131、ただいま
今回で、本編完結です。
いつもより少し長めになっています。
「ジュリエッタ、ポウロの髪は、赤いままにしておいて欲しいわ。髪が伸びてきたら帽子を被ればいいもの」
(やっぱりね)
「じゃあ、ネイル。ポウロくんに銀ラメをお願い」
私がそう言うと、ネイルはキラキラした光を放った。ポウロくんの赤く色付いた髪色が、さらに輝いて見える。
「お母様、ポウロくんの髪が伸びてしまうまでに、たくさんご飯を食べて体力を回復してください。青の王国の仮の神殿は、10日以内にはできるみたい。さすらいの荒野まで歩くのは無理だろうけど、何か乗り物があれば行けるように、早く元気になってね」
「さすらいの荒野なら、馬車で行ける距離よ。青の王国があった頃は、街道が整備されていたわ」
母は、今の状況はわからないみたい。不安そうに、お兄さんの方を見てる。
「王妃様、街道は残っていますが、道の状態は悪いです。青の王国の再建がある程度進めば、街道の整備もできると思います。俺は、青の王国の再建を手伝いますから、街道整備もしっかりやります」
お兄さんがそう言ったことで、母は頷いたけど、不安そうにしている。ポウロくんを守ってくれる人は、少ないんだろうな。
『ジュリエッタ、私が、その役目を引き受けるぞ』
(あっ、また念話に戻ってる)
「賢い子が、二人を守ってくれるの?」
『うむ。私の中に共存する人間の残留思念には、この城に仕えていた者もいる。王妃リーネルを支えてきた側近であろう。また、ジュリエッタの兄は、ここに居たいらしい。私はまだ上手く発声できないが、人間の幼児の言葉なら発することができそうだ』
「でも、賢い子は、人化するレッドスライムの王になるんじゃないの?」
『この城にいても、それは可能だ。私は、大陸内なら自由に転移できるからな。また、ここに棲む人化したレッドスライム達の願いでもある。新たな国王は、あまりにも弱い。前国王の側近達を抑えてる力はないからな』
(ちょ、ひどいこと言って……)
ランドルフくんは、苦笑いしてるよ。でも、確かにランドルフくんでは、ぶよぶよなオジサン達を抑えられないよね。
「新たなレッドスライムの王が、この城に滞在することも、ある意味、良いことかもしれない」
お兄さんは、ぶよぶよなオジサン達が激怒しそうなことを言ってる。
「カール、それは、この城をスライムに委ねるということですか」
「王妃様、それは違います。大陸はあくまで人間の領土です。しかし、赤い髪の少女は、すべてにおいて異質です。人化するスライムは、男の姿にしかなりません。ですが、彼女を生み出したクイーンホワイトの分身の影響を受け、女の子の姿をしている。人間の考えも理解している。半分は人間の感覚を持っているんですよ」
「そうね。ジュリアスの思念も共存しているのよね。だったら、ここにいてもおかしくはないわね」
母は、赤い髪の女の子の方を見て、ふわっと微笑んだ。きっと、彼女の中にいる兄に、微笑んだのね。
「賢い子さんなら、リーネルとポウロを、青の王国に連れて行くことも簡単だね。ボク達が大陸に居るかどうかも、すぐに察知する能力があるからね」
キララがそう言うと、赤い髪の女の子は、照れたのか頬が赤くなってる。あっ、キララに真っ直ぐに顔を見られてるからかな。
「そうね。お母様の体力が回復して、ちゃんと歩けることが必要だけど、賢い子が連れて行ってくれるなら、移動中の不安もないね」
「ジュリエッタ、私は、早く歩けるようになるわ。本当に、ありがとう。今日は本当に、何て素晴らしい日なのかしら」
母は、また涙を浮かべている。すると、白い髪の小さな女の子が、母の頭を撫でた。それを見ていたポウロくんも、真似をして母の頭を撫でている。
「あら、まぁっ、ふふっ、ありがとう」
(もう、大丈夫そうね)
「じゃあ、扉を開けて。私達は島へ帰るから、ポウロくんは扉まで見送って欲しいな」
「扉の外まで、見送るわ」
母が騎士風の女性の方を見ると、スッと抱きかかえられた。母が痩せ細っているとはいえ、すごい力持ちね。
「ポウロ、ぼくはジュリエッタといっしょだからね。たいりくにきたときに、かしこいこといっしょに、きてね」
「うん、ふわしろスライムと、またあそぶよ」
ポウロくんは、すっごく寂しそうな顔をしている。お別れがちゃんと理解できているみたい。
ギィイッと、重い扉が開いた。
扉の外には、ぶよぶよなオジサン達や、多くの兵がいた。彼らは、母の姿を見て、目を見開いている。
「おまえ達、道を開けなさい」
(えっ? ランドルフくん?)
