどさ。サイネに気づかせてもらって、最高の贈り物をもらって。俺にとって惹かれるのは当然だったよ」
俺は静かに片膝をつき、ルースケースを開いてサイネへ差し出した。
「サイネの事が好きです」
「はい。私も蛍くんが好きです」
サイネは目を輝かせ大きな雫を溢しながらとても幸せそうに笑った。
俺はその笑顔を一生忘れないだろう。
宝石を受け取ったサイネを優しく抱きしめた。
♢
サイネと別れの時間が来るまで寄り添いながら会話に花を咲かせていた。
その時が近いのはもうすでに分かっていた。
俺の体が白く光る球体の粒子に包まれ始めていた。
「なぁ、あの宝石は神様にも有効なのか?」
「正直私もわからないです、初めてのことなので」
へへっと照れて笑う彼女が愛おしい。
「そっか。でもこうしてサイネに想いを伝えれてよかった」
「すごく驚きましたけど、嬉しかったです」
楽しい時間は一瞬で意識がだんだんとぼやけていく。
「サイネごめん眠くなってきた」
「では、ここへいらっしゃい」
俺はサイネの腿の上で横になる。
「なんとも贅沢な景色だ」
「いつでもして差し上げますよ。お付き合いしているんですからね」
彼女からお付き合いと言われ少し照れくさいがとても嬉しい。
「来世でもまたサイネに告白するよ」
「すぐにしてくださいね」
「またピアノ弾くから、一緒に歌ってくれないか?」
「私からお願いしたいくらいです」
俺がサイネに微笑み返すと視界がサイネに覆われた。
「おやすみなさい。蛍くん。私に名前を送ってくれてありがとう」
最後に聞こえた彼女の声は、とても幸せそうだった。
――この想いを、感情を、言葉をどうすれば伝えられただろうか。
きっとそれは、弱さを見せる勇気を持つことだったのだ。




