第15話〜倉持教授視点〜
藤堂くんと別れたあと、研究棟の喫煙所で一服した。
春の夜風に煙が溶けていく。
思った以上に感情が揺れていたらしい。
彼にぶつけられた言葉は、どれも正論だった。 年齢差。 立場。 周囲の目。
分かっている。 分かっているからこそ、ずっと線を引こうとしていた。
それなのに。
帰り支度を終えた頃には、もう彼女の声が聞きたくなっていた。
苦笑しながらスマホを手に取る。
――情けないな。
こんなふうに誰かを求めるなんて、いつ以来だろう。
電話越しに聞こえた彼女の声は、少し不安そうで、少し焦っていて。
そしてその関心は、全部僕に向けられていた。
『教授、傷ついてないですか?』
その言葉に、胸の奥がじわりと熱くなる。
嬉しかった。
少しだけ、優越感すら覚えてしまうくらいに。
藤堂くんと会ったあとだというのに、彼女の心は真っ直ぐこちらを向いていたから。
……最低だな、とも思う。
大人げない独占欲だ。
最後には、 『もう、手放せなくなる』 なんて、柄にもない台詞まで口にしてしまった。
この年まで、恋愛をしてこなかったわけじゃない。
けれど。
こんなふうに心が乱される恋は、知らなかった。
彼女ほど魅力的な人なら、僕なんて簡単にもてあそぶことだってできるだろうに。
でも、電話越しに聞こえた声には、そんな余裕は少しもなかった。
ただ真っ直ぐで、 不器用なほど必死で。
――愛しい、と思った。
研究棟を出る。
夜空には、淡い春の月が浮かんでいた。