凛とした声で、ランドルフくんがそう命じると、兵達は慌てて後退した。
「お兄さん、アルくんの所に送って行こうか?」
「いや、俺には、まだ引き継ぎもあるからな。さすらいの荒野へは、自力で行くよ」
(確かに)
お兄さんは、とても優しい笑顔を浮かべている。
「ランドルフくん、私達は、ここから帰るよ。新たな国王、頑張ってね。それから、母とポウロくんのこともお願いするね」
「ジュリエッタ、もちろんだ。レッドスライムの王は、賢い子さんって呼べば良いのかな?」
「スライムには基本的に名前はないよ。ふわしろスライムさんが、賢い子って言い始めたから、それが名前みたいになってる。実際に、スライムと人間の英知が詰まっているから、賢いはずだよ」
私は、ぶよぶよなオジサン達にも聞こえるように、大きな声でそう答えた。頭のいい人なら、赤い髪の女の子がここに滞在することを察したはず。
「そうか、わかった。生みの親が付けた呼び名だな」
私が軽く頷くと、ランドルフくんもニカッと笑ってくれた。
「そろそろ、私達は帰るね。キララ」
私が話している途中から、キララはもう姿を変えていた。私が乗り込むと、また白い髪の小さな女の子は置いていかれないようにするためか、私に体当たりする勢いで飛び込んできた。そして、黒い髪の人化したスライムが乗った後に、ネイルが乗り込む。
「じゃあ、みんな、またね!」
キララの気球は、ふわりと浮かび上がると、転移魔法の光に包まれた。
◇◇◇
「うわぁ、もう真っ暗だね」
キララの気球は、海岸に到着した。そしてすぐに、キララは人の姿に変わった。
「時差も少しあるみたいだな。深夜かもな。ジュリちゃん、俺も腹が減ったぜ」
「ふふっ、じゃあ、黒い子も、オバサンのご飯を食べるといいよ。でも、オバサンは起きてるかな?」
黒い髪の人化したスライムと話していると、海岸にいた人化したスライム達が、騒がしくなっていった。しかも、どんどん増えていく。
(ん? 何?)
何かあったのかと、キョロキョロしていると、オバサンが家から飛び出してきた。
「ジュリ? 本当に帰ってきたのかい?」
(あー、そういうことか)
オバサンは、私はもう戻らないと思っていたのね。大勢の人化したスライムが集まってきてる。スライム神の姿まで見えるよ。みんな、すっごく驚いた顔をしてる。
「村長さん、私は帰ってくるって言ったでしょ? ふわしろスライムさんも居るよ」
「そうかい、帰ってきたんだね」
「私の家は、ここだからね。赤の王国の城で、母や弟にも会ってきたよ。詳しくはあとで話すけど、キララもネイルも大活躍だったよ」
オバサンは、珍しく涙を浮かべてる。やはり、この選択は正しかったのね。驚いていたスライム達も、だんだん笑顔になってきた。
「ジュリ、晩ごはんは食べたのかい?」
「まだ食べてないよ。黒い子も、お腹減ったって」
「ぼくも、おなかへったぁ〜」
白い髪の小さな女の子は、私の腕の中から飛び降りて、オバサンの方へと走っていく。
「まぁまぁ、みんな、早く入りな。おかえり」
「ただいま〜!」
オバサンは、そっと涙をぬぐって、いつも通りの笑顔を見せてくれた。
「もう夜遅いから、消化の良いものにしようかね。えーっと、ジュリとブラック、ふわしろスライムとキララも食べるのかい?」
すると、ネイルは何かを決意したように、オバサンの前に出た。
「オレも、食べてみます」
「ネイルもだね。じゃあ5人分か。みんな家に入ったらすぐに、手を洗うんだよ」
(ネイルも?)
「えっ? ネイルも、食べられるようになったの? あっ、練習してみるのね」
そう尋ねると、コクリと頷くネイル。キララも軽く頷いているから、できるのかも。
「ぼくが、ネイルに、たべかたを、おしえてあげるねっ」
白い髪の小さな女の子が、えへんと思いっきり胸を張った。薄暗い外だけど、あの塔の中で食べた赤いスープが服に飛び跳ねてるのが目立ってる。
「あらあら、白い服に、赤いソースがついてるね。ふわしろスライムには、エプロンが必要かい?」
「ちがうよっ。これは、スープだよっ」
なぜかドヤ顔をキメる、白い髪の小さな女の子。
(ふふっ、かわいい)
オバサンもキララもネイルも黒い子も、みんな穏やかな笑顔になってる。
「さて、急いでご飯を作らないとね」
オバサンは張り切って、家の中に入っていく。
「私も手伝おうかな」
「ジュリは疲れてるだろ? 気持ちは嬉しいけど、これは、私の仕事だからね。もう少し大きくなったら、手伝ってもらうよ」
(また、同じこと言ってる)
前世の記憶が戻ってから、何度か料理の手伝いをすると言ったことがあるけど、いつも、やんわりと断られる。たぶんキッチンは、オバサンのテリトリーだから、邪魔されたくないのね。
「あー! ジュリ、ご飯の前に、ふわしろスライムを風呂に入れてくれるかい? 靴を履いてないから、床が泥だらけだよ」
そういえば、いつからかポテポテ音がしなくなってた。白い髪の小さな女の子は、オバサンの後ろをついてまわってるから、床は小さな足跡だらけだよ。綺麗好きなオバサンとしては、キッチンが泥だらけになるのは耐えられないよね。
「はーい、わかったの」
私はこの島で、これからもずっと、かわいいスライム達と、楽しく笑って暮らしていきたいな。もちろん、オバサンも一緒にね。
───────── 〈完〉 ─────────
皆様、これにて本編完結です。
本編を最後まで読んでいただき、ありがとうございます♪
予定よりも少し長くなりましたが、ほんわかとした雰囲気で終わりました。この先のお話は、後日談で少し語りたいと思っています。
後日談は、2年半ほど経ったジュリ達の様子を描いています。明日更新します。よろしくお願いします♪




